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2026年1月21日

  • インタビュー

【教員インタビュー】第2回:布施邦子准教授

教員インタビュー、2回目となる今回は、COIL事業部門の副部門長である布施邦子特任准教授にお話を伺いました。海外の大学院への挑戦、子育てなど、今に至るまでのたくさんのご経験をお聞きしました。ぜひご覧ください。

Q.大学の先生になるまでのご経歴について教えてください。

学生時代は英語が好きで、特に文学よりも英語を使うことや言語学的な方面に興味がありました。大学卒業後は英語を使う機会があるようなサービス業に就き、国際会議をはじめとするコンベンションの運営実施や、ホテルでの仕事に携わりました。ホスピタリティ的な仕事が自分の性格に合っていたんですね。私は数字や営業が苦手ですが、人のために何かをしたいという思いがありました。紆余曲折ありましたが、結果的にライフワークとなった教育の仕事は、究極のサービス業だと思っています。楽しい仕事です。 ‎

Q.大学生以降はどのようなご経験をされたのでしょうか? ‎

 20代は本当にやりたいことをいろいろやっていましたね。

 最初に働いた職場では上司から「3日3月、3年やで」と言われました。働き始めて3日目にしんどいと思い始めても、3ヶ月頑張ってみる。3ヶ月経って少し様子がわかってきても、3年は頑張れということでした。古い考え方かもしれませんが、その言葉に従って3年間京都のコンベンション業界で修行しました。1年目はいろんな出来事を経験し、2年目は少し余裕ができて自分の判断で少しづつ動けるようになり、3年目になって、この先の人生をどうするかを考え始めました。すぐに辞めずに3年頑張ったことで、何かを身に着けてから次のステップに進むことができました。その後、海外に住みたいという思いから仕事を辞めて、短期間ですがフランスで暮らしてみました。学生時代に旅行者として海外に行ったのですが、海外に住所を持って「生活者」になってみたいという気持ちが捨てきれなかったからです。帰国後は、短期の契約で様々な仕事をしながら次のステップを模索しました。20代後半は「何者でもない」けれど、このままでは一生続けられないと感じていました。そして30歳を前にして、人生で積み残してきた「留学」という夢に向き合うことにしました。「今行かなかったら一生後悔する」と思い、奨学金プログラムを見つけ、日本語教育の免許を取るなど様々な準備をして大学院留学を決意しました。 日本の学生さんはストレートに大学院に進むことが多いようですが、海外では社会経験を積んでから大学院に行く人が多いです。

 大学院に行くことはすぐに決まったわけではなく、今後の自分の世界を切り開くための方法としていろいろ考えた結果でした。学部留学も考えましたが、留学奨学金プログラムの担当者から「学部はもう卒業しているし、社会経験もあるなら大学院を目指した方がいい」とアドバイスされました。学校を離れて何年も経っていたので自信はなかったのですが、背中を押してもらって大学院への進学を決めることができました。私の研究は社会科学の分野だったので、社会人として日本社会で経験を積んでからアメリカの大学院に進んだことは正解だったと思います。留学では、自分・自国の文化を知っておくことは重要だと実感しましたし、異文化比較をする際に日本で社会人として積み重ねた知見が役に立ったことがが多くありました。

人生を30年づつ区切って考えると、30代から60代までの30年間はとても面白い時期ですね。私は40歳で出産をし、その後約10年間は子育てに専念しようと思いました。自分の性格上、二つのことを同時に上手くこなせないと分かっていたので、思う存分「おかあちゃん業」に励みました(笑)。子育ての間はママ友と一緒に小学校のボランティアを立ち上げたりPTAの役員も務めながら、同世代の女性たちの生き方や考え方を知ることができました。専業主婦の方や、私のようにキャリアを一時中断した人など、様々な生き方をしている人たちと交流することは、その後の自分にとって貴重な時間と経験でした。みなさんも、小学校や中学校、大学と進むにつれて、同じような興味や経験、社会経済基盤を持つ人たちと交流することが多くなりますが、地元の小中学校などでは、今の社会の縮図を見ることができます。子どもを中心に子育て世代や高齢者などが緩やかにつながっている地域、多子家族やシングルペアレントの家庭などいろいろな家庭を支える行政、学校の先生方の実情など、社会の現実を目の当たりにすることができました。そういった経験が今の私の生き方や教え方にも活かされています。ソーシャルイノベーションを担当するようになり、実体験や実感を伴った授業コンテンツを提供できるようになったと感じています。。家庭を持つこと、子どもを持つこと・育てることとキャリアのバランスは、若い学生の皆さんにとっては将来の気がかりの一つかもしれませんが、時代は動いています。どんな経験も無駄にはなりませんし、つぎはぎでもちゃんと次への道につながっているのではないかと思います。

