図5 ブドウ球菌と腸内細菌科は庶民系

ブドウ球菌は庶民系

 ブドウ球菌は、現在、院内感染で最も問題となっている庶民系の一つです。庶民系は、なんでもよく食べる、つまり、あまり培地を選ばずに、いわゆる普通寒天培地で健やかに発育します。このように、庶民系は質素であるがゆえに、環境中でも逞しく生きることができます。例えば、黄色ブドウ球菌は、皮膚の表面からよく分離されますが、テーブルの表面等、食事や水がない場所でも数日~数週間は生きられます。
 元々、常在菌である、ということは、原住民であるとも言えます。原住民は、宿主と共生していることが多いので、通常は病気を起こしません。しかし、傷口から誤って侵入するなどして病気を起こすことがあります。もし、病気を起こしても、以前なら、抗菌薬を使って治療することが比較的容易でした。
 ところが、近年、庶民系の耐性菌が増えています。抗菌薬は、本来、悪さをしている細菌をやっつけるための武器です。毒と言い換えてもいいでしょう。ところが、この毒は悪さをしている細菌だけではなく、庶民系にとっても有害で、一部の庶民が犠牲となります。耐えて残った原住民の中から、抗菌薬が効かないものが出現します。つまり耐性菌です。やっかいなことに、通常は病気を起こしませんから、耐性菌の出現に気づかれにくいということがあります。また、庶民系は環境を介して伝播することがあります。宿主に定着しやすいこと、そして、環境中で生き残りやすいという、庶民系の適応能力の高さが、院内感染で問題となる最大の理由です。