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2025年7月4日

がん研での国内留学記(田内 潤)

私は、2009年高知大学卒の田内潤と申します。消化器外科・肝胆膵外科医として大阪公立大学、関連病院での勤務を経て、20234月より2年間、がん研有明病院のレジデントとして国内留学させていただきました。

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がん研有明病院は、東京都の臨海副都心に位置する国内有数のがん専門病院で、年間およそ膵切除200例、肝切除250例を有するハイボリュームセンターです。肝胆膵外科は髙橋祐部長を始めとするスタッフ6名、レジデント9名で構成され、私もチームの一員として日々の診療・研究に当たらせていただきました。赴任前はがん研で働ける期待を抱きつつも、自分みたいなものががん研でやっていけるのだろうかという不安を募らせておりましたが、忙しくも充実した毎日であっという間に過ぎた2年間でした。

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レジデントは東京大学、順天堂大学、東京医科歯科大学、慶応大学といった東京の大学の他にも名古屋大学、熊本大学、富山大学、広島大学など全国から勉強に来ており、23年の修練で肝胆膵高度技能医習得を目標に手術の勉強をしながら、時間を見つけて臨床研究・学術活動を行っております。学年は10年目を超えたくらいが中心でした。私はどちらかというとおにいさん(おっさん)的な学年でしたが、レジデント仲間は同志であり、学年の違いを気にすることなく切磋琢磨しながら研鑽をつんでおりました。優秀なレジデントばかりで、特に学術面で劣る私にとっては、研究における考え方・視点など刺激となり感心するばかりですが、自分の研究については教えを請いながら形にしつつあるところです。

 

赴任前は、スタッフは『切れ者』で近寄りがたい存在なのだろうと勝手なイメージを抱いておりましたが、全くそんなことはなく、髙橋部長が例えておられましたが、一言で言うなら『優しい力持ち』です。愛すべき人間性をお持ちであり、これほど多忙な病院ではありますが困ったことがあるときはいつでも相談に乗っていただき助けていただきました。手術に関してはエキスパートでありますが、がん研式といわれるような膵頭十二指腸切除における『前割り』、『SMA Level III郭清』など、手術手技に関する論文が多く、まさにその手術手技を経験することができました。中でも『ロボPDにおける左後方アプローチ』はがん研で完成されたアプローチ法であり、助手の立場から術者の立場まで指導いただけたことは非常に貴重な経験であり、大阪に持ち帰りロボPDの発展に携われたらと考えております。大阪公立大学で外科医として育ってきた私にはがん研式手術は異文化であり、刺激となりました。がん研式を理解していく中で、手術における一挙手一投足は論理的であり、言語化する大切さに気付かされ、クリニカルクエッションの理解、自分の中で手術の理解・上達の一助になり、さらにと感じております。

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 日常診療においては、術前準備の大切を改めて感じました。肝胆膵外科領域の解剖は複雑ですが、それを手術解剖に落とし込むには術前の準備が必須です。またがん研では術中剥離鉗子を使う頻度は比較的少なく、電気メスで剥離・切離を行います。これは電気メスの技術も去ることながら解剖の把握・理解がなされているからこそ可能な技術だと感じました。がん研では術前にシェーマを描きカンファレンスで共有するようにしております。シェーマを描くことには時間を要しますが、それに見合った手術の理解、技術の向上につながると改めて感じました。

 

週末の病棟管理は当番制をとっておりますので、当番でない週末は自分の時間が作れました。私は単身赴任しておりましたので、当番でない週末は帰阪させてもらっておりました。大阪に帰れない週末は、私の趣味である銭湯を巡り(東京の銭湯は若者多い!)、野球やサッカーを見に行き(中日弱い!)、都内や東京近郊に出かける(飲み歩き最高!)などしておりました。また東京で美味しいとんかつに出会ってからは、とんかつ探訪がマイブームとなりました。おっさん一人東京ライフもしっかり楽しめました。

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 忙しく過ごしたがん研生活ですが、『がん研時間』は時の流れが早く、あっという間に2年間が経ちました。がん研スタッフ・レジデントを始めとする人との出会い、がん研式の経験、東京ライフなど東京でしか経験できないこと(異文化)を経験させていただき、大変充実した時間を過ごさせていただきました。このような機会を与えていただいた石沢教授、これまでご指導いただいた大阪公立大学の先輩方に感謝いたします。

本年4月からは大阪公立大学肝胆膵外科の病院講師をつとめさせていただいております。がん研ではレジデントでしたが、大阪に戻ってきてからは指導する立場でもあります。まだまだ未熟ではありますが、がん研での経験を大阪に還元し、大阪公立大学肝胆膵外科の発展のために尽力させていただきます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。