卒業生訪問

2026年8月7日

未来の“あたりまえ”をつくる|田嶋大樹(商品開発)

大阪市立大学で学生時代を過ごした田嶋大樹さん。

卒業後は大手の住宅メーカーである積水ハウスに就職され、20年近くも商品開発に携わり活躍されている。大学時代は建築環境工学の研究室で学ばれたが、入社後は建築工法から構造設計、内装設備開発に関わりながら、新しい製品や住宅の工法を生み出し続ける。

多様な部署での経験と、商品開発というお仕事の影響力について、田嶋さんにお話をうかがった。


田嶋さんメイン

仲間との学生生活

——部活動をされていたとお聞きしましたが、学生時代の思い出についてお聞かせください。

田嶋 部活はゴルフ部に入っていて主将をやっていました。週2回の練習と、休日はゴルフ場でアルバイトをしていたので、結構忙しかったです。部活は4年生まで続けていましたが、設計課題の提出前などは忙しくて、練習に行けていなかったのが実情でした。

授業は、設計よりも座学のほうが得意でした。設計課題はやらざるを得ないという必死さで取り組んでいましたが、製図室にみんなで集まって一緒にすすめていたので、 合宿みたいで楽しかったです。一人だったらきっと耐えきれなかったでしょうね(笑)。夜遅くまで一緒に製図や模型づくりなどの作業をして、アイデアに行き詰まったらコンビニまで夜食を買いに行ったり、下宿している人の家に泊まらせてもらったりして、また戻ってなんとか完成させて。楽ではなかったけど、とても楽しかった記憶があります。

——今もまったく一緒です。私たちも同じ教室で話しながら設計しているのが楽しいです。4年生では、なぜ環境系の研究室を選ばれたのですか。また当時、どんな研究をされていましたか。

田嶋 もともと住環境のような分野に興味があった、というのが理由の一つだと思います。ただ、当時はそこまで深く考えて研究室を選んだわけではなく、いくつかある選択肢を削っていく中で、結果的に一番自分の興味が残ったのが環境系だった、という感じに近いですね。卒業論文では、空調をどのように配置すれば効率よくできるかをテーマに、実験とCFD解析(数値流体力学)の両方でシミュレーションを行い、その相関性を調べてまとめました。

好奇心と偶然から開発という仕事へ

——就職活動をする時点で、すでに商品開発のお仕事を志されていましたか。興味を持ったきっかけやタイミングを教えてください。

田嶋 就職活動をしていた頃は、僕はまだ商品開発という仕事の存在自体をほとんど意識していませんでした。当時は、今のような職種別採用は一般的ではなく、設計も施工も開発も一括で採用される形だったので、配属については完全にたまたまだったと思います。

——そのように職種を選べない状況の中で、ハウスメーカーに興味を持った理由を教えてください。

田嶋 2000年代当時は「就職氷河期」と呼ばれる時代で、就職自体が非常に厳しい時代でした。それもあって、大学院への進学を決めた人も多かったです。しかしそんな中でも、僕自身は早く社会に出て働いてみたいという好奇心が強く、学部卒で就職することを選びました。

もともと住宅そのものに興味があったので、ハウスメーカーなら自分に合うかもしれないと思って採用試験を受けました。さらに、僕に関しては思ったよりもとんとん拍子に話が進んで、内定を早くもらえたこともあって、これも何かの縁かなと思い、入社を決めました。

住宅の基盤をつくる

——2003年に入社して最初のお仕事について教えてください。

田嶋 入社直後は「施工開発部」という部署で、現場が施工しやすくなるような工法を開発していました。例えば、その頃に僕が携わった仕事の一つが「天井先張り工法」というものです。従来の施工では、壁が全部立った後に天井石膏ボードを張っていたため、天井と壁の取り合いをきれいに処理する手間がありました。その手間を解消するために、天井に先に張ってその後に壁を立てるという順番を考えました。今ではほとんどの建物で、この工法が採用されています。


田嶋さん1

——その後は、どのような部署を経験されましたか。

●田嶋さんが携わった部署

2003年 入社

     施工開発部 建築施工研究室

2011年 総合住宅研究所 技術研究室

2011年 開発部 シャーメゾン商品開発室

2014年 設計部 構造システム室

2015年 開発部 シャーメゾン商品開発室

2018年 商品開発部 商品技術開発室

2019年 建築事業開発部

2021年 建築商品開発部 シャーメゾン商品開発室

2025年 建築商品開発部

田嶋 施工開発部で工法の開発をしていた縁で、入社8年目(2011年)からは「総合住宅研究所」という自社の研究所で新しいシステム・構法の開発をしていました。例えば、プレハブの鉄骨フレームや壁における耐火構造を開発したり、「新しい免震住宅を開発してほしい」といった、最初は漠然としたリクエストから構法を具体化していくような開発をしたりしました。この総合住宅研究所に在籍していたのは1年弱というとても短い期間でしたが、大学で専攻していない分野を、再度必死に学び直しては実験して、の繰り返しで、それはとても面白い経験でした。

