センター設置の理念

センター設置の理念注1

高橋 哲也(公立大学法人大阪理事・大阪公立大学副学長)

 

アドミッションセンターの設置

大阪公立大学は2022年に大阪市立大学と大阪府立大学が統合して誕生した日本最大の公立大学であり、大学入試に関しても受験者数が15,000人を超える国公立大学最大規模の入試を実施している。このような大学として、入試戦略の企画立案や入試結果の分析や効果的な入試広報を専門に行う部署として「アドミッションセンター」が置かれるのは必然であったが、戦後初めての総合大学間の合併ということで大学統合作業が教育組織編成や教務ルールの統合といった当然予想されたことだけでなくキャンパス問題も含めて多くの乗り越える課題があったなかで、入試についてはその実施をどう行うかについての議論に多くの時間が割かれ、この時期に日本の大学全体に求められていた入試改革への対応は不十分なままであり、アドミッションセンター設置も最後に何とか設置を認めてもらうというレベルで、アドミッションセンターの専任教員が不在のままのスタートとなった。開学時期が決まっている中で、大学をスタートさせるのに最低限必要なことに集中したためやむを得ない部分もあったが、多くの課題が残されておりアドミッションセンターにはその解決が期待される。

 

日本の大学入試のプロセス

ここではまず日本の大学入試全般の課題についてみていく。大学入試はアドミッションポリシーに掲げる資質・能力を有している学生をどう選ぶかという業務である。このためには、①アドミッションポリシーの策定入試方法の決定と定員振り分け選抜要項(募集要項)の決定と入試広報入試問題の作成 入試の実施合格者の決定入試結果の振り返り(次年度以降への反映)といったプロセス(細かいプロセスは省略)を経る必要がある。

 

日本の大学教員と入試業務

日本の大学ではこのプロセスの多くの部分を大学教員が担っており、この入試業務負担が、大学教員が教育・研究に十分な時間を割けない原因の1つ2とされている。この中でも入試問題の作成は膨大な時間と労力をかけて行われているが、大学教員は入試問題作成について訓練を受けておらず労力に見合った成果が上がっているかについても問題がある。大学教員は自分の授業で教えた内容について学生の学習成果をテストで測定することは日常的に行っているが、大学入試においては高校の学習指導要領に沿った学習を前提として出題が求められ、中等教育での教育内容や教育方法の変化について熟知している大学教員はごく一部である。

 

入試専門家不在の問題

一方、大人数で既有知識にもバラツキがある受験生に対する試験では、テスト理論(古典的テスト理論、項目反応理論等)を用いてその性能を評価することも必要であるがこれを出題担当部局に求めるのは難しい。本来、大学教員は大学入試問題の作問について専門家として大学に採用されていないのである。また、アドミッションポリシーに沿った学生を獲得するために多様な入試方法を検討することを求められても、総合型選抜の実施方法やその選抜方法の的確性についてそれぞれの教育課程での検討自体が専門性の欠如から困難であり、さらにそのために多大な労力がかかって教育・研究にかける時間が減るといった悪循環からそういった入試の導入にも前向きになれないといった事情もある。このような状況から大学入試においては、入試としての質を向上させながら教員の負荷を最小化するといった難題がつきつけられている。

 

少子化と入試戦略

急激に進展する少子化も大学入試において深刻な問題である。これまで、一定の志願者が集まっている大学では上記のような課題はあっても入学する学生の質という点では担保されてきた。しかし、2017年に120万人だった18歳人口が2032年には102万人になり、15%も減ることが分かっていて3その後も減り続ける。進学率は微増で推移すると予測されているが、一定レベル以上の大学の出願には影響しないのでこの率で母数が減ると思うべきであり、各大学の定員が変わらなければ当然合格最低レベルは落ち続けることになる。こういった状況では、入試戦略が重要な役割を果たすようになり、これまでの一般入試で多くの学生を合格させ、残りを特別選抜で取るといった形での入試形態の存続自体が見直されるようにならざるを得ない。

 

入試の専門家の必要性

上記のような状況でアドミッションに関する専門家が必要となり、その役割も入試戦略の策定、作問への教員負荷の削減、入試結果の分析と戦略へのフィードバックといった幅広い分野の専門性が必要となっている。本学にはこれに加えて学士課程において1学域・11学部という理系・文系・医療系・文理融合といった幅広い学問領域に対しての入試と公立大学だけで可能な中期日程という入試(これが受験者数の4割程度を占める)を実施するという状況で、アドミッションセンターの役割はより大きくなる。

 

本学アドミッションセンターに期待すること

まず、求められるのは入試戦略の策定である。大学設置申請の関係から2025年度に行う2026年度入試からしか大きな変更はできないが、少子化への対応は各大学で進んでおり本学としても一刻の猶予もならない。一般入試への依存度を減らすことや本当に本学に入学してほしい学生に出願してもらえるような特別選抜の設計などを期待している。国の高等教育政策や他大学の状況の調査を踏まえて、上述のような入試改革を実施していくためには、学域・学部との日常的なコミュニケーションの機会を増やし、入試改革の必要性についての共通認識を醸成してもらいたい。さらに、高校教育の改革と現場の状況を知るためにも高校教員との交流も積極的に行っていただきたい。調査分析能力を高めて入試の改善のためにフィードバックをしていくことは当然行われると思うが、より戦略的な提言を期待している。

 

最後に、このような重責を担ってもらうアドミッションセンターの充実させることが当然必要であり、大学入試に長年関わってきた理事として役割を果たしていく所存であることを申し添えて本稿を閉じることとする。

 

注1:本稿は「大阪公立大学アドミッションセンター年報」第12022年度, p.1p.2に掲載された「大阪公立大学アドミッションセンターへの期待」を一部編集して転載しています。

 

注2:2023.3.30に開催された「総合科学技術・イノベーション会議有識者議員懇談会」(https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20230330.html)において、「研究に専念する時間の確保(最終まとめ(案)、評価疲れアンケート)」という議題で議論され、その資料として「研究に専念する時間の確保 ー研究力強化・若手研究者支援総合パッケージフォローアップー」において、大学のマネジメントと関わりのある7つのテーマの1つとして大学入試業務の負担軽減が挙げられている。入試についての資料は資料1-7にあるが、資料1-6の最終ページに各国の入試制度の比較があり興味深い(入試の作問・実施に大学教員が関与しているのは比較対象の中では日本だけ)

 

注3:(参考)リクルート進学総研の資料 <最新版掲載URL>https://souken.shingakunet.com/research/2023/02/182022.html
大阪府は2022年77,446人→2034年68,299人、9,147人減少と全国平均より減少率が大きく、近畿全体でも他の地域より減少率が大きいので、本学は少子化の影響をより大きく受ける。近畿以外からの受験生の獲得戦略もより重要となる。