卒業生訪問

2026年3月30日

「トータルマネージャー」として設計と現場をつなぐ|小林拓翔(施工管理)

大阪市立大学を卒業後、竹中工務店に入社した小林拓翔さん。

現在は施工管理担当として、建設プロジェクトの最前線で指揮を執っている。設計者の意図を汲み取りつつ、現場の安全と品質を守り抜く。

そんな建物の「トータルマネージャー」としての重責を担う小林さんは、現場の課題にどのように立ち向かっているのだろうか。

01_メイン

人と関わる仕事がしたい

―― 建築分野を目指すことになったきっかけは、どのようなものでしたか。

小林  もともとマンションに住んでいたのですが、小学生の時に新築の一戸建てに引っ越しをしたんです。その際に、住宅メーカーの方が私たちにも「この家はこんな家だよ」「ここが子ども部屋だよ」と、とてもフレンドリーに説明をしてくださった記憶が強く残っていました。

その後、大学進学で学科を選ぶ段階になり、自分は何がしたいのかを考える中で、その時の思い出がよみがえりました。自動車や機械以上に、建物はより人と接しながらつくっていける。それがすごく魅力的に感じられたので、建築を学ぼうと思いました。

―― 就職先として、竹中工務店の施工管理を選ばれたのはなぜですか。

小林  じつは、私は学生の時は計画研究室に所属し、当時は設計をしたかったので、就職もこのまま設計に進むんだろうなと考えていました。

しかし、就職活動を始めて、企業の説明会に参加していく中で、施工管理という仕事は「現場で働くだけではなく、建物をトータルでマネジメントする仕事だ」と知りました。また、もともとやりたいと思っていた、人と関わりながら“もの”をつくる仕事に一番近くて魅力的だな、と思ったのも理由です。それで、職種を施工管理に絞ろうと思うようになりました。

設計を視野に入れながら企業を選んでいたこともあって、竹中工務店が設計施工一貫方式に重点を置いていたことは印象的でした。建物を建てるだけではなく、その前段階のお客さまの声を聴き、形をつくるところからしっかり責任を持ち、最も良い建物をお客さまに届けようという精神が会社全体に浸透していると思ったので、竹中工務店に入社することを決めました。

初めての現場で得た教訓

――続いて、お仕事についてうかがいます。小林さんが初めて携わったのはどのような現場でしたか。また、そこでどのようなことを学ばれましたか。

小林 最初の現場は、《京都銀行金融大学校桂川研修センター》(2014)という非常に大きなプロジェクトでした。京都銀行の研修施設で、6階建ての建物に階段状の8階建ての建物が覆いかぶさったような形をした、とても複雑な構造の建物です。

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《京都銀行金融大学校桂川研修センター》設計=株式会社日建設計、施工=株式会社竹中工務店(写真提供=株式会社竹中工務店)

3つの建物はそれぞれ研修棟、寄宿舎、ホールというように使用目的が違ったため、仕上げの種類も多種多様でした。壁はクロスで仕上げる場所もあれば、ペンキの場所もあるし、床も場所によってフローリングやタイルカーペットなど、さまざまな素材が指定されていました。躯体だけでなく、内装までもが複雑だったため、最初はとても混乱しました。

竹中工務店では新入社員は最初の1年間で、4カ月ごとに3つの部署をローテーションで経験するんですね。

私は、最初は設計部で次は技術部、最後の12月から3月が作業所(現場)でした。最後が現場だったので、今まで設計部で培ってきたことや、技術部で学んだことの全部を出し切ってやろうという気持ちで、作業所の配属の日を迎えました。

しかし初日は、工法以前に、もう道具の名前さえわからない。釘ひとつをとってみても、どの釘のことを言われているのか理解できない。何から何までわからない言葉だらけで……。やっぱりそれが一番しんどかった。先輩や、協力会社の方たちが一緒について、いろいろ教えてくださったのを今でもよく覚えています。

