Chapter11 人権問題への取り組み

人権問題への取り組み―大阪公立大学の取り組み―

(1)人権問題への取り組み

 「人権」という言葉を身近に感じたことがなくとも、国内における施設被収容者の不適切な取扱い、世界各地の武力紛争の報道等により、深刻な人権侵害は、現実に起きていることだと知ることができます。人権とは、人間がただ人間であるということに基づいて当然に享有される、生まれながらの権利のことです。人は、それぞれ対等な個人として尊重されなければなりません。それにもかかわらず、人間の作る法や制度等によって当然享受すべき権利の実現が妨げられることがあります。これが人権侵害なのです。
 典型的な人権侵害は、権力による不当な処遇や差別であり、旧くから公務員の行為、公共諸機関、企業の不公正・不適切な取扱いが問題とされてきました。情報技術が進んだ現代では、個人もまた情報を駆使して他人に少なからぬ影響を及ぼすことができます。これに応じて、メディアのみならず個人もまた、いじめや誹謗中傷により、安全な教育環境や名誉・プライヴァシーへの深刻な被害を与える人権侵害を惹き起こす者となるのです。
 人権侵害に対して、人権尊重を呼びかけ、人権擁護をはかろうという試みは、国内外の様々な場面で行われています。1948年世界人権宣言が、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として国連第3回総会で採択されました。国民の人権保護義務は第一義的に国家が負う一方、人権尊重はすべての人民の責務であります。教育、研究を使命とし、社会貢献の期待を担う大学は、率先して人権尊重に取り組むべき立場にあると言えます。

(2)大阪公立大学人権宣言

 大阪公立大学は、大阪にある二つの公立大学を統合して2022年開学しました。統合以前より各大学は、人権教育をはじめとして人権問題に積極的に取り組んできました。大阪市立大学では、 1968年以来、人権問題に関し、共通教育等において部落問題論、エスニックスタディーズ、ジェンダー論、障がい者問題論、労働問題論、クィアスタディーズ等の時宜に応じた多様な人権関連科目を継続して提供しています。他方、大阪府立大学でも1979年以降部落問題を中心にしながら人権科目を提供してきました。また、大阪府立大学統合前の大阪女子大学では1982年に女性学の講義の提供を開始、1990年には女性学研究資料室を開設、その研究活動、資料収集等の成果に基づき1996年女性学研究センターを設立しました。2005年大阪府立大学との合併にともない、大阪府立大学の研究機関となり、性差別のない、だれもが対等に生きることのできる社会の実現をめざして、日本におけるジェンダー問題研究をリードする役割を果たしてきました。
 商都として発展し、様々な文化が行き交う大阪の地にあって、差別に端を発する幾多の事件を経験しつつ、大阪市立大学では人権及び基本的自由を尊重する大学を実現するため人権宣言2001を発表しました。大阪公立大学もまた、開学を機に、伝統を受け継いで教育・研究活動を含むあらゆる分野において、人権及び基本的自由を尊重する大学を実現するため、人権宣言を発し、ウェブサイト上に公開しています。
 大阪公立大学としての人権宣言の特徴は、開学までに生じた国内外の状況を踏まえて、差別、嫌がらせへの対応に関しては、差別・暴力・ハラスメントのない大学の実現(第3条)、多様性の尊重に関しては、多様な存在と文化を尊重する大学の実現(第4条)の各条項により、大学の姿勢を明確に示したこと、人権研究の推進(第5条)に関する条項を新たに設けて、人権教育の推進(第6条)と併せて大学としての使命を負った点です。大阪公立大学憲章の「人権・自由・平等・平和の尊重という精神」の重視に呼応し、教育・研究・社会貢献等の諸活動の主体となる基本姿勢を謳っています。是非読んで、変えるべき部分があるとしたら何かを議論してください。対話と議論に対して開かれているのは、人権宣言もまた同じだからです。
 大阪公立大学が未来に向けて取り組むべき課題としてまとめられた「vision」のアクションプラン中にも「人種、性別および性自認や出身等の属性による不平等を解消し、各人がその人らしさを発揮する活躍の場を整え、新たな価値を見出すことができる教育研究機関となるよう、差別や人権侵害を防止するための研修、固定観念・アンコンシャスバイアスを打破する啓発活動をはじめとする様々な取り組みを積極的に実施」(vision06-01)と記され、多様性(ダイバーシティ)に根ざす差別解消を目指す大学の主体的な行動指針が示されています。