Q.大学院ではどのような分野を専攻されたのですか? ‎

 コミュニケーション学、中でもスピーチ・コミュニケーションが専門です。今でこそ日本にもコミュニケーションと名の付く学科や学部がありますが、私が留学した当時はまだ日本ではコミュニケーション学自体があまり認知されていませんでした。当時は英語英文学科で英語を教えながらコミュニケーションやスピーチを教えるという、語学にくっついている感じだったんです。しかしコミュニケーション学自体は語学ではなく、心理学、認知科学、社会科学など様々な分野が入った学際的な学問です。対人コミュニケーション、組織コミュニケーション、メディアコミュニケーションなど、たくさんの切り口や分野があります。どこからでも入ってこられる、どこからでも広げていける学問だということを実際に入って強く思いました。 ‎

Q.なぜコミュニケーション学を学ぼうと思われたのですか? ‎

 社会人を辞めて留学しようと思った時に、何を学びたいかを考えました。それまでの人生を振り返ると、言葉を使って厳しいことを言われて落ち込んだり、言葉に救われたりした経験がありました。人と言葉と社会と文化がどのような関係にあるのかを知りたいと漠然と思っていました。そういうことを勉強できる場所を探していたところ、アメリカにコミュニケーション学というものがあることを知りました。心理学や社会学といった既存の学部的な枠組みでは区切れない分野でしたが、入ってみたらまさに「ドンピシャ」という感じでした。大学院で修辞学(レトリック)の古典の基礎から学び、この学問の面白さを知ると同時に、人間関係で悩んでいる人たちに何かを教えたい、伝えたいと思うようになり、それが大学教員という道に進むきっかけになりました。 ‎
 コミュニケーションはノウハウだけではなく、歴史的に深い背景があります。例えば面接のテクニックや笑顔で目線を合わせるといった表面的なことだけでなく、人間をちゃんと知って、人間に向き合うことが大切です。私とあなたとのコミュニケーションであって、この人がどういう人かを理解した上での話し合いだと思います。人間をちゃんと知ること、人間に向き合うことがあって初めて成立するというところがコミュニケーションの肝だと思います。「コミュニケーション」という言葉を軽く使うのではなく、すごく丁寧に考えることが大切だということを伝えたいと思っています。 ‎

Q.COIL事業部門に携わるようになったきっかけを教えてください。 ‎

 私が学位をとった当時は海外で社会言語学系の学位を取得した人は、帰国後に日本の大学は英語の教員として教壇に立つことが多く、私も主に英語を教えていたのですが、恩師の導きもあり、自分の専門である異文化コミュニケーションやパブリック・スピーキングの授業も教えられるようになりました。そしてご縁があって、旧大阪市立大学(現大阪公立大学)の「大学の世界展開力強化事業」というプロジェクトに参加することになりました。この事業ではCOIL型教育を取り入れたプログラムを開発することになり、2018年度末からこの大学でお仕事をさせていただくようになりました。COIL事業部門の立ち上げ時から一緒に仕事をしています。 ‎

Q.COIL型教育とはどのようなものなのでしょうか? ‎

 COILは教育の手法で、オンラインを使って国内と海外の大学がつながるというものです。単にゲストレクチャーを招くというようなことではなく、海外の大学であちらの先生がご自分の授業をやっておられて、こちらもこちらで自分の授業をやっている、そしてコラボレーションできるところがあれば一緒につないでみるという感じです。学生たちが共通のテーマでリサーチをしたり、相手の授業とこちらの授業のマッチングするところで交流したりします。私も後期は2本のCOIL授業を担当していますが、相手の大学によって交流のアクティビティは異なります。交流が全てではなく、交流からの学びを活かしながら最終的には自分たちの授業の目的に沿った学びに持っていくというのがCOIL型教育を取り入れた授業です。 ‎

Q.SIコース(ソーシャルイノベーションコース)について教えてください。

 SIコースは最初からコースとして存在したわけではなく、一つの授業から始まり、少しずつ積み重ねて作っていきました。現在は副専攻として提供しています。COILはあくまでも教育手法、手段といったものであり、このプログラムでどういう学生を育てたいかという目標があります。SIコースでは、ソーシャルイノベーションができる人材を育成したいと考えています。海外の学生と一緒に何かを考えることで、自分の価値観を見つめ直す機会が生まれます。日本という社会の中からは気づかないことを、海外の方と一緒にコラボレーションすることで見つけ、新しい切り口や発想で社会課題を解決する力を養います。課題が残っているということは、今までのやり方では通用しないからです。海外の異なる価値観や社会の仕組みを持つ人と話すことで、新たな視点に気づき新しい考え方が開けてくるので ‎

