研究概要 ポストコロナ期の新卒看護職員の臨床判断能力を培う学習活動の横断的ネットワーク構築

細田泰子のホームページ | 個人の研究・教育・社会貢献活動及び科研費による研究の概要と成果の公表

日本学術振興会 日本学術振興会 科学研究費 基盤研究(B)(一般)24K02725

研究期間

2024年度~2028年度

研究組織

研究代表者: 細田 泰子(大阪公立大学)
研究分担者:

片山由加里(同志社女子大学)
根岸まゆみ(静岡県立大学)
勝山 愛 (大阪公立大学)
長野 弥生(大阪公立大学)
水引 智央(大阪公立大学)

研究協力者: 古川 亜衣美

研究の背景

日本看護系大学協議会が2020年に実施したCOVID-19に伴う看護学実習への影響調査では、臨地での実習中止が74.1%を占め、遠隔授業形式や学内実習などの代替実習に変更となった(日本看護系大学協議会看護学教育質向上委員会, 2021)。日本看護協会(2024)の病院看護実態調査では、2022年度の新卒看護職員の離職率は10.2%であり、2005年以降の調査で最も高くなった2021年度の10.3%から横ばいで推移し、COVID-19による成長・成熟への影響が懸念され、看護師教育は厳しい状況に直面している。ポストコロナ期の新人看護職員の臨床教育は重要な課題である。

少子高齢化社会での地域包括ケアシステム構築の推進に向け、保健師助産師看護師学校養成所指定規則の第5次改正における看護師教育では、臨床判断能力を養うことが求められている。米国のThe National Council of State Boards of Nursing (NCSBN)は、2023年から看護師資格試験を刷新し、受験者の臨床判断能力を評価している。NCSBNは、臨床判断を「クリティカルシンキングと意思決定の実際の成果」と定義し、2019年にThe NCSBN Clinical Judgment Measurement Modelを提示している(Dickson et al., 2019)。日米ともに学生から看護師へのトランジションにおける臨床判断能力の育成が急務とされている。厚生労働省が作成した新人看護職員研修ガイドラインに基づく臨床研修制度は整いつつあるが、新卒看護職員個々の能力開発に向けたディベロップメントアプローチは十分とは言い難い。

米国オレゴン州では、臨床判断を含むコア・コンピテンシーを基盤にOregon Consortium for Nursing Educationが展開され、組織のバウンダリーを超えた知の連結が推進されている。Nielsenは、この取り組みに臨床判断を育成する学習方略としてCBLAsを導入した。CBLAsは、1)学習者の準備、2)患者選定、3)情報収集、4)患者アセスメント、5)ケアについて考える、6)患者回診の6ステップからなり、重要なコンセプトを学習する(Nielsen, 2009)。CBLAsは、看護ケアにおける重要なコンセプトを深遠に学ぶことができる方略であり、看護学生の臨床判断の発達に効果があることが明らかにされている(Lasater & Nielsen, 2009)。また、CBLAsが理論と実践を統合した深い学びを促進し、それを患者に適用する経験が臨床判断を支援することが明確になっている(Nielsen, 2016)。

Tanner et al. (2022)は、看護における臨床判断を「患者のニーズ、関心事、または健康問題についての理解や推論」と定義し、行為をするかどうかの決断としている。臨床判断の影響要因および気づき、解釈、反応、省察の各様相に具体的な構成要素を示した。これまでCBLAsは主に学士課程の学生の教育に用いられており、最近は看護師の学習にも取り入れられているものの、その知見は希少である。本邦では、看護学実習において侵襲の伴う看護技術を実施する機会が少なく、日米の臨床教育の違いを鑑み、改訂版の臨床判断モデルを用いて、新卒看護職員にCBLAsを導入する発展的な取り組みが必要である。CBLAsを新卒看護職員の教育に用いることは継続教育に新たな知見を提供する。

新卒看護職員の臨床判断能力の開発に向け、Engeström (2008/2013)の拡張的学習の理論を用いることで、CBLAsの教育資源を活用し、病院、地域、大学、海外のつながりを創発する新人看護職員の学習活動の横断的ネットワークづくりが求められる。

【文献】
  • Dickson, P., Haerling, K. A., & Lasater, K. (2019). Integrating the National Council of State Boards of Nursing Clinical Judgment Model into nursing educational framework. Journal of Nursing Education, 58(2), 72-78.
  • Lasater, K. & Nielsen, A (2009). The influence of concept-based learning activities on students’ clinical judgment development. Journal of Nursing Education, 48(8), 441-446.
  • Nielsen, A. (2009). Concept-based learning activities using the clinical judgment model as a foundation for clinical learning. Journal of Nursing Education, 48(6), 350-354.
  • Nielsen, A. (2016). Concept-based learning in clinical experiences: Bringing theory to clinical education for deep learning. Journal of Nursing Education, 55(7), 365-371.
  • 日本看護系大学協議会看護学教育質向上委員会(2021). 2020 年度 COVID-19 に伴う看護学実習への影響調査 A 調査・B 調査報告書. Retrieved from https://www.janpu.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/04/covid-19cyousaAB.pdf (閲覧2024年8月12日).
  • 日本看護協会(2024). 2023 年 病院看護実態調査 報告書. Retrieved from https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/100.pdf (閲覧2024年5月12日).
  • Tanner, C. A., Messecar, D. C., & Delawska-Elliott, B. (2022). Evidence-based practice. In L. A. Joel (Ed.), Advanced Practice Nursing: Essentials for Role Development (5th ed.) (pp.221-238). Philadelphia: F. A. Davis.
  • Engeström, Y. (2008) /山住勝広, 山住勝利, 蓮見二郎訳 (2013). ノットワークする活動理論:チームから結び目へ. 東京: 新曜社.

研究目的

本研究では、Concept-Based Learning Activities(CBLAs)の活用可能性と教育資源を検討し、ポストコロナ期の新卒看護職員の臨床判断能力に関する調査に基づき、プロジェクト学習を構成することを目指している。新卒看護職員の臨床判断能力を培う学習活動の横断的ネットワークを構築するCBLAsを用いたプロジェクト学習を実施し、その効果を検証することを目的としている。

研究方法と成果の概要

1) 米国におけるCBLAsに関する視察

学生が重要なコンセプトを深く学ぶ教育デザインとしてCBLAsを開発し、教育に導入しているOregon Health & Science University(OHSU) 看護学部を訪問し、CBLAsの教育方略や評価について専門家よりレクチャーを受け、意見交換を行った。また、CBLAsに活用される病理学の授業を聴講し、看護学部の学生と交流会を実施した。OHSU Hospital とSimulation & Clinical Learning Centerを見学し、看護学部の教員よりCBLAsを用いた教育の実際について聴取した。

OHSU School of Nursing
CBLAsのレクチャーと意見交換

veteran
OHSU Hospital
Simulation & Clinical Learning Center

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