疾患

2025年7月4日

  • 疾患(大腸)

大腸外科チーム

概要

下部消化管グループでは、大腸癌(結腸癌、直腸癌)や肛門癌をはじめとし、GIST(消化管間葉系腫瘍)、NET(神経内分泌腫瘍)といった下部消化管悪性腫瘍、また炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、腸閉塞や腸穿孔といった、小腸から肛門に至るまでの疾患に対し手術加療を中心とした治療を行っています。

悪性腫瘍の治療に関しては、手術加療とともに術前・術後の化学療法、化学放射線療法、また切除不能・進行再発癌に対する集学的治療といった治療を、患者さんの状態に合わせて提供しています。炎症性腸疾患に関しては消化器内科と連携をして、手術加療を行っています。

手術に関しては従来の開腹手術、また腹腔鏡手術に加え、昨今著明に普及してきているロボット支援下手術を積極的に取り入れています。患者さんの安全性、根治性を担保した上で、できるだけ侵襲の少ない手術を心がけています。大阪公立大学の下部消化管グループでは年間約300症例を超える手術を行っており、確かな実績を持っております。腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術に関して認定資格を持つスタッフが携わり、より精密で安全で確実な手術を提供しております。一方、下部消化管から他の臓器に浸潤しているような腫瘍に対しては、他の診療科(肝胆膵外科、泌尿器科、婦人科、形成外科など)とも連携し拡大手術を行うこともあります。

 また高齢化が進む現在においては、手術加療を受ける高齢者も多くなってきております。個人個人の耐術能をしっかりと見極めた上で、根治を目指した手術を行っています。

症例数
colon-01

◎下部消化管グループ実績 2024
colon-02

下部消化管グループの取り組み

●大腸癌治療

低侵襲治療への取り組み

 近年、腹腔鏡補助下手術またロボット支援下手術といった、傷の小さい低侵襲手術が普及しています。当科でも大腸癌手術の9割で低侵襲手術を取り入れております。近年の研究においても低侵襲手術は従来の開腹手術の成績と比較しても遜色ないことが報告されています。

 ▶腹腔鏡手術

 当院では1997年から本術式を導入し、実績を積んできました。拡大視効果によって、精密な手術を行うことができ、出血量も少ないのが利点といえます。当院では内視鏡外科学会技術認定資格を持つ複数人の外科医による的確な手術を実施しており、安全性の担保をしております。

colon-03

 ▶ロボット支援下直腸・結腸癌手術

2018年4月より直腸癌の手術においてロボット支援下手術が保険適応になりました。当院でも2019年よりロボット支援下手術を行っております。ロボット手術は多関節機能によって人間の手以上によく曲がり、手ぶれのしない鉗子が特徴で、直腸癌手術において非常に難しいとされる、狭い骨盤の中の操作が従来の開腹手術や腹腔鏡手術よりも、繊細で精密にできます。そのため、骨盤内の神経をより確実に確保することができるため、直腸癌手術の合併症の一つである排尿障害や性機能障害などが減少すると考えられています。最近では直腸癌の手術では9割以上でロボット支援下手術を行っております。

また2022年4月からはロボット支援下結腸切除も保険適応となり、ロボット手術の件数はますます増えております。従来の開腹、腹腔鏡手術よりもより精緻な手術を行い、より合併症の少ない手術を目指しています。
colon-04


より精緻な手術への工夫

 ▶エコーガイド下郭清

 手術中に超音波プローブを用いて、腸管膜の脂肪の中の血管の走行やリンパ節をリアルタイムに確認します。手術の時には腸管を持ち上げたりして術野を展開するため、術前の画像で評価した血管の走行とは細かい部分で異なっていることがあります。実際の切除対象となるリンパ節や周囲の血管・神経の走行を詳細に観察することで、より安全性を保つとともに、より精緻で確実なリンパ節郭清行うことができると考えます。
colon-05

 

 手術手技の定型化・手術教育

 手術は一人で行うものではなく、チームで行うものです。安全な低侵襲手術を広める体制として、腹腔鏡手術などの手技を定型化して教育用ビデオで共有したりハンズオンセミナーを行ったりといった、手術手技教育・技術認定医育成教育に取り組んでいます。