同じ年に、今度は会社が「シャーメゾン」という賃貸住宅ブランドの部門に力を入れることになり、その開発に関わるようになりました。具体的には、シャーメゾンの開発を一つの部門として独立させ、その初期メンバーとして体制を整えるところから始まり、メーカーさんと協働して、賃貸住宅に必要なさまざまな内装やシステムを新しく開発し、かたちにしていきました。つまり、新しくシャーメゾンを建てるときは、敷地や条件に合わせて、支店がこの中から内装や設備を選んで設計していく。僕たちはそのための基盤を整えたわけです。

——田嶋さんはこの頃から、商品開発のお仕事に携わるようになったんですね。しかしその後、今度は構造設計の部署も経験されています。

田嶋 3年後の2014年からは、構造設計部門を強化するということで、設計部の中に構造に特化した「構造システム室」という部署を新設することになり、再び新部署に立ち上げから関わることになりました。計算には構造系のソフトを使用しますが、僕は大学時代に構造系の研究室だったわけではないので、教科書などで勉強し直しながら構造設計をやっていました。それが1年ちょっとぐらいですね。

ここから先は、今に至るまでずっと商品開発に関わっていますね。急遽、外装材も新しく開発してほしいという辞令があり、2015年に再びシャーメゾンの部門に戻り、今度は外装中心に、バルコニーなどの開発に携わりました。2018年からは戸建、シャーメゾン全体の内装商品の開発にも携わりました。

その後、2019年からは、商品開発部という部署の中にあった賃貸住宅の開発部門を新しく「建築事業開発部」として独立させ、また初期体制づくりに携わりました。これまでは戸建、賃貸、非住宅を一つの部署で開発していましたが、独立した組織とすることで、販売部門(全国の支店)とより深く連携を取り、開発の速度感や意思決定の明確化を図った組織改革です。

賃貸住宅は、ハウスメーカーの中でも成長分野です。建設と不動産としての管理の両方で利益が出るので、会社の売り上げの半分以上を占めているんです。そんな分野の開発は、やはりその一つひとつが実績に大きく影響するので、やりがいがありますね。

そして2021年からは、現在の部署で、再びシャーメゾンの内装設備の開発に携わっています。

——田嶋さんが、想像以上に多岐にわたる分野を経験されてきたことに、とても驚きました。また、新しい事業部門の立ち上げに関わられていることも多いように感じましたが、それは何か理由があってのことなのでしょうか。

田嶋 社内でも、こんなふうにいろいろな部署に関わっている人間は、あまりいないと思います。こうした役回りなのは、僕自身のキャラクターも理由なのかもしれません(笑)。しかし僕自身も、部署の立ち上げに携わったり、外装、内装、構造と、さまざまな分野の開発を行き来したりすることは、とても面白いと感じています。新しい構法や商品を提案し生み出していくごとに、また新しいテーマやリクエストが与えられ、チャレンジする機会が次々に生まれてしまうんですね。

自分のこうした環境は、入社して最初に施工開発部に配属されたことが、大きく影響しているようにも思います。大阪・茨木市の建築施工研究室では、内装材や外装材だけではなく、増築のための工法なども開発していました。それも、たった8、9人ぐらいのメンバーで。結果として、いろいろなジャンルの商品開発の知見を得たので、その先の部署移動で、僕を動かしやすくなったのだと思います。新しくできた部署に配属されるのは、仕事のやり方や細かい内容が決まっていないという大変さもありましたが。


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一つの図面が何万棟もの建物になる仕事

——ここからは、現在のお仕事についてお聞きします。在籍されている「建築商品開発部 内装設備開発グループ」の概要を教えてください。

田嶋 内装設備開発グループは、現在、下地関連の担当が4人、仕上げが5人、設備が4人と、全体の管理をする僕という、合計14人で構成されています。主な仕事内容としては、建具や床板や造作などの仕上部材の開発です。加えて、設備部材や、インフラの給排水や換気、壁下地、天井下地の開発もやっています。要するに、住宅の中の内装設備に関すること全部が、このグループの担当範囲に含まれています。

他にも、最近ではZEH(「ゼッチ」。ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略)が話題になることがありますが、新しいGX試行型住宅というさらに厳しい住宅性能基準に対応するための開発も、みんなで一緒に担当しています。

——今までたくさんの商品の開発に関わられたと思います。その中で最も心に残っているものについて、詳しくお聞きしたいです。

田嶋 賃貸住宅では、上下階からの音が気になるというお客さんの声がとても多いんです。それを聞いて、「シャイド55」という高遮音床を2010年に開発しましたが、遮音性をさらに高めた「シャイド50」という商品を、2015年に新たに開発しました。「シャイド50」は、床衝撃音を低減する装置を天井下地に組み込むことで、コンパクト化も実現しています。開発後も改善設計を続け、仕様改善を通じて年間約10数億円のコストダウンを実現しています。良い成果につながって、とても嬉しかったですね。また、開発過程ではメーカーさんをはじめ、たくさんの人たちと関わったこともあり、強く記憶に残っています。