(3)人権を実際に守るために

 大学には、人権と基本的自由を守る責務があり、大学は人権が守られる安全で安心できる場所――それが理想の姿です。しかし、現実には人権をおびやかす事態は常にあります。身のまわりの人権侵害を敏感に察知し、どのように解決すればよいかを考えるためには、知識と行動が必要です。人権について何も専門に学んでいない、と嘆く必要はありません。本書「人権問題の最前線」には考えるヒントが盛られているうえ、多彩な人権関連科目等から受講科目を選ぶこともできます。また、人権について現実社会に素材を求めて学ぶ課外活動を行うこともできるでしょう。
 どのように行動したらよいだろうと迷う場面に直面したとき、例えば、以下のような宣言やガイドラインがあることを思い出してください。
 ① 大阪公立大学ダイバーシティ宣言
 差別をなくし、人権の尊重を実践すること、多様性に配慮し、各人が能力を発揮することができるように助け合うこと、知的に開かれた学問の場を創造し、その成果を社会に発信することを三本の柱として、差別、嫌がらせのない教育・研究環境、職場環境の整備が進められるべきことを宣言しています。
 ② 公立大学法人大阪 多様性、公正、包摂(DEI)の観点から性的マイノリティへの差別に対抗するためのガイドライン(略称:DEIガイドライン)
 ジェンダー平等の実現を目指し、多様な個人がひとりひとり能力を発揮できるよう(ダイバーシティ)、それぞれの状況に即し、対等、公正に扱われ(エクイティ)、協働して活躍できる場への参加できる包摂の場を実現する(インクルージョン)ためのガイドラインです。 
 「●●だから、この授業とらなくてもいいでしょ」「▲▲なのに、こんなことできるってスゴイね」と、伏せ字に入る属性を理由にやんわり何かを断られたら、ほめられたようでけなされたような気持ちになりませんか。あからさまな差別や暴力的な扱いでなくても、対等に扱われず、違和感を感じることがあるかもしれません。そのモヤっとした気持ちを、上記の宣言やガイドラインに照らしてもう一度分析してください。自分の考える公正と、他者から押しつけられる公正が違うと感じるときには、既にそこに人権の問題が潜んでいることがあります。特に「常識だ」「言うまでもなく当然だ」という決めつけの中には、真に合理的な理由があるか、実情を調べ、様々な意見を聴いてはじめてわかることもあります。

(4)人権問題委員会

 もしかしたら人権問題かもしれない、と思っても、どこに何を相談すればよいか、分からないという場合もあるでしょう。大阪公立大学には、学内に人権問題委員会があります。大阪市立大学時代に同和問題、民族問題、障がい者問題、女性問題を取り扱う4つの委員会を統合して大学の人権尊重の具体化を目指し活動する委員会を1998年に発足させ、現在大阪公立大学がこれを引き継いでいます。人権問題委員会は、各部局から選ばれた教員を委員として、人権問題に関する活動の計画をたてたうえで、人権問題の実態を把握し、人権を尊重する環境の整備や啓発活動を通して、様々な機関と連携しながら人権に関する状況の改善について話し合うことを目的としています。その活動の一部は、学生向けの人権問題ガイダンス、各種講演会であり、参加、視聴した人もいるかもしれません。人権問題委員会は、学生の皆さんからの声を届けて改善につなげたり、啓発活動に活かしたりしようと日々努め、積極的な意見をまっています。なお緊急に助けを求める必要があるときは、後掲Chapter11 「人権侵害をされたとき、知ったとき」を参照してください。

