研究内容

  私たちの研究室では、タンパク質の解析に適した高度好熱菌 Thermus thermophilus を主な研究対象として、多様な方法を組み合わせて解析することによって、翻訳後修飾による調節機構や機能未知タンパク質の機能解明など、タンパク質そのものを調べなければ分からないテーマに取り組んでいます。

高度好熱菌 Thermus thermophilus

 1960年代に伊豆の温泉で、生物の重要な構成成分であるタンパク質の研究に大きく貢献する ことになる生物が発見されました。バクテリアの一種である Thermus thermophilus (サーマス・サーモフィラス菌) です。この菌は、75度付近の高温を好む高度好熱菌の一種です。高い温度にも耐える安定性の高いタンパク質で構成されており、その構造や働きを調べやすい点や、遺伝子(タンパク質)の数が少ない点など、分子レベルでの研究に適した特徴を持っています。また、好熱菌は進化系統樹の根元近くに属するため、全生物の共通の祖先となった細胞に近い特徴をもつとも考えられています。この高度好熱菌で見られる生命現象を分子や原子のレべルで解明できれば、すべての生物に必須の生きているしくみ の理解につながると期待しています。

  • 最近の研究:プロテインキナーゼ TpkD がもつユニークな耐熱化機構 (Fujino et al., 2021)
  • 最近の研究:基質結合に伴う CMP キナーゼの立体構造変化 (Mega et al., 2020)

翻訳後修飾

 2003年にヒトゲノムの解読が完了し、ポストゲノム時代が到来,研究の中心はDNAからタンパク質へと広がりました。また、質量分析法とバイオインフォマティクスの進歩により、タンパク質の種類や修飾を迅速に同定することができるようになりました。しかし、遺伝情報を超えた新たな機能をタンパク質に付加する翻訳後修飾には、まだ数多くの未知なる代謝調節機構が存在すると考えられています。高度好熱菌においても多数のリン酸化やアシル化を同定しています。特に、立体構造からみると、活性部位やリガンド結合部位近傍の残基が修飾されているケースが多いことを見出しています。そこで、翻訳後修飾を担う酵素群の数が少ないという高度好熱菌の利点も生かして、翻訳後修飾による新たな制御機構ならびに制御ネットワークの解明に取り組んでいます。

機能未知タンパク質

 全ゲノム配列決定が容易になった結果,多くの新しいタンパク質(遺伝子)の存在や機能を配列情報から予測することはかなり容易になりました。しかし,ど の生物種でも,全遺伝子の1/3〜1/2はその配列からだけでは機能を予測できない「機能未知タンパク質」をコードしています。生命現象の全体像を分子レ ベルから理解するためには,それら機能未知タンパク質の機能の解明も必要です。一口に機能未知タンパク質といっても,配列から分子機能を予想できるものも あれば,遺伝子欠損株の表現型から重要性だけが示唆されているものまで,その「分からなさ」の程度はさまざまです。しかし,それらの中には重要な生理的機 能を担っているものがまだあるに違いない,分からないもの・ことを探求することこそが研究の醍醐味でもあると思っているので,「機能未知タンパク質」の解 析も行っています。

  • 最近の研究:脂肪酸キナーゼの ATP 結合ドメインの立体構造解析 (Nakatani et all. 2022)