さらに、現場は日々の変化が激しく、とても目まぐるしく毎日を過ごしました。

学んだことの中で特に印象的だったことが2つあります。1つめは「苦労は買ってでもするべき」ということです。大変な仕事はしんどいけれど、やれば貴重な経験になるし、自分のためにもなる。なにしろ、しんどかった経験で学んだことほど、覚えています。その次に覚えているのは、失敗して怒られたこと。上手くいってあっさり終わったことは、あまり覚えていないんですよね。今でも、人の仕事でもなんでも率先してやろうという気持ちを持っています。

2つめは、「わからないことがあれば相談して、一人で抱え込まない」ことです。組織での仕事は個人プレーではないので、例えば自分が仕事の報告期限に少し遅れてしまうだけでも、全体にとってはどんどん取り返しのつかないことになっていきます。そうなる前に、わからないことはわからないと正直に聞く。もちろん、自分なりに考えもせずに「わかりません」とだけ言えば怒られます。きちんと自分の意見を持って相談をすることが大事だと思います。この2つは、会社に入ってからずっと心がけていることですね。

立命館大学でのお仕事 新築について

――今日は、小林さんが2024年から担当されている、立命館大学びわこ・くさつキャンパスの現場にお邪魔してインタビューをしています。まず、2025年7月に竣工したばかりのイノベーション施設の概要を教えてください。

小林 この建物は企業と大学が共同研究をするための施設で、《グラスルーツイノベーションセンター》(GIC)と、《立命館先端クロスバースイノベーションコモンズ》(CVIC)という2つの空間に分かれています。

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《立命館大学GICおよびCVIC》設計・施工=株式会社竹中工務店(写真提供=株式会社竹中工務店)

《GIC》は、ものづくりとスタートアップ創出のための拠点です。1階は「GIC Fab」というファブラボになっていて、3Dプリンターや工作機器が数多く揃っています。2階は企業とのタイアップ事業や、学生ベンチャーに登記用の住所を提供するなど、スタートアップを後押しする機能を備えた空間です。

《CVIC》は現実と仮想が融合する「多重環境化社会」に対応した最先端の研究拠点で、身体研究のためのさまざまな機器が整備されています。1階には、遠隔地にいる者が仮想世界に会して相互コミュニケーション・共同作業を行う際の脳認知機構に関する基盤的研究が可能な「生体機能画像解析室」などを備えています。また2階の「クロスバースアリーナ」では、VR映像を壁面・床面に投影して茨木キャンパスと授業をすることや、VR映像で再現した車椅子使用者の景色が体験できます。

立命館大学の建物といえば外装はタイル貼りが主流ですが、この建物はあえて内外装にさまざまな鋼板を採用した個性的なデザインで、柱の間隔(スパン)も大胆に飛ばしています。鋼板の孔から差し込む光を木漏れ日に見立てつつ、建物の裏側にある山の風景も視線に取り込むようデザインされています。2階建ての建物ながら、意匠的には相当凝った力作になったと思います。施工は本当に大変でしたけどね(笑)。

04_立命館大学GICおよびCVIC内観

小林さん(右から2人目)と。鋼板の孔が演出する、木漏れ日が差し込む空間にて

――設計者が描いた図面から実際の施工へと進める際に、小林さんはどのようなことを確認しましたか。

小林 どんな建物でも、基本的にすることは同じです。私は初めにコンセプトを確認します。設計者がどのような想いで図面を描き、お客さまにどのような説明をして、この仕事を依頼してもらったのか。これが一番大事なことなので、まず確認します。そして、この建物がどのような施設で、どのように使われ、お客さまがどの部分に重点を置いているのかを明確にすることにも気をつけながら、お客さまと設計者のこだわりをすり合わせていきます。また、現場で施工する前は、図面を一つひとつ確認します。建具や内装ではミリ単位の仕事が求められる。設計者と事前にすり合わせをして図面化をしながら、細部を形づくっていきます。