(5) 「人権問題研究センター」における研究・教育・学内業務

 大阪公立大学には、人権問題研究センターという組織があります。このセンターは、大阪府内をはじめとする関西で人権課題に取り組む様々な組織と連携しながら、これまで様々な活動を展開してきました。では、人権問題に特化したセンターが、なぜ大阪公立大学に存在し、現在どのようなことを行なっているのかについて、以下で紹介します。
 大阪公立大学人権問題研究センターは、長い歴史のある組織です。その成立は、大阪公立大学の前身にあたる大阪市立大学に、1973年に設置された「同和問題研究室」にまで遡ります。1961年、大阪市立大学家政学部(現在の生活科学部)の学生への差別事件が発生しました。この事件をきっかけとして、大学は部落差別の解消に向けた意識啓発のために同和問題委員会を立ち上げ、部落問題についての教育の必要性から部落問題論や同和教育論などの科目を開講しました。これが、本学での人権問題に対する取り組みの先駆けとなりました。そして部落問題のみならず、現代社会における様々な人権課題を研究・教育する組織として、2000年に人権問題研究センターとして新たに改組されました。社会の様々な組織や人々と連帯しながら、学内外の人権課題の解決に向けて真摯に取り組むというこの精神は、現在にまで受け継がれています。
 人権問題研究センターにおける人権問題に関する研究は、都市・大阪を背景とした様々な人権課題に、地域社会と連携しながら進められてきたということが、大きな特徴の一つです。本センターでは、人権問題研究の成果を紀要『人権問題研究』として毎年発行し、主に日本国内の様々な人権問題についての現地調査も行なってきました。さらに、学内外の研究者や活動家を招聘した上で、公開講座「サロンde人権」や「シネマde人権」も実施しています。また、海外の人権問題研究機関との学術交流なども活発に推進しています。例えば、2020年には人権問題研究センタ―の附属機関として「大阪コリアン研究プラットフォーム」が設置されました。
 教育においては、国際基幹教育機構において人権関連の講義科目が15科目開講されています。講義科目に加え、演習科目として人権副専攻科目も開講されています。アクティブ・ラーニングの方法をとりいれながら、人権課題の解決に向けて社会とつながる力を身につけます。人権副専攻は、他学部との学生とともに学ぶ貴重な機会でもあります。人権教育では、社会のリーダーとして国際的な人権感覚を身につけた学生の育成に努めています。
 2022年に大阪公立大学が開校して以降、人権問題研究センターは、人権問題委員会やコンプライアンス推進室と連携しながら、学内の人権課題に対してもこれまで以上により積極的に関与しています。専任教員を配置したハラスメント相談室やアクセシビリティセンターとも連携しながら、誰もが自分らしく学ぶことができる大学環境の整備に努めています。
 学内外の人権課題は、一部の人々の努力によってのみ解決できるものではありません。その解決に向けては、大学の所属する教職員や学生の人権意識の底上げが最も重要となってきます。一人の人権が守られる組織こそが、誰にとっても働きやすく学びやすい組織といえます。そのためには、一人ひとりの不断の努力が欠かせません。人権問題研究センターは、大学や地域社会の皆さんとともに考え学びつつ、より良い社会となるよう、今後も様々な人々と連携しながら活動を続けていきたいと考えています。

表1 2025年度開講

〇基幹教育科目「総合教養科目」

科目名 キャンパス 単位数 前期・後期 曜日 時限
基礎科目 ジェンダー論入門 杉本 2 前期 金 1
中百舌鳥 2 後期 水 3
主題科目 現代の部落問題 杉本 2 前期 金 2
中百舌鳥 2 前期 火 2
メディアと人権 杉本 2 前期 金 2
部落解放のフロンティア 森之宮 2 後期 金 2
部落差別の成立と展開 森之宮 2 後期 金 1
グローバル化と人権 森之宮 2 後期 金 1
障がい者と人権A 杉本 2 前期 金 2
障がい者と人権B 森之宮 2 後期 金 2
企業と人権 森之宮 2 後期 金 1
地球市民と人権 杉本 2 前期 金 3
労働と人権 杉本 2 前期 金 2
平和と人権 森之宮 2 後期 金 2
ジェンダーと現代社会 森之宮 2 後期 金 1
森之宮 2 後期 時間割外 ー
クィアスタディーズ 杉本 2 前期 金 3
エスニック・スタディ 杉本 2 前期 金 1
コリアン・スタディーズ 森之宮 2 後期 水 4

〇HR(人権)副専攻科目

科目名 キャンパス 単位数 前期・後期 曜日 時限
ワークショップと講義で学ぶ人権基礎講座 杉本 2 前期 時間割外 ー
人権問題研究演習1a  杉本 2 後期 時間割外 ー
人権問題研究演習1b  杉本 2 前期 時間割外 ー
人権問題研究演習2 杉本 2 後期 時間割外 ー
表2 最近の人権問題講演会企画(人権問題員会主催)
年度 開催日 テーマ 講師等
2009 2009.12.4 第11回人権フェスティバル
午前の部
講演:「市民プールにおける障害者の人権とノーマライゼーション」
岡田 寛氏 (NPO法人プール・ボランティア理事長)
午前の部
講演:「市民プールにおける障害者の人権とノーマライゼーション」
岡田 寛氏 (NPO法人プール・ボランティア理事長)
2010 2010.12.10 第12回人権フェスティバル
講演:「 障害者が社会で普通に暮らす』ということは?
=国内におけるバリアフリーの現状と諸問題=」
山名 勝氏 (DPIバリアフリーリーダー・大阪市障害者相談員)
2011 2011.12.9 第13回人権フェスティバル
特別企画:メディアと人権
ジャーナリスト大谷昭宏さんとともに、メディア報道と人権について
考える
「日本のメディア報道、どこが問題か」
大谷昭宏氏 (ジャーナリスト)
インタビュアー:朴 一氏 (経済学研究科教授)
2012 2012.12.14 第14回人権フェスティバル
インタビュー・トーク
「蓮池透氏が語る 拉致被害者、10年目の現実」
蓮池 透氏 (北朝鮮による拉致被害者家族連絡会元副代表)
インタビュアー:朴 一氏 (経済学研究科教授)
2013 2013.11.29 第15回人権フェスティバル
講演:「 一人ひとりが共に笑いあえる社会を目指して
〜スポーツを通じて人権を考える〜」
鈴木ひとみ氏 (元ミス・インターナショナル準日本代表
 パラリンピック射撃日本代表)
2014 2014.11.14 第16回人権フェスティバル
講演:「 誰もが自分らしく生きられる社会に向けて
~女が得か、男が得か、なぜ誰もが生きづらい世の中なのか~」
谷口真由美氏 (大阪国際大学グローバルビジネス学部准教授)

