研究内容(厚井)

植物は様々な環境へ適応するために多様な形態を進化させている。我々の研究グループは、進化発生学的アプローチにより、植物の形態多様性が生じる過程とその進化機構について研究を行っている。

① カワゴケソウ科の形態進化

カワゴケソウ科(Podostemaceae)は、基本器官(根・茎・葉)を配置転換することで他の被子植物が生育できない渓流中に適応した水生被子植物である。普通、 被子植物は地上にシュート(茎・葉)と花を展開し地中に根を発達させる。ところが、カワゴケソウ科では根で岩に固着して成長し、根の先端から次々とシュートや花を作り出す。さらに、茎や根が葉状になって光合成を行ったり退化・消失したりするなど、器官形態・器官構成が著しく多様化している。カワゴケソウ科の形態多様性がどのように生まれたのかを明らかにするために、野外調査・形態観察・分子系統解析による分類学的研究と、比較発生学・分子遺伝学的解析による進化発生学的研究を行っている。

Podostemaceae_1

Podostemaceae_2

② タヌキモ科の捕虫囊の進化

新しい形態・機能をもつ新規器官の進化機構の解明は生物学における重要な課題である。植物では、既存器官が重複して形態的・機能的に分化することで新規器官が生じ、その後、既存器官が消失する例がある。しかし、どのようにして既存器官の「重複」と「形態的・機能的な分化」が起こるのか分かっていない。食虫植物のタヌキモ科では、ロゼット状の地上葉をもつムシトリスミレ属のような形態から、ロゼット状の地上葉と筒状の地中葉(=新規器官)の2種類の葉をもつゲンリセア属のような形態を経て、地上葉が消失し、袋状の地中葉をもつタヌキモ属のような形態へ進化した。本研究は、ゲンリセア属における2種類の葉の形成機構を発生学的・遺伝学的に解析することで、タヌキモ科内で起こった新規器官の進化機構を明らかにすることを目的として研究を行っている。