また、下部消化管グループで手術ビデオカンファレンスを定期的に行い、手術手技の向上に日々努めております。
colon-06


colon-07
左写真:模型でのハンズオンセミナー
右写真:手術ビデオカンファレンス

臨床試験への参加

 進行下部直腸がんに対して、手術前に短期間の放射線化学療法に加えて化学療法を行うTNTTotal Neoadjuvant Therapy:全術前療法)療法の適応や治療成績の検討が臨床試験として行われています。当院でも臨床試験に参加し新しい治療方法の検証を行っています。

当院での集学的治療への取り組み 大腸癌にとことん挑む

 ▶薬物療法

 近年大腸癌の薬物療法は非常に種類が増えています。大腸癌(切除不能または再発例)に対しては、ガイドラインに基づいた標準化学療法を提供しています。さらに、将来有望な治療法として臨床試験にも積極的に参加しています。

 ・術前化学療法

 大腸癌のなかで下部直腸癌の治療成績が最も悪いと言われています。手術の前の元気な状態で化学療法を行うことによりがん細胞を極力死滅させた後に手術で病巣を取り除く方針をとっています。

 ・術後補助化学療法

 大腸癌の術後補助化学療法は、手術後に再発を防ぐために行われる治療です。手術によって癌を切除した後でも、微小ながん細胞が体内に残っている可能性があるため、それらを抑制する目的で化学療法が行われます。再発リスクを減らし、治癒の可能性を高めるための治療です。

colon-08a

・切除不能進行再発大腸癌

 切除不能進行再発大腸癌に対する薬物治療は、治癒を目指すことが難しい場合が多いですが、癌の進行を遅らせ、症状を緩和することを目的として行われます。この段階での治療は主に化学療法、分子標的治療薬、免疫療法が中心となります。これらの治療の組み合わせで治療効果を高めます。

 

 <化学療法>進行したがん細胞に対して効果を発揮し、がんの成長を抑えたり、腫瘍を縮小させたりします。

 <分子標的治療薬>がん細胞の特定の分子や遺伝的変異に対して直接作用する薬物です。進行再発大腸癌においては、化学療法と併用することが一般的です。これにより、より効率的にがん細胞を攻撃できます。

 <免疫療法>患者の免疫系を活性化し、がん細胞を攻撃する治療法です。特に、MSI-H(高ミスマッチ修復欠損)やdMMRDNAミスマッチ修復欠損)といった特定の遺伝的特徴を持つ大腸癌に対して免疫チェックポイント阻害薬が有効とされています。

 ▶化学放射線療法

 化学療法と放射線治療を組み合わせた治療法です。この治療法は、特に局所進行大腸癌(特に直腸癌)に対して効果的です。放射線療法ががん細胞を直接照射して破壊するのに対し、化学療法は放射線の効果を増強し、がん細胞をさらに攻撃します。化学放射線療法は、手術前や手術後の補助療法として使用されることが一般的です。放射線科と連携して治療を行います。

特に下部直腸癌においては術前化学放射線療法を行っています。腫瘍縮小効果を示した状態で手術療法に移ります。

当院での下部直腸癌術前治療方針(2025年)
colon-09a

 ▶転移巣の切除

 遠隔転移に対する外科治療を積極的に行っています。肝転移や肺転移に対しては他の病変が制御できている限り切除を行う方針としています。肝胆膵外科や呼吸器外科と連携をとって治療を進めていきます。肝転移は場合によっては“liver-first”戦略や大腸の原発巣との同時切除も選択します。拡大切除が必要な症例であっても、薬物療法を組み合わせながら、根治切除を目指す外科的戦略をとっています。

集学的治療が奏効した切除不能大腸癌
colon-10a

大阪公立大学消化器外科では、大腸癌の進行度に応じて、手術と補助化学療法術前・術後)や放射線療法などを組み合わせた集学的治療を行っています。また切除不能進行再発大腸癌に対しては薬物療法を中心とした治療を行っています。

 

他科やメディカルスタッフとの連携

 ▶化学療法カンファレンス

多職種チーム(消化器外科、肝胆膵外科、消化器内科、放射線科、化学療法担当メディカルスタッフ等)でカンファレンスを行い、患者さん一人一人に合った個別化治療計画を立てています。

 

炎症性腸疾患カンファレンス

消化器外科(下部消化管)と消化器内科で合同カンファレンスを開催し、手術適応の検討を行っています。術前・術後まで一貫して連携しています。

 

