Chapter9 環境と人権

発災から15年を迎えた福島原発被災地――教訓を未来に伝える取り組み

除本 理史(大阪公立大学経営学研究科教授)

発災15年の福島と継承の課題

 2026年3月は、東日本大震災・福島原発事故の発生から15年を迎える節目にあたる。「もう15年」というべきか、「まだ15年」というべきか。
 福島原発事故は、大規模な放射能汚染を引き起こした公害事件といえる。今も被害者による集団訴訟などが続いており、司法上の紛争は終わっていないし、廃炉・汚染水対策を含め長期的な復興課題が山積している。事故被害は今もなお継続しており、実情に即した賠償・支援策、長期的視点に立った復興政策の見直しが求められている。被害者による集団的な取り組みはそのことを訴えてきた。
 その一方で、時間の経過にしたがって人々の関心は薄れ、政策的にも原発回帰が強まっている。震災・原発事故を直接体験していない子どもたちも増えており、当時の経験や記憶を継承し、将来に伝えていく取り組みが重要性を増している。多様な立場・視点からの教訓検証と経験継承も、重要な長期的復興課題となっている。
 震災伝承施設としては、福島県双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館(以下、伝承館)のような、公的施設が大きな存在感を発揮している。しかし福島原発事故では、被害者による集団訴訟で国が被告として訴えられており、あるいは福島県外でも、小学生が津波の犠牲になったケースで自治体の責任が問われたりしていて、行政は「中立的な第三者」とはいえない。したがって、公的施設の展示などにおいて、そうした立場性に由来する視角の限定が生じるのは避けられないだろう。同様の傾向は、公害資料館の先例においても指摘されているところである。
 伝承館は20209月の開館直後から、様々な批判を受けてきた。開館前後における情報の公開性に関わる問題が指摘され、展示の内容についても「官製伝承」といわれたように、総じて国や県にとって都合の悪いことには触れず、「復興」を過度に強調しているのではないか、といった指摘が相次いだのである。
 もちろん、公的施設には独自の役割があるし、伝承館の場合は、批判を受けて展示の改善などを進めている。それ自体はよいことである。しかし、公的施設とは別の角度からの展示や情報発信があってこそ、幅広い視点で教訓を検証するとともに、対話を通じて継承を進めることが可能になる。

 

継承に向けた草の根の取り組み

 これらの公的施設に対し、草の根の経験を伝え、過去の失敗から学ぶべきだというメッセージを発する民間の伝承施設も複数開設されている。今後こうした民間の施設・団体への支援も、重要な政策課題となろう。
 震災伝承施設の設立・運営が「官」中心になるのは避けられないし、そのことを否定すべきでもないが、複雑な加害―被害関係をはらむ問題においては、教訓の解釈権を「官」が手放そうとせず、コントロールしようとする傾向がある。だからこそ、多様な解釈を許容し、多視点性に基づく教訓の検証と継承を可能にするために、民間伝承施設の果たす役割が大きいのである。
 筆者は、民間の震災伝承施設・団体がもつこうした意義や役割に注目して研究を行ってきた。宮城県に本社を置く河北新報社の福島総局も同様の関心をもち、メッセージ性の強い原子力災害の民間伝承施設を「オルタナ伝承館」と名づけ、3つの施設を紹介する連載を組んでいる(『河北新報』20241192123日付朝刊)。
 その1つが、福島県楢葉町の宝鏡寺境内に設けられた「伝言館」である。同館は、福島原発避難者訴訟の原告団長を務めた早川篤雄住職(202212月に死去)によって、20213月に開設された。館の脇には、「原発悔恨・伝言の碑」が建てられ、あわせて上野東照宮境内で約30年間ともされてきた「非核の火」も移設されている。開館に際しては、130人が参加して式典が開かれた。
 「伝言館」1階の第1展示室は「原発関係」で構成されており、旧科学技術庁の原発推進ポスター現物、原発事故や汚染水問題に関する写真、説明パネルなどが設置されている。早川氏が長年、原発反対運動に取り組んできたため、関連資料の一部も展示されている。地下の第2展示室は「核兵器関係」で構成され、広島・長崎の原爆被害や、アメリカの水爆実験で被ばくした第五福竜丸に関する展示がなされている。
 もう1つの事例として、「原子力災害考証館furusato」(以下、考証館)を挙げる。考証館は、いわき湯本温泉の老舗旅館「古滝屋」に2021312日に開設された。震災・原発事故で客が減り、使われなくなった約20畳の宴会場を改装したものである。古滝屋16代目の現当主・里見喜生さんが約7年間、構想を温めてきた。公的施設との差別化が強く意識されており、考証館という名称は「水俣病歴史考証館」(熊本県水俣市にある民間の公害資料館)からとられた。
 展示されているのは、浪江町で建物が解体され、商店街のまちなみが変化していく様子を示したパノラマ写真や、大熊町で津波に襲われ、長い間行方不明だった少女の遺品(遺族の手でレイアウトがなされた)などである。また、東京電力や国の責任を問う集団訴訟に関する展示もあった。

 

多様な立場・視点からの継承へ

 筆者は、これらの民間伝承施設に関する認知度の向上や利用促進を図るために、前述した連載をベースとして、ガイドブックを作成する取り組みを行った(『福島「オルタナ伝承館」ガイド』東信堂、2024年)。これには、河北新報社福島総局記者の尽力により、同社から協力を得ることができた。この作成に至った背景には、同連載に加えて、筆者が役員を務める公害資料館ネットワークの活動がある。
 公害資料館ネットワークは、公害の経験を伝えようとしている施設や団体が集まって、相互に交流し経験を学びあうため2013年に結成された。20231月に「古滝屋」でトークセッション「福島の経験を継承する」を、同年12月に福島大学で第9回公害資料館連携フォーラム「災害を伝え、未来をつくる」を開催している。その過程で、民間伝承施設や「語り部」の方々と交流を深めることができた。ガイドブックに登場する考証館(前出)や「子どもと原子力災害 保養資料室《ほよよん》」(いずれも「古滝屋」内)もネットワークに参加している。
 こうした民間伝承施設に多くの人々が訪れることが、多様な立場・視点からの教訓検証と経験継承につながるであろう。

 

おすすめの参考文献

・除本理史『公害から福島を考える――地域の再生をめざして』岩波書店、2016
・除本理史・河北新報社編『福島「オルタナ伝承館」ガイド』東信堂、2024年。
・清水万由子・林美帆・除本理史編『公害の経験を未来につなぐ――教育・フォーラム・アーカイブズを通した公害資料館の挑戦』ナカ 
  ニシヤ出版、2023