研究紹介_01

OUR RESEARCH
がん細胞の特性を
分子のレベルで解明する
機能生化学研究室 加藤 裕教 教授

がんの悪性化は、非常に複雑で多くの過程を介して進行することが知られています。また、がん細胞が自ら増殖、浸潤していく際には、栄養飢餓など様々なストレスにさらされますが、がん細胞は新たな特性を獲得することによって生存し続けることができます。当研究室では、神経膠芽腫などの悪性度の高いがん細胞で特に働いている代謝経路や細胞の運動性を制御するシグナル伝達経路、さらには免疫応答調節によるがん細胞への影響に着目し、以下の内容で研究を進めています。

1)当研究室では、がん細胞において発現が上昇しているアミノ酸トランスポーターSLC7A11 (xCT) によるシスチンの取り込みが、グルコース欠乏条件下でNADPHの枯渇を伴った細胞死(ジスルフィドトーシス)を引き起こすことを発見しました。また、鉄イオン依存的に過度に酸化された脂質が蓄積することによって引き起こされる細胞死、フェロトーシスが、多くのがん細胞で誘導されることが報告されています。当研究室では、がん細胞においてこれらの細胞死がどのように誘導され制御されているかについて、分子レベルで明らかにしていきたいと考えています。

2)Rhoファミリー低分子量Gタンパク質は、細胞の形態や運動性を制御するシグナル伝達において重要なスイッチの役割を担い、がんの浸潤、転移にも大きく関わっていることが明らかにされています。当研究室では、RhoファミリーGタンパク質を介した細胞機能とその活性制御について解析を行い、がん細胞の運動性に関わる新たな分子機構を明らかにしていきたいと考えています。

3)免疫細胞は、がん細胞の増殖や悪性化に深く関わります。なかでも、免疫細胞の活性化によって産生される活性酸素種は、フェロトーシスを促進する要因の1つとして作用します。当研究室では、このような免疫細胞の生体防御応答が、がん細胞の代謝や細胞死感受性をどのように制御しているのかを、分子レベルで解明することを目指しています。

以上の研究内容について、私たちはゲノム編集技術を用いて特定の遺伝子を欠損させたがん細胞を独自に樹立し、生化学的解析、分子生物学的解析、イメージング解析技術を駆使することで、がん細胞の生存性や運動性において重要な働きを担う分子メカニズムを新たに発見することを目指すとともに、がんの発症や進行に対する創薬への可能性を探っていきたいと考えています。