  

大腸癌について

大腸とは

大腸は小腸から続く約1.mの管腔臓器です。体の右側から盲腸、上行結腸、横行結腸、左側の下行結腸、S状結腸、骨盤内に続く直腸の総称です。水分や栄養の一部を吸収して消化したものを便にする働きをしています。

colon-11

大腸癌とは

大腸癌は、正常な粘膜や腺腫などの良性腫瘍が悪化することで発生します。癌が小さいうちの症状はあまりはっきりとせず、便鮮血検査が陽性となって発見されることが多いです。大きくなってくると腹痛や血便、便通異常などが多く認められます。発生部位として多いのはS状結腸や直腸です。日本における大腸癌の罹患率は年々増加しています。死因としては、男性では肺癌に次ぐ2位、女性では1位となっています。

大腸癌は大腸の粘膜の表面から発生し、大きくなるにつれて大腸の壁の外側に浸潤していきます。大腸癌が進行すると、最初に発生した箇所から離れた箇所に移っていきます。これを転移と呼びます。転移には発生した箇所(原発巣)からリンパ管を通って近傍のリンパ節に転移するリンパ行性転移、原発巣から血流に乗って他の臓器(肝臓や肺)に転移する血行性転移、浸潤した癌が大腸壁を破って直接お腹の中に撒かれる腹膜播種の3種類があります。領域を離れた箇所のリンパ節転移、血行性転移、腹膜播種を合わせて遠隔転移と呼びます。

大腸壁をどこまで浸潤しているか、リンパ節転移があるかどうか、遠隔転移があるかどうかで、大腸癌の進行度いわゆる「ステージ」が決まります。

<大腸癌の転移>
colon-12



<大腸癌の進行度>

大腸癌の進行度は、壁深達度(T因子)、リンパ節転移の有無(N因子)、遠隔転移の有無(M因子)で決まります。

 

・壁深達度(T因子)
colon-13

Tis

癌が粘膜内にとどまり、粘膜下層に及んでいない

T1a

癌が粘膜下層にとどまり、浸潤距離が1000μm未満である

T1b

癌が粘膜下層にとどまり、浸潤距離が1000μm以上であるが固有筋層に及んでいない

T2

癌が固有筋層まで浸潤し、これを越えていない

T3

癌が固有筋層を越えて浸潤している

T4a

癌が漿膜表面接しているか、またはこれを破って腹腔に露出している

T4b

癌が直接他臓器に浸潤している

 

・リンパ節転移(N因子)


N0

リンパ節転移を認めない

N1

N1a

腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が1個

N1b

腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が2-3個

N2

N2a

腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が4-6個

N2b

腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が7個以上

N3

主リンパ節に転移を認める。
下部直腸癌では主リンパ節および/または側方リンパ節に転移を認める

・遠隔転移(M因子)


M0

遠隔転移を認めない

M1a

1臓器に遠隔転移を認める(腹膜転移は除く)

M1b

2臓器以上に遠隔転移を認める(腹膜転移は除く)

M1c

腹膜転移を認める

大腸癌進行度分類(ステージ) (大腸癌取り扱い規約9版)
colon-14

診断

大腸癌の診断は下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)による観察と生検、C T検査、M R I検査、採血検査などの結果から行います。また遠隔転移の評価を行うのにP E TC Tを追加することがあります。

大腸癌かどうか、また大腸癌の中でもどのような型の癌かを調べるには最終的には生検や手術で切除した癌の病理学的組織診断が必要になります。

また大腸癌の化学療法を行う際には、癌の遺伝子情報を調べどのような種類の薬が合うかを判定します。

 

 

治療

大腸癌治療は主に手術、薬物療法、放射線療法を組み合わせて行います。癌の部位や進行度によって、手術のみの場合もあれば、術前に化学療法、放射線療法を行う、また術後に化学療法を行うことがあります。また、手術で切除できない大腸癌や再発した大腸癌の場合は化学療法が主な治療になります。

 

 

手術加療

大腸癌の手術は開腹手術、腹腔鏡手術、最新の低侵襲手術であるロボット支援手術など様々な方法があり、癌の部位と進行度に応じて適切な手術方法を選択することが重要になります。

 

 

