疾患
2025年7月4日
- 疾患(胃)
胃外科チーム
診療
1.手術
胃外科チームでは、胃がんをはじめ、GISTなどの粘膜下腫瘍に対しても、幅広い診療を行っています。最近では、高度肥満症に対する減量代謝改善手術も開始しました。
近年、胃がんにおいては、食道胃接合部癌や、化学療法後のコンバージョン手術など、手術が高難度化しており、また、社会の高齢化に伴い、高齢者胃癌も増加傾向にあります。従来の開腹手術に加え、腹腔鏡手術やロボット支援下手術といった低侵襲手術を積極的に導入し、患者さんにとって身体への負担が少なく、安全性の高い治療を提供しています。現在では、約8割の手術を低侵襲手術でおこなっています。
とくにロボット支援下手術は、三次元拡大視野と高精度な鉗子操作により、非常に精緻な手術が可能であり、術後の早期回復や合併症リスクの低減につながっています。食道胃接合部癌や進行癌症例、また肥満症例に対して、よりロボット手術のメリットを活かせると考えています。
2.化学療法
胃がんやGISTに対する薬物療法にも積極的に診療をおこなっています。
特に、胃がん薬物療法については、近年非常に複雑化しており、消化器内科との定期カンファレンスを開催し、最新のエビデンスに基づいた治療を提供しています。
胃癌治療ガイドライン第7版(2025年3月改訂)
切除不能進行再発胃癌に対しては、胃癌治療ガイドラインに基づき、4つのバイオマーカー検査の結果から最適な薬剤を決定します。最近では、化学療法奏効後のコンバージョン手術も増加傾向にあり、個々の患者さんの状況に応じて、化学療法と手術加療を組み合わせた集学的治療をおこなっています。
教育
開腹手術が減少し、鏡視下手術が増加している現在、胃外科チームでは、主に腹腔鏡手術を中心に術者教育をおこなっています。手術手順書を作成することで、チーム全体が共通認識をもつことを目指し、手術手技の定型化を心がけています。
また、手術ビデオの振り返りも重視しており、胃外科チーム全員で毎週手術ビデオのカンファレンスをおこなっています。さらに、大学および関連病院による勉強会、全国のハイボリュームセンターを含む他施設とのWeb勉強会などにも参加し、手術手技の向上を目指しています。
このような取り組みを継続している結果、ここ数年、日本内視鏡外科学会技術認定医(胃)の合格者を毎年輩出しています。
研究
胃癌の罹患率は低下傾向にあるものの、進行症例やスキルス胃癌症例の治療成績はいまだに十分とは言えず、その治療成績向上を目指して、下記の通り、各種研究に取り組んでいます。
1.基礎研究
<スキルス胃癌の癌周囲微小環境>
スキルス胃癌の組織では、癌細胞は多くの間質に取り囲まれており、癌細胞と間質によって癌微小環境(TME:tumor microenvironment)を形成しています。TMEにおける癌細胞と間質とのクロストークが、スキルス胃癌の高い浸潤傾向、播種転移傾向に繋がっていることが知られています。
我々はこれまで、間質を構成する主要な細胞である癌関連線維芽細胞(CAF:cancer associated fibroblast)由来のエクソソームがスキルス胃癌の浸潤能の亢進させることを報告してきました。その機序について、現在は癌細胞におけるHippo pathwayの役割に着目しており、その機序の解明および新規治療開発を目標に取り組んでいます。
<胃癌における循環腫瘍細胞の役割>
スキルス胃癌は早期診断が難しく診断時はすでに病期が進行していることが多いため、新たな早期診断法の開発や治療法確立が求められています。近年のリキッドバイオプシー研究により、血液循環癌細胞(circulating tumor cell;CTC)が腫瘍進展の比較的早期から担癌患者の血液内を循環していることが報告されています。スキルス胃癌に特異的な分子を同定し、検出手技を確立できれば、早期発見が困難である問題を克服し、患者の予後改善に貢献できる可能性があります。難治性胃癌の新たな診断ツールの開発を目指して取り組んでいます。
2.臨床研究
新たな治療の効果などを評価する臨床試験は、今後の最も適切な胃癌の治療方針を決定していくのに重要な役割を担っています。当科では日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG)、や大阪消化管がん化学療法研究会 (OGSG)のメンバーとして、多くの臨床試験に積極的に参加しています。
また、大阪公立大学およびその関連病院のデータを収集した臨床研究も推進しており、より安全で有効な治療の検討を進めております。