Human人権問題NEWS

2026年6月30日

報告 2026年度 前期委員研修 (2026年5月11日開催)

【テーマ】 性暴力被害者への理解と対応 〜大学教職員が行うトラウマを理解した支援〜 
講 師 : 吉田 博美 先生(国際基幹教育機構・現代システム科学研究科 准教授/ハラスメント相談室長)
司 会 : 中谷 英治(人権問題委員会事務局 コンプライアンス推進室)
日 時 : 2025年5月11日(月)13:15~14:45
会 場 : Zoom(オンライン講演)

 司会より、本研修が人権問題委員会委員およびハラスメント相談員の人権意識向上を目的に例年実施されている旨が説明された。
続いて、人権問題委員長の森澤和子副学長(ダイバーシティ担当)より挨拶があった。森澤委員長は、本学においても重大なセクシュアル・ハラスメント事案が発生した事実に触れ、「トラウマを理解した支援という視点は、どのような相談を受けるにあたっても重要である」と述べ、専門的な知見を深めることの意義を強調した。 

以下は、吉田先生による講演の要約である。

 

(講演要旨)

  1. トラウマケアの3段階とトラウマ・インフォームドの概念

 トラウマケアには、全ての人を対象とした一般的知識の普及(ユニバーサル支援)、早期発見・介入、専門的な個別治療の3段階がある。近年普及している「トラウマ・インフォームド・ケア(TIC)」とは、トラウマの影響について国民全員が公衆衛生的な一般知識を持ち、再トラウマ体験を防ぎ回復を促進するケアシステム全体を指す。

 

  1. 性暴力の現状と「不同意性交等罪」

 内閣府のデータ(令和4年)によると、4人に1人が何らかの性被害を経験している。加害者の約半数は、学校関係者や交際相手などの「顔見知り」であることが特徴である。 2023年の刑法改正により「不同意性交等罪」が新設され、性交同意年齢が13歳から16歳に引き上げられた。暴行・脅迫の証明だけでなく、アルコールや薬物の使用、社会的地位の利用など、被害者が抵抗できない状況での性交等が明確に処罰対象となっている。

 

  1. 性暴力に関する誤解のアップデート

 「嫌なら抵抗できたはず」「元気そうなら大丈夫」といった考えは、恐怖による凍りつき反応(Freeze)や解離症状への無理解から生じる誤解である。性暴力は「性」の問題ではなく、相手の境界線を侵害し、自尊心を低下させる「暴力と支配」の問題として認識する必要がある。

 

  1. トラウマ反応のメカニズムとPTSD

 性暴力は対人トラウマの代表例であり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症リスクが極めて高い。

侵入症状: フラッシュバックや悪夢など。トラウマ記憶は断片化されており、本来安全なはずの刺激(似た服装の人、特定の場所など)と結びついて恐怖を引き起こす。

回避・麻痺: 被害を思い出させる状況を避ける、あるいは感情を「瞬間冷凍」させるように麻痺させる(解離)。一見普通に見えることがあっても、それは症状の一つである可能性がある。

過覚醒: 睡眠障害や集中力の低下、過度な警戒心が生じる。

 

  1. 大学教職員による支援のポイント

 被害者支援の基礎は、相手を「エンパワメント(自己コントロール感を取り戻す支援)」することにある。

話を聴く態度: 無理に詳細を聞き出さず、本人のペースに合わせる。自分の判断や助言を横に置き、相手の言葉をそのままなぞるように聴くことが大切である。

共感のバランス: 相談者の感情と同じように感じとる「情動的共感」だけでなく、相談者の状況や感情のプロセスを俯瞰して理解する「認知的共感」を意識し、具体的な手続きや配慮を検討する。

環境調整: 履修や修学環境の調整など、大学として可能な合理的配慮をチームで検討する。必要に応じて専門機関(ウィズユーおおさかなど)への「つなぎ」の役割を果たす。

 

  1. 支援者のストレスマネジメント

 深刻な被害の話を聴くことは支援者にとっても大きな心理的負荷や労力がかかり、「二次受傷」を招く恐れがある。教職員同士が安全に話せる体制を築き、自身のケアも仕事の一部と捉えることが、組織全体の回復力を高めることにつながる。

 

(質疑応答(抜粋))

質問: ハラスメント相談の場では事実認定前だが、どう対応すべきか。

回答: ハラスメント相談では、中立に話を聞くことを前提としているため「相談者」という枠組みを用いる。しかし、性暴力に関しては相談者が被害者である場合が極めて多く、「中立」を意識した聴き方では「中立」にならないことが多い。相手を疑わず、安全を第一に考えた対応が結果としてリスクを最小限にする。

 

質問: 自責感に苛まれている相手にどう言葉をかければよいか。

回答: 「あなたが悪いわけではない」と伝えることは重要だが、すぐには受け入れられないこともある。相手の気持ちを否定せず、「あなたは自分の責任だと思っているけれど、私はそうは思っていない」と伝え続けることが支えになる。

 

(閉会)

 最後に司会より、質疑応答への謝辞が述べられ、研修会は終了した。本研修を通じて、組織全体でトラウマケアの視点を持ち、方針を共有することの重要性が再確認された。