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2025年11月19日
学会誌「知能と情報」に掲載されました.
2024年度 卒業生 下田萌喜君の修論が論文誌に掲載されました
ポイント
◇航空機の組み立てに使用するセルフロックナット※1を自動で締め付けるハンドナットランナ※2のための自動着座※3検知システムを開 発.
◇作業者の熟練度に依存せず,短時間で正確な締め付けが可能になることで,検査工程の効率化と作業の安全性向上に貢献.
概 要
航空機を組み立てる際,緩みにくいセルフロックナットを使用します.しかし,このナットは緩み防止のため変形加工されており,ハンドナットランナでネジ締め付けを行ったとしてもネジ締め付け完了を自動検知することが難しく,締め付け過剰によりネジが破損しボルトのネジ部に傷が入る可能性があります.
そのため,手動工具を用いて締め付け状態を確認しなければならず,時間や手間がかかるという課題がありました.
また,通常のナットランナで使用されているトルク※4値を直接用いた単純な自動判定法はセルフロックナットでは誤判定してしまうリスクが高いため,ハンドナットランナへ高精度な自動着座検知機能を搭載することが求められていました.
大阪公立大学大学院情報学研究科の中島 智晴教授,楠木 祥文講師らの研究グループは,データの異常を統計的に検出できるホテリング理論※5を応用し,進化計算※6の一種であるCMA-ES(進化的戦略)※7という方法を使って,判定式の中で使用する3つの係数を、自動的に最適な値に調整するシステムを開発しました.
この技術により,人が手動工具を使って行っていた締め付けの調整作業を,自動で機械が行えるようになり、作業の効率化と品質の安定化が実現できます.
また,364本の締め付けデータで最適化された係数を評価用30本で検証した結果,着座時刻※8の平均誤差を従来比約4分の1(約2.3秒→0.5秒)へ削減しました.
今後,今回提案したシステムをハンドナットランナに組み込むことで,長年の経験と高い技術力を持った熟練工でなくても,技術スキルに左右されず短時間で正確な締め付けが可能となり,検査工数削減と安全性向上に役立つことが期待されます.
本研究成果は,2025年11月15日に学会誌「知能と情報」に掲載されました.
【論 文 名】セルフロックナット締め付けにおける進化計算を用いた着座検知指標の生成
【著 者】中島 智晴、下田 萌喜、楠木 祥文、油谷 謙介、吉本 智
【掲載URL】https://doi.org/10.3156/jsoft.37.4_717
用語解説
※1 セルフロックナット:ゆるみにくいようネジ山の一部を変形させたナットで,振動や温度変化でも自然に回りにくい.航空機など高い安全 性が要求される構造物で多用される.
※2 ハンドナットランナ:人が手で保持しながら電動でナットを締め付ける工具で,締め付けトルクを自動制御・記録できる小型ランナであ る.大量組立現場で省人化と品質保証を両立させる目的で使われる.
※3 着座(ちゃくざ):ナット座面が部材に密着し、これ以上回しても軸方向の締め付け力しか増えない状態。適切な着座検知はボルト破損 やゆるみの防止に重要.
※4 ホテリング理論:多変量データの外れ値(異常)を統計的に検出する手法で、ホテリングの T^2 統計量を用いる。今回の研究では「異 常=着座到達」とみなして判定に用いる.
※5 進化計算:生物の進化原理(選択・交叉・突然変異など)を模倣して最適解を探す計算手法の総称。複雑な問題でも探索を自律的に進 めやすい.
※6 CMA-ES(進化的戦略):進化計算に基づく最適化手法で,平均と分散を持つ正規分布を進化させながら最良解を探索するアルゴリズ ム.実数パラメータ調整を自動化できることが利点.
※7 着座時刻:ナットが着座した瞬間の時刻.この時刻より自動判定が早すぎても遅すぎてもナット締め付けが不十分になる.
※8トルク:回転させる力の大きさを示す物理量で,ナットを締めるときはボルト軸をねじる力として働く.
図1:ハンドナットランナで締付けを行う様子