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2025年8月27日

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【講演】 国家公務員・地方公務員 レジリエントに日本を支えるプレーヤー/法学研究科 山﨑 重孝客員教授

2025年7月11日(金)杉本キャンパスにおいて、法学部・法学研究科 都市シンクタンク「レジリエントな都市大阪のあり方政策共創ユニット」 企画の講演会が開催され、法学研究科の山﨑 重孝客員教授が「国家公務員・地方公務員 レジリエントに日本を支えるプレーヤー」と題して講演しました。司会は、法学部長・法学研究科長の手塚 洋輔教授が務め、法学部の学生だけでなく、他学部の学生や職員など約60名の参加者が集まりました。

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山﨑氏は、1983年に自治省(現、総務省)に入省後、総務省自治行政局行政課長、内閣総務官、総務省自治行政局長、内閣府事務次官などを歴任。その間に愛知県・鳥取県・北九州市などの地方自治体でも勤務されるなど、公務員として幅広い経験をお持ちです。今回は、公務の実情や、国や地域を支える公務員の使命とやりがいについてお話しいただきました。

講演ダイジェスト

大阪公立大学として新たなことを始めようと、福島 伸一理事長の発案で、医学、都市工学、経済学、法学、政治学、文学の先生、大阪府庁の室長さんや大阪市役所の部長さんなど、いろいろな人たちと学部を超えた議論をしています。高齢者人口が最大になる2040年前後がポイントなのですが、その時に大阪府庁、大阪市役所がどのような課題を持ち、それにどのように立ち向かっていくか、それぞれの専門知を出しながら議論を進めています。大阪公立大学法学部の皆さんは、約半数が公務員を志望されるとお聞きしましたので、わたくしの経験を踏まえ、市役所や府庁、県庁、あるいは日本国政府がどのような動きをしているのか、また、そこでの仕事のやりがいは何なのかなどをお話ししたいと思います。

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公務員としての軸となった出来事

これまで約40年間公務員として働き、現在は非常勤で内閣官房参与をしています。また、家族が公務員一家ということもあり、公務員の良いところも、大変なところもよく分かっていると思います。1983年に自治省、現在の総務省に入省した後、愛知県庁に配属された時に、生涯の公務員生活を左右するような出来事がありました。そこに、ものすごく仕事ができる、シャープでしかも温厚な人がいました。その人は時々平日に休んでいました。実は、その人は愛知県の出先の地方事務所に前年まで勤めていて、町村の人たちからどうしてもその人と話がしたいと頼りにされていたのです。そのため、その人は休暇を取り、元の職場の町村の人たちのお世話に行っていたのです。私はその時に、こういう人が県職員にいるのか、と思いました。その人の最終学歴は高校卒業でした。でも、本質は学歴などではなく、本当にやる気のある、しかも人間力のある人が公務員になると、こんなに周りの人が頼りにするのだなということが分かり、私は衝撃を受けました。人に頼りにされ、人や社会に貢献できるということが、やっぱり公務員の本道なのだなと思いました。今から考えると、私の公務員生活の基本を決めた出来事でした。

公務員のやりがい

人の役に立つ仕事ができるのが公務員のやりがいではないでしょうか。自分たちがやればやるほど、国民や住民が暮らしやすくなるようになるということです。公務員は、若い時でも、やる気と勉強する力と能力があれば、やれることがたくさんあって、組織に貢献して物事が前に進んでいきます。公務員の良いところはチームで仕事をするところです。課長がいて課長補佐がいて係長がいて事務官がいる。それぞれのチームで議論をして、組織の力を使って仕事ができます。また、短期的な利益によって動く必要がありません。国民が楽になるとか住民のためになるということを、長期的に追い求められるところが良いのではないかと思います。それから、コンプライアンスとかワークライフバランスだとか、ブラックな職場になることを食い止めるシステムがあることです。もちろん、国家公務員のキャリアシステム自体がブラックだと言われることもあります。だけど、そうあってはいけないというモメンタムがあります。つまり、社会の規範として、公務員法制があって、今まさに社会が求めているような生き方を基本とすることができるという良さがあるのではないかと考えます。男女共同参画社会においては、女性を積極的に登用すべきであるというミッションを、日本政府も地方公共団体も背負っています。正々堂々と良い仕事をするべく動けることが公務員の良さではないかと思います。