1.開腹手術

 開腹手術とは、腹部に約1520cmの切開をして行う手術方法です。主に癌が大きい時や多臓器に進行している時などに選択します。外科医が直接病変を見て、触って手術をするため、出血などに迅速に対応することが可能です。傷がある程度大きくなるため、術後の痛みによる体の負担などが予想されます。

2.腹腔鏡手術

 腹部に約1cm程度の穴をあけビデオスコープを挿入し、腹腔内を膨らませモニター画面に大きく映します。さらに数カ所の小さな穴をあけ、長い棒状の特殊な手術道具を挿入して手術を行います。この方法では最終的に病変を取り出す、5cm程度の切開創が必要になりますが、従来の開腹手術に比べて、傷の痛みが少なく、術後の患者さんへの負担が少ない、また傷が目立ちにくいといった利点があります。手術時間は開腹手術に比べて長くなることが多いです。

3.ロボット支援下手術

 大腸癌のロボット支援下手術は20184月より直腸癌の手術においてか保険適応となり、また2022年4月より結腸癌の手術も保険適応となりました。

ロボット支援下手術は腹腔鏡手術と同様に腹部に小さい傷をあけ、ビデオスコープを挿入し腹腔内を膨らませて行います。腹腔内に挿入する道具はロボットに接続されていますが、自動運転ではなく、すべて外科医によるマニュアル操作で動きます。多関節機能によって腹腔内で道具が繊細に曲がるため、特に直腸癌手術において非常に難しいとされる、狭い骨盤内の切離操作が従来よりも精密にできます。そのため神経損傷といった合併症の発生が減少するといわれています。傷が小さく痛みが少ない低侵襲手術のひとつであり、開腹手術や腹腔鏡に匹敵する治療成績が報告されています。

 

 

●炎症性腸疾患

 大阪公立大学消化器外科は、潰瘍性大腸炎・クローン病のいずれも外科治療の対象として取り扱っております。

 大腸全摘+回腸嚢肛門吻合などの根治・機能温存術、狭窄に対する狭窄部切除や狭窄形成術、瘻孔や痔瘻に対する局所手術、一時的/永久人工肛門造設、といった術式を症例に応じて行っています。時には消化管穿孔や中毒性巨大結腸症といった命に関わる重篤な状態に対して、緊急手術での対応も行います。

  • 潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎は難治性腸疾患のひとつですが、基本的には内科的な薬物治療が優先されます。しかし薬物治療の抵抗例、重症出血、難治性合併症(消化管穿孔、膿瘍形成、中毒性巨大結腸症など)、大腸癌または高度異形成病変の出現がある場合は手術の対象となります。手術は原則的に大腸全摘術(盲腸から直腸までの切除)を行いますが、病状や患者さんの状態によって手術の回数、再建の方法、アプローチ法が異なります。

・標準治療

❶大腸全摘術+回腸嚢肛門吻合(IAA

❷大腸全摘術+回腸嚢肛門管吻合(IACA

・病変の程度や年齢、全身状態癌の有無、併存疾患の重症度により選択する治療

❸結腸全摘+回腸直腸吻合術

❹大腸全摘+回腸人工肛門造設術

colon-15


大腸の炎症や患者さんの状態が良い場合には1回で大腸切除から再建までを終了しますが、炎症が強い時や全身状態が悪い時には2回、3回に分けて切除と再建を行います。

また、肛門機能温存を希望かつ条件が合えば長期排便機能を保持する術式の選択肢もあります。

分割手術の例
colon-16a

・クローン病

局所の合併症(消化管狭窄による閉塞、瘻孔形成、膿瘍、有症状の病変、出血、消化管穿孔)に対して病変部の腸管の局所切除、狭窄部切除や狭窄形成術を行います。バイパス手術や人工肛門造設術を選択することもあります。肛門病変に対してドレナージ術を行うこともあります。

クローン病は再燃・多発性があるため、できる限りの腸管温存を優先する戦略が一般的です。術後も再発をきたすことがあるため、消化器内科専門医の治療を受けていくことが大切です。

 

 

炎症性腸疾患に対する低侵襲治療への取り組み

 ▶腹腔鏡補助下手術

 炎症性腸疾患の手術は従来開腹手術が主流でした。しかし近年、適応を見極めた上で腹腔鏡手術を積極的に行っています。当院では2001年からこの術式を取り入れ経験を積んでいます。また最近では大腸癌を合併した場合には、ロボット支援下手術も積極的に行っています。