――設計者とはどのようにコミュニケーションを取っていますか。

小林 1週間に1回、定例会という形でお客さまも交えて意見交換の場を設けます。他にも、うまく納まっていなかったり、色の指定がコンセプトに沿っていないと感じたりした場合は、電話やメールで確認します。

確認・変更した内容を記録しておくことも大切なので、書類にもまとめて設計者にOKをもらいます。

――色の指定までも、事前に設計意図を確認されているんですね。

小林 昔は、壁に塗装する色の細かな違いまでは把握できていませんでした。しかしある現場で、壁を一面塗った後に設計者に見せたら「思っていた色と違う」と言われたことがあったんです。こうしたズレに私が早めに気がついていれば、塗ってくれる塗装工の方に無駄な仕事を増やさずに済みます。手間も時間もかかっているのに「もう一度塗ってください」というのはしたくないので。経験を積み感性をはぐくむことで、こうしたズレをいち早く感じ取ることが大事だと思います。

立命館大学でのお仕事 改修について

――ここからは、現在担当されている《ユニオンスクエア》の改修工事についてお尋ねします。こちらもまず、建物の概要やコンセプトから教えてください。

小林 《ユニオンスクエア》は厨房と食堂、そしてホールがある建物です。びわこ・くさつキャンパスは1994年に開校されましたが、この建物は、唯一その当時に竹中工務店が施工を手がけたものになります。

今回の改修工事では、外観は概ね既存の建物のままで、一部修繕を施します。内部については、昼食時の利用者の行列を空間的に解消することを目的として、動線の再計画を含めた大規模な改修工事を行っています。利用者の流動性を高め、より快適な食環境の実現を目指しました。

1774946932265-a3b81b4c-0cd1-4b65-a2d2-29db388683c5_1《立命館大学ユニオンスクエア》の改修工事完成イメージ図。改修設計・施工=株式会社竹中工務店(図版提供=株式会社竹中工務店)

――今回は、図面から現場に進める際に設計者とどのようなことを共有しましたか。

小林 今回は改修なので、お客さまにどこを残して何を新しくするのかを正確にヒアリングし、設計者と共有しました。空間の使われ方や場所に対する思いを一つひとつ確認しながら図面にしていきましたね。あとは、ほとんど新築の場合と同じだと思います。

――改修の場合は、既存の建物の特性を読み解いた上で施工をする必要があると思います。その際にされている工夫などはありますか。

小林 先ほどお話ししたように、まずは建物の特性や現状の課題をみんなで共有し、それらをどうやって解決していくかを考えて形にしていきました。課題をしっかりと理解した上で、具体的にどのように改修を進めるかが重要になります。

今回特に工夫が必要なのは、「居ながら改修」という点です。 対象となる食堂は、建築主である大学だけではなく、運営会社の生協も関わっている施設です。両者のスケジュールを読み込み、数多くの条件に配慮しながら綿密に計画を調整するのは、正直なところとても大変でした。工事にはどうしても、騒音や材料の臭い、ほこりがつきものです。特に厨房という場所は、衛生面からそうした要素と相性が悪い。そのため、大学の休暇期間中にほこりや振動が出る工事をまとめて行うなど、利用者の方々の負担を減らすことを最優先に考えました。 そういった調整力という意味では、新築よりも改修工事のほうが、施工管理としての「腕」が試される部分は大きいかもしれませんね。

――安全管理も、いつも以上に厳しくなりますか。

小林 なりますね。予測不能な動きをする一般の方の安全を守りながら工事を進めるのは、改修工事ならではの難しさだと思います。歩いている学生さんが、我々の設置した仮設配線につまずいて転んでしまうなど、第三者を巻き込む「公衆災害」を起こしてしまえば一発でアウトですから。他にも、電気や水といったインフラの取り扱いにも注意を要します。工事のせいで水漏れを起こしたり、厨房の水が出なくなったり、電気が止まったり……そんなことが起きないよう、管理に気を遣います。

