先生と本棚
2025年1月17日
【先生と本棚】現場と建築家、専門家たちの熱い想いが新たな建築を生む|西野雄一郎(講師/建築計画研究室)
この連載では、建築学科の先生方におすすめの本をインタビューしていきます。
第1回は、建築計画研究室の西野雄一郎先生です。西野先生には、建築という、人との協働が不可欠な仕事を目指す学生たちに読んでほしい1冊を紹介していただきました。

前川恒雄『移動図書館ひまわり号』(筑摩書房)
――今回選んだ本の概要を教えてください。
この本は、1960~80年代に、日本の公共図書館のあり方を大きく変えた1人の館長の取り組みについて書かれたものです。それまでの図書館は本の貸し出しがほとんどなく、書庫にある本を出してもらってその場で読むという形式で、本を借りるには身分証明書やお金が必要な場合さえもありました。それではだめだと思った前川恒雄さんは、それまで図書館が1つもなかった東京都日野市に、1台の移動図書館から始めて、市民のための図書館を地域に整備していきます。この最初の1歩である移動図書館の稼働に取り組むうちに、さまざまな立場の人たちが図書館の魅力を感じて建設に向けて動き出していく――その過程がこの本には描かれています。

本のとびら
――今回この本を選んだ理由を教えてください。
従来の公共システムや建築を変革する熱を帯びた個人史として、建築を学ぶ者に勇気を与えるからです。前川さんが移動図書館からはじめて本の貸し出しを普及し、図書館をつくり、図書館システムを変革していくストーリーが当時の時代描写とともに描かれていて、読み始めると止まらなくなる面白さがあります。
この本には日野市に中央図書館が建てられるまでの、涙が出るくらい熱い想いが詰まっています。そして、その熱量に触れると、周囲の人までもがただならぬパワーを発揮できるということを教えてくれるので、ぜひ読んでもらいたいです。また、場所をつくることの意味、建築をつくる魅力や責任、現状を打破しようと活動から始めることの現代性と社会的意義など、さまざまなことも示しています。

研究室でのインタビューの様子
――本を通して学んだこと、現在の研究と関係していることを教えてください。
本の中で、ついに中央図書館をつくることになり、設計者として選ばれた鬼頭梓と前川館長が、図書館の設計について意見を対立させる場面があります。前川館長はとても信念の強い方でしたが、設計者が空間の大切さを熱く語ったとき、その想いを認めて館長が折れるんですね。設計者の熱い想いとそれを良いと言い切る力、建築の専門家として良いものを作るという意識、使命感を持つことが大事だと感じました。
研究と関係していることとしては、移動図書館は暑い日も寒い日も雨の日も活発に活動している一方で、現場に足を運ばずなされる理論や提言が、現場の困難をいっそう大きくしているというような記述があります。研究をするにしても、本当にその場所のことを知らずに上から目線でこうしたらいいと言うのではなく、最新の考え方や提言は実際に現場に身を置いてするべきだということに、強く共感しました。自分の中でのこのような意識を改めるためにこの本を読むし、みんなにも知ってほしいと思います。

西野雄一郎 にしの・ゆういちろう
1985年大阪府生まれ。一級建築士。株式会社大林組建築設計部に勤務した後、福岡大学工学部建築学科助教を経て現職。
Facebook : https://www.facebook.com/yuichiro.nishino.9/
「つくる」を開くリノベーションの研究
西野先生は、使われなくなった空き家や廃校、店舗などを再生し、地域に新たな力を生み出す方法を探求しています。例えば、空き教室の再生に関する研究では、中学生が設計・施工して教室を新たな場につくり変える参加型デザインの方法を実証的に示し、日本建築学会奨励賞(2022年)や日本建築家協会JIAゴールデンキューブ賞(2017年)を受賞しました。研究室では、長屋や店舗、カフェ、子どもの居場所など、さまざまな場づくりを実践し、研究しています。
2025年04月28日 C419教室にて
取材/伊藤舞織(建築学科3年)、三昌珠海(建築学科3年)、吉原涼花(建築学科3年)
まとめ/三昌珠海
写真/吉原涼花