 SIコースではいくつかの必修科目を用意しています。「ソーシャルイノベーションとは何か」や課題の分析方法などを段階的に学びます。「国際協働演習」という科目では必ずCOILを取り入れ、海外の学生と一緒に学びます。最後は「ソーシャルイノベーション研修:SIGLOC」という3週間の集中講座で、学生たちが海外の学生と実際にフィールドに出て課題解決に取り組みます。このように段階的に経験を積んでいくコースを作ってきました。また、コース全体を修了するのは大変だけど一科目だけ取りたいという学生も広く受け入れています。例えば「留学生と一緒に、夏休みにSIGLOCの3週間の集中講座だけやってみたい」という学生も歓迎しています。少しでもチャレンジしてみたい学生のために、一科目からでも受け入れる仕組みにしています。 ‎

Q.SIコースはどのような考えで作られたのですか?

 このコースを作る時に、当時の文学部の井狩幸男先生からアドバイスをいただきました。この大学には「吹きこぼれ」、つまり「もっとやりたい、もっとできるのに」という学生たちがいて、そういう学生たちにチャレンジさせるようなプログラムにしたらどうかというご提案でした。難しくても面白そうだからその大変さに挑戦してみようと思う学生さんが、刺激的な学びを体験できる場を提供したいと思っています。単位が取りやすいわけではありませんが、苦労した分だけ力になり、自信にもなるプログラムだと思っているので、参加する学生たちが頑張れるよう背中を押しながらやっています。また、このプログラムを通じて、私は勝手に「SI界隈」「VLT界隈」と呼んでいるのですが(笑)そういった国際交流に興味のある方が集まってくるようなコミュニティが自然と発生しています。「なんか面白そう」という情報が流れて、学生たちが集まってくるようなコミュニティができつつあると実感しています。 ‎

Q.学生たちにどのような力をつけてほしいと考えていますか?また、今後の社会で必要とされる力についての考えを教えてください。

 今の学生さんは忙しいと思いますが、過ごしている大学時代はかけがえのない期間です。少しルートを外れても構わないと思います。例えば休学したりなど、モラトリアムの時期があっても全然問題ありません。そこで何をするかが価値のあることだと思います。大学でしか出会えない人、学べないことや経験がたくさんあります。UNIPAから流れてくる情報の中から面白そうなことを見つけて空き時間にふらっと参加してみるなど、大学が提供しているものを存分に享受してほしいと思います。また、それらも含め保守的にならずに攻めていくことを怖がらないでほしいです。友達や教員がいるので、傷ついても一人ではありません。必ず立ち直れますし、骨折したら骨がより太くなるように、きっと前より丈夫になります。いろんなことに挑戦して、しんどいと思ったらやめてもいいし、やめることに対して人がどう思うかも気にしなくていいです。自分の声をちゃんと聞いて、自分が心から納得できる大学生活を送ってほしいと思います。そのトレーニングができると、社会人になっても強いと思います。 ‎
 ただし、すべて自分で決められるとはいえど、「大学を出た」ということに対する社会の期待値はありますから、そういう素養・教養は身につけておく必要があります。例えば、今はICTの活用能力が強く求められています。コロナ禍でZoomなどのツールには慣れている学生も多いと思いますが、コロナ後も対面とオンラインを使い分ける力は重要です。ライフワークバランスを考えた時に、遠方で仕事をしたり、家庭と仕事を両立させたりするためにICTを使いこなせることは大きなアドバンテージになりますし、TeamsやZoom以外にもの新しいプログラムやシステムを使いこなすことで、仕事の幅が広がります。また、レポートの書き方や生成AIの使い方など、大学の先生が指導することには全部意味があるので、ぜひ耳を傾けてください。 ‎

Q.最後に学生へのメッセージをお願いします。 ‎

 あまりカチカチに考えることなく、自由に生きてほしいと思います。20代はまだまだやんちゃできる時期です。いろいろなことにチャレンジして、自分の好きなこと・嫌いなことを見つけ、最終的には好きなことを続ける道を模索してほしいです。何年かかってもいいので、好きだからこそ頑張れるという、そういうものにいつか巡り合えると良いなと思っています。 ‎

布施先生の人生経験からSIコースの成り立ちまで、たっぷりお話を伺うことが出来ました!
そして、それらの出来事が線でつながっており、今のお仕事に至るまでの積み重ねが活きていることが印象に残りました。
今後も様々な企画・インタビューを発信していくので、ぜひHPをチェックしてください!