活動について

2022年2月17日

  • 全地区共通

A地区で実践した「要支援児童を疑う子どもへの学校と医療の横断的連携」のご紹介

A地区で実践した「要支援児童を疑う子どもへの学校と医療の横断的連携」のご紹介

この「思春期の子どもを支える会」で専門家同士が顔の見える関係を築いた縁で、1人の子どもの横断的な連携支援ができました。「人やアイデアが共鳴し、新しいシステムやサービスを生み出す」この会の目的の一例です。診療報酬には、予防的ケアはほとんど計上されないため、助産師個人も、所属する施設にも検査や医師の診察、投薬以外は報酬がありません。それでも「養護教諭が繋いでくれた大切な命を助産師が専門的に関わることがお節介なら、私はもっとお節介に関わりたい。そんなきっかけから繋がる命があることを私たちは知っています」と力強い信念と行動で実践されました。中学校卒業後も切れ目なく継続する治療やケア、専門家の[熟練スキルの共有や継承]、こうした予防支援に対し、例えば市町村が病院に契約料を払うなど[経済システム構築]といった課題はありますが、他の地区でもこのようなサービスを創造する際の参考にされてはどうでしょうか。

下記は、近畿学校保健学会という主に養護教諭の先生が参加される学会に発表した抄録です。「思春期の子どもを支える会」の登録者には研究者もいます。最前線で実践されている専門家と協働して、現象の可視化や支援の効果などを研究として広く発信する役割も担えます。子どもが特定されないよう、実践者のお名前と所属は公表していません。これはB養護教諭とC中学校校長、D助産師とE病院看護部長の了解を得て、掲載しています。

 

 

抄録]要支援児童を疑う子どもへの多職種連携の実際

キーワード:要支援児童、多職種連携、横断的連携、受診、体制づくり

【目的】

思春期の子どもと関わっている専門家が、要保護・要支援児童ではないかと疑った時に同僚、多職種、支援機関との連携において、円滑に連携できたとする要因について明らかにする。

【方法】ケース・スタディ

本ケースに関わった養護教諭、助産師には半構造化面接でデータ収集も行った。ケースの分析には自己決定理論(SDT:Deri&Rian,1985,2002)を用いた。人が行動を起こす際、動機づけが作用していると捉え、何も考えていない無動機、義務、賞罰、強制による外発的動機づけ、内発的動機づけの3つがあり、進むほど自己決定の度合いが高く、行動に結びつきやすいとしている。SDTでは外発的動機づけであっても内面化と統合の過程で自己決定的になる場合もあるとしている。外発的動機づけには「周りに言われたから避妊する」等の外的調整、「相手に嫌われたくないから避妊する」等の取り入れ的調整、その後内面化と統合により「自分がそうしたいから行動する」同一視的調整、統合的調整へと進む。また動機づけを高める要因として自律性(自らが決定したいという欲求)、有能感(自分ができるという自信)、関係性がある。倫理的配慮のため、ケースが特定されるような情報は省き、多職種連携の状況と課題を示す。所属機関の研究倫理委員会で承認を得た(申請番号2020-44)。

【ケース紹介】

不登校傾向にある中学生女児の性感染症罹患と妊娠を養護教諭が疑い、養護教諭が中心となって管理職、担任、関係教師等学校における受診勧奨を主とする支援体制を整備した。養護教諭と産婦人科医療施設の助産師が連携し、助産師が女児の受診前面談、受診中の寄り添い、親も含めた受診後のモニタリングを中学校卒業まで行った。受診継続、服薬継続で、性感染症の治療を十分とまではいかなかったが受けることができた。助産師は院長、看護部長等の管理職に理解と了解を得て、女児の受診に合わせて外来勤務をした。女児が安心して受診するために、要支援児童に配慮可能な医師が担当できるよう、医師や外来の看護職への事前説明も含め根回しを行った。助産師は女児の状況や思いをひたすら傾聴し、信頼関係を構築し、性活動を繰り返すしかない養育環境を理解し、性感染症による不妊等の健康被害、予防教育や家族も含めた支援を行った。言葉や紙媒体のリーフレット利用ではなく、携帯電話のカレンダー機能を使って服薬管理、月経周期と性行動の管理を提案し、女児の有能感を高める教育支援を行った。女児は「自分の置かれた環境を理解し、自他共に心身の健康を大切する」ための知識を獲得し、行動は一旦変容したが、継続しなかった。養護教諭と助産師は、2017年に発足した地元の教育・医療・保健・福祉の専門家で構成する「思春期の子どもを支える会」に参加し、顔が見える(人柄や価値観などを双方が認知し信用している)関係を構築していた。

【結果・考察】

1.支援による自己決定能力の向上

受診行動については、無動機だった状態から外的調整、性感染症を治療したいという取り入れ的調整、同一視的調整まで進んだと考えられる。教師は強制で動機づけたわけではなく、女児の登校や「受診してもいい」という自発的な意志の出現に合わせていた。養護教諭がいつでも受診に付き添えるよう、保健室の担当を配置する等、学校の支援体制整備も良かった。受入医療施設も、柔軟に対応できるよう助産師がチームを組んでいた。女児には自律性は確認できなかったが、養護教諭や助産師に加え、彼女らの働きかけで親が受診に付き添ったり等、女児に関心と愛情を示す関係性が受診や服薬行動の動機づけを高めたと思われた。性感染症や望まない妊娠について知識や行動を伝える外発的動機づけは小中学校の教育でも行っているが、内面化と統合の進化は子どもの認知、養育環境等により1人1人異なり、時間も必要である。学童期以前から中学校卒業後の思春期までの切れ目ない支援体制が望まれる。

2.多職種連携における今後の課題

円滑に連携できた要因には、[既存のシステムに囚われない養護教諭と助産師の信念と同僚や学校・施設への働きかけ][養護教諭と助産師の(女児への支援や仲間づくりの)熟練スキル][顔が見える場の存在]があった。課題は[熟練スキルの共有や継承]、事前面談や予防教育・家族支援は無料奉仕であったため、こうした予防支援に対する[経済システム構築]が考えられた。

 

文責:大阪府立大学大学院看護学研究科 古山美穂