先生と本棚
2026年2月4日
建築の世界への扉となった本 |山口陽登(講師/建築史・建築デザイン研究室)
この連載では、建築学科の先生方におすすめの本をインタビューしていきます。
第3回は、建築史・建築デザイン研究室の山口陽登先生です。山口先生には、建築の世界への扉となった1冊を紹介していただきました。

小嶋 一浩『アクティビティを設計せよ!-学校空間を軸にしたスタディ-』(彰国社)
――今回選んだ本の概要を教えてください。
この本は、私たちの世代ではとても有名な本です。「読む」というか、「見る」「眺める」という感じで味わう本ですが、たくさんの気づきを与えてくれます。建築家の小嶋一浩さんの視点から学校の空間や風景、日常のワンシーンが解説されていて、写真だけど図面のようでもあるし、図面のようでもあるけれど読み物になっている。こうした不思議なアウトプットが、山ほど掲載されています。だから私にとっては、まったく右も左もわからない建築の世界への扉として、ものすごく効果的でした。これが建築を学ぶということなのかもしれない、こんなふうに普段の風景を見ていけばいいのだと、教えてくれた本です。

山口先生の事務所にて
――この本との出会いや思い出を教えてください。
この本に出会ったのは、2回生のときです。当時の私は、建築の「ケ」の字もまったくわからないバスケット少年でした。建築学科に入ったのだから建築をきちんと勉強しようと思い、とりあえず本屋さんに行ったものの、難しいしよくわからない。そんな中で、この真っ黄色の目立つ本に目が留まりました。手に取ってみたらほとんど文章がなくて、さまざまな写真の上に文字と数字がポンポンと置いてある。これなら楽しんで読めるというか、「見られる」かもしれないと思って買ったのが、この本との出会いでした。
この本の中に、16世紀の画家・ビーテル・ブリューゲルの『子供の遊戯』という絵画が掲載されています。「え! ブリューゲルからそんなことも考えられるのか」と思うような、まったく接続されるはずのない絵画と建築の世界が、小嶋さんの解説を通してつながっていく。建築を学ぶということは、あらゆるものごとを建築として捉えていくことなんだと知り、また建築って面白いなと思わせてくれました。

――現在の研究と関係していることを教えてください。
私は設計をしているので、この本とわかりやすく関係していると思います。オランダの《クンストハル美術館》(1992年)というOMAが設計した名作をこの本で見て、そして実際に見に行って、スロープの力をとても強く実感しました。
私が愛媛県で設計した《佐田岬はなはな》(2020年)も、影響を受けている気がします。タイトルに「アクティビティを設計せよ」と書いてあるように、私にとってこの本は、人の動き、人が自由にふるまうための設計案集という感じがする。空間のアイデア、人の居場所をつくるということを、この本から学んだように思います。

山口陽登 やまぐち・あきと
1980年大阪府生まれ。一級建築士。 大阪市立大学工学部建築学科卒業後、同大学大学院修士課程を修了。株式会社日本設計に勤務した後、13 th archiforum in OSAKAコーディネーター、シイナリ建築設計事務所主宰、大阪市立大学・大阪工業技術専門学校・関西大学・大阪芸術大学・武庫川女子大学非常勤講師を経て、現職。 受賞にJIA関西建築家新人賞など。
ホームページ : https://y-a-p.jp/
公共建築の設計を通して、マイノリティにアプローチする
山口先生は公共・民間を問わず、さまざまな建築を設計している建築家です。 近年では《佐田岬はなはな》(2020年)や、渋谷の立ち飲みスタンド《スタンドうみねこSiB100》(2023年)などの設計を手がけました。こうした設計活動と並行して、マイノリティのための空間を研究しています。また設計演習の授業では山口先生独自の想像力や言語化力をもって、生徒それぞれの考えの面白さを見出し、枠にとらわれないような気付きを得られる授業をしています。
2025年04月04日 YAPオフィスにて
取材・写真/伊藤舞織(建築学科3年)、吉原涼花(建築学科3年)
まとめ/伊藤舞織