2015

2015.12.4

第17回人権フェスティバル
講演:「『人口と開発』における人権」 林 玲子氏 (国立社会保障・人口問題研究所国際関係部長)

2016

2016.12.9 第18回人権フェスティバル
講演:①SNSの利用と表現の自由、その限界
②ドリームアクト〜多文化共生を社会の指標に〜
①松井修視氏 (関西大学社会学部教授)
②金 光敏氏 ( 特定非営利活動法人コリアNGOセンター事務局
長/教育コーディネータ/大阪市立大学非常勤講師)
2017 2017.12.8 第19回人権フェスティバル
講演:「 大学とLGBT ー性の多様性について考えるー」 松岡宗嗣氏 (MEIJI ALLY WEEK代表)
2018 2018.5.11 2018年度春の人権問題講演会
講演:「国際社会から見た日本の表現の自由とメディア」 藤田早苗 氏 (英国エセックス大学人権センターフェロー)
2018.12.7 第20回人権フェスティバル
講演:「 ヒバクシャはなぜ声をあげ続けるのか」 林田光弘氏 (ヒバクシャ国際署名事務局キャンペーンリーダー)
2019 2019.5.17 2019年度春の人権問題講演会
講演:「がんを経験し、がんと生きること」 天野 慎介氏 (グループ・ネクサス・ジャパン/全国がん患者団体連合会理事長)
2019.12.7 第21回人権フェスティバル
講演:「 大阪大空襲から人権を考える
−戦中、戦後をどう生きてきたか−」
伊賀孝子氏 (大阪戦災傷害者・遺族の会)
2020 2020.12.4 第22回人権週間特別講演会(旧:人権フェスティバル)
講演:「 香港の民主化運動とジェンダー」 熱田敬子氏 (早稲田大学非常勤講師)
2021 2021.5.14 2021年度春の人権問題講演会
講演:「ゲノム医療、AI医療における倫理的課題」 宮野悟氏 (東京医科歯科大学特任教授)
2021.12.10 第23回人権週間特別講演会
講演:「 原子力の歴史を振り返りながら原発の今を考える」
─放射線・放射能の発見から福島原発事故の後始末まで」
今中哲二氏 (京都大学複合原子力研究所・研究員)
2022 2022.10.28

2022年度春の人権問題講演会

講演:「特別永住者とは何か~在日コリアンに対する処遇とその問題点」 朴 一 氏(大阪市立大学 名誉教授)
2022.12.9 第24回人権週間特別講演会
講演:「 感染症と人権」 大北全俊氏 (東北大学大学院医学系研究科・医療倫理学分野准教授)
2023

2023.6.9

2023年度春の人権問題講演会

講演:「ワクチンについて考えよう」

~正しい知識を持って、人権を守るために~

福島若葉氏 (大阪公立大学大学院医学研究科公衆衛生学 教授)
2023.12.1 第25回人権週間特別講演会
講演:「 精神医療と人権」 吉池毅志氏 (大阪人間科学大学人間科学部 准教授)
2024

2024.6.28

2024年度春の人権問題講演会
講演:「AIがヒトと社会に与える影響について考える」 岡村浩史氏 (大阪公立大学大学院医学研究科 血液腫瘍制御学/臨床検査・医療情報医学講師)
2024.12.6 第26回人権週間特別講演会

講演:「 合理的配慮とは?」

~もっと公正な社会に変えていくために~」

松波めぐみ氏 (大阪公立大学アクセシビリティセンター特任准教授)
2025

2025.5.30

2025年度春の人権問題講演会
講演:「公衆衛生と日本の行政:歴史からの教訓」

小島和貴氏 (桃山学院大学法学部 教授)

2025.12.5

第27回人権週間特別講演会

講演:「「日本人ファースト」の時代に

レイシャルハラスメントを考える」」

明戸 隆浩氏 (大阪公立大学経済学研究科准教授)