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理論予測と実証実験で明らかに! 新しい磁性体「交替磁性体」特有の“指紋”を発見

2024年4月24日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

◇近年注目を集める新たな磁性体「交替磁性体」の同定方法を、理論・実験の両面から検証。
◇交替磁性体にのみ見られる特有のX線磁気円二色性(XMCD)応答を、理論的に予測。
◇XMCD測定実験により、理論予測が正しいことを実験で実証。

概要

2022年に新たに提案された「交替磁性体」は、ハードディスクなどの記憶メディアに使用される「強磁性体」と、磁場の大きさ・方向を計測する磁気センサなどへの応用が進む「反強磁性体」の両方の性質を併せ持つ、新たな磁性体です。交替磁性体は、超高速な情報処理が可能な記憶メディアへの応用などが期待されており、既存の磁性物質の中から交替磁性体を探し出す方法の確立が求められています。

大阪公立大学大学院工学研究科の播木 敦准教授と山口 達也大学院生(当時 博士前期課程2年)の研究グループは、ウィーン工科大学のJan Kuneš教授らの研究グループと共同で、交替磁性体の候補物質であるα-MnTeを対象に、交替磁性体の同定方法を理論・実験の両面から検証。交替磁性体特有の“指紋”(X線磁気円二色性(XMCD)スペクトル1)をスーパーコンピュータによる理論シミュレーションで発見し、英国の大型放射光実験施設Diamond Light SourceでのXMCD測定実験により、本スペクトルの実験的実証に世界で初めて成功しました。本成果は、交替磁性体の簡単な同定や性能評価にXMCD測定が有効手法であることを示しており、交替磁性体のスピントロニクスへの応用をより一層加速させると期待されます。

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図1 交替磁性体に円偏光したX線を入射する様子

本研究成果は、米国物理学会が刊行する国際学術誌「Physical Review Letters」に、2024年4月23日に掲載されました。

実験に先駆けて行った理論計算では、信頼性のある予言スペクトルを得るために何度も検証を重ねて計算を行いました。最終的に理論計算と検証実験の結果が完璧に一致したときは嬉しかったです。

今後は、XMCDを用いて新しい交替磁性体の同定や性能評価が行われることを期待します。自分の携わった研究成果が、このような形で世に出ることを光栄に思います。

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山口 達也大学院生

掲載誌情報

【発表雑誌】Physical Review Letters
【論文名】X-ray Magnetic Circular Dichroism in Altermagnetic α-MnTe
【著者】A. Hariki, A. Dal Din, O. J. Amin, T. Yamaguchi, A. Badura, D. Kriegner, K. W. Edmonds, R. P. Campion, P. Wadley, D. Backes, L. S. I. Veiga, S. S. Dhesi, G. Springholz, L. Smejkal, K. Vyborny, T. Jungwirth, and J. Kunes
【掲載URL】https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.132.176701

資金情報

本研究は、日本学術振興会 科研費 若手研究(21K13884)、基盤研究B(21H01003)、基盤研究C(23K03324)、学術変革領域研究B(23H03816、23H03817)、2023年度大阪公立大学戦略的研究推進事業(若手研究者支援)による支援を受けて行われたものです。

用語解説

※1 XMCDスペクトル…XMCD法では、高いエネルギー(約645電子ボルト)のX線を照射することで、Mn原子の2p内殻電子を、交替磁性を担うMn 3d軌道(バンド)へ励起する。右回りと左回りの円偏光で励起(吸収)強度が違うことに加えて、Mn 2p内殻軌道にできる正孔とMn 3d電子の間の相互作用(多重項効果)により振動構造が生じる。この構造は磁性状態に固有で“指紋”と見なすことができる。

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院工学研究科
准教授 播木 敦(はりき あつし)
E-mail:hariki[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学 広報課
担当:竹内
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

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