僕たちが描いた図面や、開発した製品は、その後大量に建てられる住宅で展開されます。だから、もしここでミスがあれば、何千棟、何万棟にも影響する。そのプレッシャーの中で、さらに性能を維持しながらコストを抑えるにはどうすればいいか。こうした挑戦は、非常にやりがいがありました。

やっぱり、自分のつくったものが街じゅうで使われていると嬉しいですよね。実際に、高遮音床は積水ハウスの住宅のほとんどすべてに標準採用されているし、今まで開発に関わった他の商品も、それぞれがいずれかの賃貸住宅に採用されています。大きなプレッシャーがある中でも、そういう嬉しさがやりがいにつながっていくと感じます。

——現在携わっているお仕事についてもお聞かせください。

田嶋 グループとしては商品開発の仕事をしていますが、現在の僕の仕事は、グループの人たちの仕事を見て、アドバイスしたり、進捗を管理したり確認したりすることです。グループを管理する立場としては、思った通りに仕事が進んでいないと歯痒さを感じたり、人に仕事を頼みづらく思ったりすることもあります。

しかし、自分がやりたいと思っていることは、やっぱりいろいろな人たちを通じて実現できるわけじゃないですか。それに、13人分の仕事を見るので、自分一人のときよりも関わる範囲が一気に広がって、経験値も増していく。そんな楽しみもあるし、みんなが成⾧していくのを見られるのが、本当に楽しいですね。

でもやっぱり、メンバーから相談を受け、「こうしたらいいんじゃないか」みたいな話をしながら一緒に試作をするときなど、自分で手を動かすことの楽しさも捨て切れません(笑)。


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——ここまでさまざまな分野を経験されてきた田嶋さんが、今新しくやってみたいと考えていることは何ですか。

田嶋 今あらためてやってみたいと思っているのが、住宅のプロトタイプ(型)のリニューアルです。

具体的に説明すると、積水ハウスは創業した1960年に「セキスイハウスA型」という会社初のプレハブ住宅を開発し、住宅の工業化という挑戦にその一歩を踏み出しました。そして翌年1961年に、「A型」を改良して発売したのが「セキスイハウスB型」です。この「B型」は現在も主力商品の原点となっています。長い年月の中で多少のバージョンアップはされたものの、発売から65年が経過した今でも、基本的には「B型」の躯体システムが、戸建住宅と賃貸住宅の両方で採用されているんですね。3階建てだけは、1995年に新しい型ができましたが、しかしそれでさえ、30年が経っている(笑)。これだけの時間を経てもなお、現在もあたりまえのように使用されているプロトタイプを考えた当時の開発者たちは、本当にすごいなと思います。

昔、総合住宅研究所にいた頃に挑戦したんですが、期間が短かったこともあってうまくいかず、完成しなかったんです。でもすごく面白かった記憶があるので、またやってみたいなと思っています。バージョンアップや新しい仕組みの追加は進んでいますが、その根底はやはり「B型」から変わっていません。免震構造にするのか制震構造か、木造か鉄骨造かなど、一から躯体を考えるという、未来の住宅生産の根幹をつくることに挑戦してみたいですね。

学生へのメッセージ

——最後に、学生に向けてメッセージをお願いします。

田嶋 大学で学んだことが仕事で直接役立つことももちろんありますが、そうじゃないこともたくさんあります。例えば僕自身も、会社に入ってから免震構造を考えることになって、学生時代の本を見て建築構造を勉強し直しました。もちろん、さまざまな知識や経験を持っていることに越したことはありませんが、社会人になってからだって、いくらでも勉強や経験を積むことは可能だと、僕は思っています。

興味がないことにはなかなか力が入りづらいかもしれませんが、何事においても、まずはやはり好奇心が一番の糧になると思うんですね。うちの新入社員たちを見ていても、好奇心を持って仕事に取り組んでいる子たちのほうが、やはり圧倒的に成⾧が早いように感じます。だからどんなことに対しても、まずは楽しめそうな部分を探してみてほしい。そうすれば、きっと知識や能力も後からついてくると思います。

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田嶋大樹 たしま・だいき

1980年大阪府生まれ。2003年大阪市立大学工学部建築学科卒業。同年より株式会社積水ハウスの施工技術開発部に勤務。総合住宅研究所や設計部、商品開発部にて、新しい構法や設備、外装材や内装材などの開発に携わった。

2025年10月27日 積水ハウス本社ビルにて
聞き手/榊原千晴(建築学科2年)、丸尾花子(建築学科2年)、濱田慶次郎(建築学科2年)、島田みのり(建築学科4年)、山口陽登(建築史・建築デザイン研究室講師)
まとめ/榊原千晴、丸尾花子、濱田慶次郎
人物写真/島田みのり
編集協力/贄川 雪(外部)

※学年は取材当時