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2025年10月1日

"Nature"への挑戦:コロンビア大学で肝星細胞の研究を学んで(杉本敦史)

2012年卒の杉本敦史と申します。このたび、大学院卒業後に取り組んできたアメリカ・コロンビア大学での研究生活が一区切りを迎えましたので、この場をお借りしてご報告させていただきます。

まず簡単にこれまでの私の経歴をご紹介いたします。大学卒業後の6年間、市中病院と大学病院で研修医、外科専攻医として臨床に従事した後、大学院へ進学し、4年間の研究を経て博士号を取得しました。学位取得後の20224月から20253月までの3年間は、ニューヨークにあるコロンビア大学でポスドク(博士研究員)として、肝臓の基礎研究に取り組んでまいりました。コロンビア大学は、ニューヨーク・マンハッタン北部に位置し、世界中から優秀な研究者が集まっており、これまでに100名を超えるノーベル賞受賞者を輩出している、世界屈指の名門大学です。大阪公立大学と同様に、大学病院と学部キャンパスが少し離れた場所にありますが、私が所属していたDr. Schwabe研究室は、大学病院に隣接する研究施設群の一角であるIrving Cancer Research Centerにありました。

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私の指導教官であるSchwabe教授は、慢性肝疾患や肝癌、特に肝星細胞の研究において国際的に高く評価されている著名な研究者です。研究室はポスドク4名、学部生・大学院生2名程度の比較的小規模なラボではありますが、トップジャーナルへの多数の論文を発表しており、非常にハイレベルな研究が行われています。私はこの研究室で、「肝星細胞が肝癌や慢性肝疾患の進展に果たす役割」について研究を進めました。正直に申し上げて、大学院で数年間研究を経験したとはいえ、基礎研究者としてはまだ駆け出しの私にとって、このような環境で成果を出すことは簡単ではありませんでした。渡米当初は、「せっかくアメリカまで来ているのだから、必ず成果を出してやるぞ」と意気込んでいたものの、コロンビア大学での3年間は順風満帆だったわけではありませんでした。研究面ではうまくいかない日々も多く、悩むことも少なくありませんでした。最初の1年間は実験の失敗を繰り返し、英語でのディスカッションについていけない日もあり、「自分は本当にここにいる意味があるのだろうか」と悩んだことも一度や二度ではありませんでした。

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それでも、できること を一つひとつ積み重ねながら粘り強く取り組むうちに、少しずつ成果が見え始めました。研究が軌道に乗ると、外科医として培った体力と集中力を活かして、2年目の終わりには研究成果を論文にまとめて投稿することになりました。しかし、ボスが投稿先に選んだのは、最高峰の科学誌である『Nature』でした。まさか自分がNatureに論文を投稿する日が来るとは夢にも思っていませんでしたが、大きなチャンスと捉え、ボスを信じて突き進みました。最後の3年目はこれまでの人生で最も過酷な1年だったかもしれません。厳しい査読に応えるために、ボスや共同研究者と何度も議論を重ね、何十個もの追加実験を行い、論文を何百回も修正しました。そして数々の困難を乗り越え、ついに"Accepted"という言葉を目にした瞬間は、これまでの努力がすべて報われたような、言葉では言い表せないほどの喜びと達成感に包まれました。

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コロンビア大学には世界中から様々な背景を持つ研究者が集まり、皆がトップジャーナルへの論文発表を目指しています。しかし、実現するのは簡単なことではなく、実際に成果を出して論文発表できるのは一握りです。そのような環境の中で、外科医である自分が『Nature』に論文を掲載できたことは、研究者としてこの上ない名誉であり、本当に幸運であったと思っています。私は、これまで基礎研究の豊富な経験があったわけではありません。それでも運と努力次第で、大きなプロジェクトを主導して成果を出すチャンスはあり、そのことを自らの経験を通じて示せたのではないかと思っています。

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ぜひ多くの方にご覧いただきたく、論文のリンクを紹介させていただきます。肝星細胞をこよなく愛するボスが密かに付けたかったという“裏タイトル”を添えておきますので、ご一読いただければ幸いです。

"Hepatic stellate cells make the liver great again”

https://www.nature.com/articles/s41586-025-08677-w

最後になりましたが、3年間の研究生活を温かく見守り、応援してくださった大阪公立大学肝胆膵外科・消化器外科の先生方、そして遠く離れた地での挑戦を支えてくれた家族に、心より感謝申し上げます。今後は、臨床と研究の両輪を大切にしながら、後輩たちのロールモデルの一人となれるよう、より一層努力してまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。