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公務員の大変なところ

名実ともに早くハイクラスのポジションに就任して、たくさんのお金をもらって仕事をしたいということを希望するのであれば、公務員はそうではないと思います。公務員の場合は、同じ競争試験で入って何年経てばこのぐらいのポジションに行くという相場のスピード感や昇進のリズムがあります。10年後に自分はこういう職に就きたいから、それに備えて今こうしておこうとか、今その職にある人を助けて学んでおこうという気持ちがないと難しいです。公務員になった時の給料はみんな一緒です。1年経つと俸給表にそって少しずつ上がっていきますが、よくできる人もそうでない人と大した違いはないままです。だから報酬によって早くに報われたい人は、公務員は向かないと思います。それから、嫌なことの当事者になることはあります。その時に逃げずに真正面から対峙する必要があります。もちろん逃げたくなる時もあるし、メンタル的につらいこともあるのだけれど、重大な事態が起こった時に真正面から対処することを求められる場面があります。また、説明責任を常に意識して行動する必要があります。事後に、マスコミや議会、住民、国民の皆さんから説明を求められたときに、こういう法律やこういう制度に基づいて、こういう考え方で行ったということを、トレースして話せるようにしておく必要があります。

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2040年問題に向けて公務員に求められること

最後に、触りだけ今ユニットで議論している「2040年」について一番大変だと思っていることを話します。今から15年経つと、団塊の世代の人たちが超高齢者に、団塊ジュニアの人たちが高齢者になって、日本の高齢者人口が最大になります。その時に日本国政府や地方公共団体が公共的なサービスを提供し続けられるような体制を作る必要があるのです。これが問題の本質です。団塊ジュニアの世代は200万人、団塊の世代は260万人ぐらい毎年生まれていました。実は、総務省で前にこの問題を議論していたときは、年間100万人を切ると非常に大変だというのが「2040年」の課題だったのですが、去年は68万人しか子どもが生まれていません。そうすると、二十何年後の労働力市場に新たに投入される若年労働力は、もう年間70万人を切っているわけです。そこで、付加価値生産性を上げて経済成長をすることによって世の中をもたせていく必要があります。人口は減ったけれど、一人当たりの国民所得が増えているとか、みんなの豊かさはより増進していて幸せになっているなどのモデルを作らないといけないのです。そこがこれからの大変さではないかと思います。その時に住みよく暮らしやすい国や地方公共団体を作るためには、やはり知恵がいるし、公務員のしなやかでしたたかな生き方が必要になるのではないかと思うのです。地方公共団体は自分で仕事をするだけではなくて、その地域のプラットフォーマーになる必要があります。いろんな資源を使いながら、どのようにレジリエントに公共サービスを提供していくかというプランナーである必要もあります。国は経済成長をある程度確保しながら安全保障環境を整え、医療や福祉が持続可能になっていくようにする制度設計者として、あるいはプレーヤーとしてやっていかないといけません。このような大事な仕事を国家公務員や地方公務員は担っているのです。2040年問題の対策は、公務員の踏ん張りにかかっている部分があります。意欲のある人が勉強して、国、地方のためにどういうふうにやっていくか考え抜く必要があるのです。

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学生へのアドバイス

これからどんな知識が必要か。法律に関する知識はあったほうが良いです。他の学部の人も法律を少しは勉強したほうが良いと思います。それと、経済に対するマインド。つまり経済成長はどうもたらされるか、全要素生産性はどういうものなのか、投資と分配とはどういうものなのかというパラダイムみたいなものを、大学生のうちに少し勉強されたら良い気がします。また、ICTに対するマインドを持ってもらうこと。AIを使い、クラウドを使い、ロボティクスを使ってできるだけ省力化を図りながら、社会を持続可能にしていくためには、やっぱりICTに関する知識が必須ではないかと思います。

終わりに

日本は人口減少、若年労働力不足の時代に入っています。もちろん女性には活躍していただき高齢者にも意欲のある限り働いてもらう。そしてAIやロボティクスを使い、人口が減っていくところにどう対処していくか考える。そうなると、皆さんがもし公務員になったら人間にしかできないことをやる必要があります。リアルな人間でないとできないことをどんなふうに企画して実施していくか。皆さんの人間力が問われる、ということになるのではないかと思います。国家公務員、地方公務員ともにやりがいがあります。ぜひ意欲のある方はトライしてみてください。

閉会

講演後には質疑応答の時間も設けられました。活発に意見が交換され、盛況のうちに閉会しました。

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質疑応答の様子。左は手塚研究科長、右は山﨑氏。

参加者の感想

文学研究科1年 國吉 陽さん

とても有意義な時間をいただきました。もともと公務員志望で、昨年も国家公務員の採用試験を受験したのですが、その上で仕事の在り方や、目指すべき道が見えたような気がして、すごく勉強になりました。

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理学部2年 田中 翔和さん

普段自分の専攻している内容とはあまり関わりのない公務員の話だったので、具体的にどういうことを日々されているのかも知らずに講演会に参加しました。具体的なエピソードを通してどういう仕事をしていらっしゃるのかが分かって大変良かったと思います。

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