研究紹介_04
化学標識法と
拡張型リガンド結合法を
機軸とした創薬化学
当研究室では、創薬に資する化学反応の開発と化学者の経験知に計算科学を融合した低分子創薬に挑みます。具体的には、創薬の概念実証に有効な生体イメージング法として、放射性PETイメージング、超偏極MRIイメージング、および、近赤外光イメージングの化学標識法を創出します。生体イメージングは将来的に医薬品認証時に欠かせない吸収・分布・代謝・排泄等の科学的根拠データになると見込まれており、次世代の創薬に必須の学問分野です。
PET研究においては、これまでに炭素−炭素結合による実用的11C-メチル標識法を開発してきました。実際に本法を用いて、ビタミンB1等の天然物をはじめ創薬候補化合物の11C-標識化体を合成し、続いて、薬学・医学との共同下に小動物からヒトのPETイメージングを実施してきました。本件と並行して、放射線被曝の心配がないMRIイメージングや光イメージングに着目した新しい化学標識法にも取り組んでいます。なお、化学標識法に関しては、今後は触媒や反応剤を使わない分子間結合形成反応の創製にも挑みます。


一方、生物活性を持つ低分子リガンドの開発に関しては、標的タンパク質の辺縁外部から結合親和性を補完する独自の拡張型リガンド結合法を推進します。例えば、低分子リガンドが標的タンパク質に結合する際に、結合に直接関与しないタンパク質ポケットの外部辺縁側からフッ素−水素結合による結合親和性の補完を狙います(フルオロアルキル基の導入によるリガンド結合補完法)。本件に基づいた分子設計は薬剤の活性増強に有効であり、既存のフラグシップ薬剤であるSN-38(抗がん剤)やSB-366791(TRPV1阻害剤)の基本構造に対して新たにフルオロアルキル基を導入することで、それぞれの薬剤活性を2−3倍向上させることに成功しています(10-
O-フルオロプロピル置換SN-38(抗がん剤)やN-メチル-3-O-フルオロプロピル置換SB366791(TRPV1阻害剤)等)。
当研究室の最終目標として、上記の研究で創製した低分子リガンドを先進の薬物送達技術と融合することで、臨床医学のセラノスティクス(診断と治療)に応用展開していきます。

