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2025年5月29日
アンビセンスコルミオウイルスに関するプレプリントを公開しました!A preprint about ambisense kolmioviruses is now open!
アンビセンスコルミオウイルスの発見に関するプレプリントを公開しました!
Identification of ambisense kolmioviruses
Mai Kishimoto, Sakiho Imai, Manabu Igarashi, Masayuki Horie
https://doi.org/10.1101/2025.01.08.631871
D型肝炎ウイルス(HDV)に代表されるコルミオウイルス(注1)は、環状マイナス鎖RNAをゲノムとして持つウイルスです。コルミオウイルスのゲノムは非常にユニークで、約1,500-1,700塩基ととても小さく、DAgと呼ばれるひとつの遺伝子しかコードしていません。さらにゲノムの約70%が自己相補性を持っています。そのため、コルミオウイルスのゲノムの進化には強い制約があると考えられていました。
1970年代にHDVが発見されて以来、40年もの間近縁のウイルスは見つかっていませんでした。しかし、2018年以降に様々な脊椎動物や無脊椎動物からコルミオウイルスが発見されました。しかし、以前の研究では全長ゲノムを決定できていないコルミオウイルスも存在していました。その一例がカナリアコルミオウイルス(scKoV)で、この以前に私たちの研究において発見されたウイルスです(Iwamoto et al., Virus Evol. 2021)が、全長ゲノム配列は決定されていませんでした。
本研究では公共RNA-seqデータの網羅的な解析により、scKoVの全長配列を決定することに成功しました。さらに、このウイルスの遺伝子発現パターンを解析したところ、なんとこれまでとは極性が逆(すなわち今まではマイナス鎖と呼ばれていた極性)のmRNAを発現することが判明しました。さらにこのmRNAは選択的スプライシングによって、2つのアイソフォームを発現しており、それぞれC末端の配列の異なるORF2aおよびORF2bタンパク質をコードし得ることがわかりました。
本研究により、scKoVは進化の過程において、既知のmRNAとは逆鎖のmRNAの転写および選択的スプライシングという形質を獲得し、多様な遺伝子を発現することが強く示唆されました。このように、進化的に強い制約が存在する小さなゲノムのなかで新規遺伝子を獲得するという、ウイルス学的に新しい概念を提唱することができました。
非常に面白い研究なので、コラムを書きたいと思っています。
注1)以前はデルタウイルス(デルタウイルス属)と呼ばれていましたが、コルミオウイルス科(Komioviridae)が設立され、D型肝炎ウイルスのみがデルタウイルス属となりました。