その点、新築工事は完全に囲い込まれた敷地内で、工事関係者のみが働くため、安全管理は比較的やりやすいんです。「ここは危ないから気をつけてください」とお伝えすれば、プロとして注意を払いながら作業してもらえますから。

06_取材風景

小林さんへの取材の様子。写真やイメージ図を示しながら丁寧に説明していただいた

「トータルマネージャー」として現場を支える

――最後に、小林さんの考える施工管理という立場や、仕事を進めていく中で最も大切にしていることをお聞かせください。

小林 最初にお話ししたように、「ものづくりのトータルマネージャーである」と思って仕事をしています。社内、社外にとどまらず、お客さまや行政との調整、そして現場の工事関係者とのコミュニケーションまで、さまざまな立場の人や意見を総括し、いかに円滑にみんなが満足できる良いものをつくっていくか。これが一番大変で、魅力的で、楽しいところです。

大切なのは、関わる全員が円滑に協力し、完成した際にみんなでガッツポーズができること。「良い仕事ができた」「良い建物ができた」と全員が胸を張り、お客さまからも「ありがとう」と言っていただける。そんなものをつくることこそが、私たちの仕事だと思っています。 また、建築において図面は極めて重要です。図面が不十分では、現場を動かす「施工図」も成立しません。

納まりは乱れ、品質も見栄えも決して良いものをつくることができなくなってしまう。最近は3Dなどの技術も発達し、一見すると「できている風」の絵はいくらでも描けます。しかし、それが現場で実現不可能であれば、図面としての意味をなしません。

例えば、1.2ミリ厚の鉄板の枠を描く場合、皆さんは鉛筆や物差しでその1.2ミリを精確に書き分けられるでしょうか。現場の技能労働者の皆さんは、1ミリから3ミリという極めてシビアな精度で、鉄板を溶接し、ビスで留めていきます。それは、私から見ればまさに人間業とは思えない素晴らしい技術です。

しかし、ここで設計者が「理論上の数値はゼロだから」と、遊びのない(逃げのない)図面を描いてしまうと、現場は破綻します。下地の厚みや接着剤の厚みなど、納まりの調整ができていない図面は、結果として、枠が引っ込んだりボードが飛び出したりといった「不細工な仕上がり」に直結してしまうのです。

私が大切にしているのは、現場の技能労働者の皆さんや次に工程を引き継ぐ人への「思いやり」なんですね。「ここに荷物を置いたら、次の人が作業しにくいだろうな」「この納まりでは、ボード工の方が1ミリの狂いも許されず苦労してしまうのではないか」……。そうやって、人がどこでどのように動くのか、その部材をどのように取りつけるのかを想像することが大切です。2、3ミリの逃げ(余裕)を確保しておくことは、現場で働く人たちへの優しさであり、その余裕があるからこそ「よし、綺麗に納めてやろう」と、前向きな気持ちになってもらえます。施工が美しい建物は、必ず図面もしっかりしています。図面は、必ず現地の仕上がりに結びつくのです。

私は施工管理という仕事が天職だと思っています。京都のような高さ制限がある街でも、大阪のような超高層ビルが立ち並ぶ街でも、1ミリのこだわりに変わりはありません。その違いを突きつめ、立場の違う多様な人々が協力してひとつの建物をつくり上げていく。しんどいことも多いですが、それ以上に、人がつくり出す建築の世界には、代えがたい面白さと喜びがあるのだと伝えたいです。

08_プロフ

小林拓翔 こばやし・ひろし

1990年滋賀県生まれ。2013年大阪市立大学工学部建築学科卒業。同年より株式会社竹中工務店に勤務。

2025年10月06日 立命館大学びわこ・くさつキャンパスにて
聞き手/村田遼亮(建築学科2年)、金森祐樹(建築学科2年)、榊原千晴(建築学科2年)、西野雄一郎(建築計画研究室講師)
まとめ/村田遼亮、金森祐樹
人物写真/西野雄一郎
編集協力/贄川 雪(外部)

※学年は取材当時