留学報告記
2016年7月1日
笠島裕明:アメリカのMoscat & Diaz-Meco lab【2016年7月〜】
はじめに
私は、2016年7月より、大腸癌微小環境、特に癌関連線維芽細胞の機能解析について基礎研究に従事するため、Moscat & Diaz-Meco labへPostdoctoral fellow (ポスドク)として留学させて頂きました。幸運にもラボの移動に合わせてカリフォルニア州サンディエゴにあるSanford Burnham Prebys Medical Discovery Institute (SBP) と、ニューヨークマンハッタンにあるWeill Cornell Medical College (WCMC) で働くことができたため、アメリカ西海岸・東海岸の両方で生活するという貴重な経験ができました。
左;Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Institute (サンディエゴ、カリフォルニア州)
右;Weill Cornell Medical College (マンハッタン、ニューヨーク州)
サンディエゴ自宅からの景色、ラホヤ地区は全米でも屈指の治安の良さでした。
研究施設について
SBPは全米7ヶ所にあるNCI-Designated Cancer Centerの1施設であり、年間200報を超える論文、全米トップ2%の論文被引用施設、20以上のコア(共同研究室)、10件の臨床試験、計100億円超の研究予算、7件のFDA承認薬剤を開発など全米でも屈指の研究機関の一つです。その中で副所長を務めていたJorgeと共同PIであるMariaのラボに受け入れて頂き、最先端の研究技術や解析を勉強させて頂きました。
ボスや同僚に恵まれて
大学院生時代に研究していた内容である“胃癌における癌関連線維芽細胞の機能解析”が、当時Jorgeが取得したR-01グラント(アメリカの研究費)の内容にマッチしたため、いいタイミングでapplyした私を雇用してくれました。スペイン人であるJorgeとMariaは当時から現在に至るまでp62やatypical PKCといった遺伝子に注目し数々のhigh impact論文を発表しており、さらに京都大学消化器内科の中西祐貴先生や東京大学消化器内科の工藤洋太郎先生といった同分野で活躍する先輩方も在籍しており、私にとっては最高の環境で世界最先端の基礎研究にチャレンジすることができました。
(左;Jorge, 右;Maria 帰国前にWCMCのラボにて)
左奥;工藤先生、右奥;筆者、右中央;中西先生
SBPでは研究所内外の複数のラボと共同研究を行うことで多分野の研究技術を学ぶことができ、さらにマウスの消化管内視鏡検査の技術を学びにボストンへ行かせていただけたことなど、日本では得ることのできない数え切れないほどの貴重な経験を得ることができました。
海外留学の最大のメリットは、基礎研究に24時間365日費やすことができることだと思います。実際に1日中実験をしているわけではありませんが、研究を生活の中心として同時に複数のプロジェクトを進めることができるため、日本で研究をしている時に比較すると10倍速くらいで研究が進んでいく感覚です。成果を出さないといけないプレッシャーもありますが、その分結果がでた時の嬉しさも倍増でした。
WCMCでの筆者デスク、論文作成中のため大量のデータと格闘中
憧れのアメリカ生活
基本的にボスは平日午前6時〜午後6時くらいまでラボにいるため、それ以外の時間はラボメンバーと色々な交流を図っていました。特にスペイン人が購入した麻雀牌を使っての麻雀や卓球大会、Friday nightのBeer partyなど仕事以外の時間もとても充実していました。
スペイン人によるスペイン料理解説を聞きながらみんなでランチ
左写真:中西先生vs工藤先生の日本人対決
中央写真:日本・中国・スペイン人での麻雀大会
右写真:日本人3人でゴルフ対決、同じようなレベルでいつも大盛り上がり
左写真:スペイン人も金曜夜のBeer partyを楽しみにしていました
右写真:東大(右;木下先生)・京大(左;牟田先生)から後続の先生方が来られて一緒に働くことができました。
さらに趣味のバスケットボールは、近くの公園で行われるpickup game(その場に集まった人でチームを組む)や韓国人クラブチームに所属して出場したlocal tournament game(審判をつけて行われるリーグ戦)などアメリカならではの裾野の広いバスケットを楽しむことができました。
左写真:韓国人チームに加入して出場した地元のリーグ戦で優勝!!
右写真:ニューヨークでは日本人だけでバスケができるほど多くの先生・友人と知り合えました。
コロナ禍での生活
ラボのニューヨークへの移動が決定した2019年末ごろからコロナの影響が出てき始め、論文のリバイスを始めたあたりでのラボ閉鎖にはとても困りました。幸いサンディエゴは人口密度が低く感染のリスクはとても低い時期でしたが、ラボの滞在時間が制限されていたため、思うように実験ができませんでした。さらに Black lives matterのデモが起こった直後にニューヨーク移住となっていたため、当初は外出制限令が出るなどマンハッタン中がとても緊張感があったことを覚えています。
マスク着用、social distanceを守ってスーパーでの買い物
留学後も続く国内外の人間関係
もちろん留学は第一線の研究を行うという目的が第一ですが、それとともに異文化に触れ、日本では出会うことのできなかったであろう人々と交流することで人生が大きく変わったと感じることができました。
帰国後は現在行っている大腸癌における腫瘍微小環境の研究を進めていますが、アメリカで同僚だった先生方との国内共同研究やJorge, Mariaとの国際共同研究により今も様々な面で助けていただいています。
またクリスマスなどのイベントや日本で災害が起こった時など、ことあるごとにメールをくださるJorge, Mariaをはじめとした留学を通じて得た友人達はかけがえのない宝物だと思います。
左写真:ラボ卒業式の集合写真
右写真:Jorge, Maria, 日本人3名、スペイン人4名、イタリア人、中国人、アメリカ人の多国籍ラボメンバーに寄せ書きをもらいました
これから海外留学を目指す先生方へ
海外留学は多くの人にとって人生に一度しかチャレンジできない異文化に触れるチャンスです。臨床医としての時間や留学費用など失うものはありますが、研究知識や経験はもちろんのこと、海外の友人や異文化への理解、英会話力など医師人生にとって有益になることを沢山得ることができると思います。海外留学に興味のある先生方がいれば、いつでもサポートしますので、ご連絡お待ちしています。
最後になりますが、私に留学の機会を与えてくださった平川元教授、大学院生での指導をして頂いた八代先生、海外留学を応援してくださった大平前教授を始め旧大阪市立大学腫瘍外科同門会の先生方、医局の諸先輩方にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。