研究概要 / Research

主な研究テーマ / Main Research Topics

  • 非平衡量子緩和過程の理論研究/Non-equilibrium quantum relaxation process
  • 光と物質の相互作用に関する理論研究/Theoretical study of photon-matter interaction
  • 非エルミート量子力学、量子統計力学における複素スペクトル解析の理論/Complex spectral analysis of non-Hermitian quantum physics and quantum statistical mechanics

研究概要 / Research Summary

 私たちは非平衡量子緩和現象を理論的に解析する研究を行なっています。非平衡状態とは、物質に対して外界からエネルギーや粒子が流れ込み、そして、また物質から外界へと放出される状態を指します。その典型的な例は、私たち人間を含めた生物系です。これまでの物理学の研究は、ほとんどの場合、エネルギー的に最も安定な基底状態、また、基底状態から少しだけエネルギーが高くなった励起状態の緩和現象を対象としてきました。このような低エネルギー励起状態には、量子効果が顕著になる超伝導や超流動など興味深い現象が現れますが、実際に私たちを取り巻く自然環境の多くは、そのような状況からははるかに離れた非平衡状態です。このような、平衡状態から遥かに離れた状況では、基底状態近傍での知識からは全く予期できない新しい集団的な運動が現れます。現時点でこのような現象を説明する理論体系はまだ完成されていません。私たちは、量子力学、統計力学を駆使して、このような非平衡励起状態における緩和現象の解明に取り組んでいます。

 20世紀に入って革命的な発展をしている物理学の一つは、量子力学であることに間違いはありません。私たちは、量子力学を駆使して、この非平衡状態からの緩和現象を研究しています。量子力学は、良く知られているように、私たちが普段目にする現象からは想像もできない面白い現象を示します。例えば、電子が壁をすり抜けるトンネル効果は代表例ですが、そのほかにも、粒子と波動の2重性に基づく量子干渉効果など日常の経験からは予測できない現象が現れます。現在、ナノテクノロジーの急速な発展によって、これらの奇妙な運動をする電子や原子を自在に操ることができる時代になっています。このようなミクロな粒子を自在に制御を可能にするためには、緩和散逸を含めた新しい量子力学を同時に構築する必要があります。最近、急速に進展している量子力学の複素スペクトル解析の理論を駆使して、この非平衡量子緩和現象を研究しています。

 具体的には、光と物質の相互作用の研究に力を入れています。生物は、地球上で活動するためには、外界からエネルギーを取り込まなければなりませんが、元を正せば、これは太陽からの光エネルギーの取り込みに他なりません。地球上の物質が太陽からの光エネルギーをどのように取り込み、有効に活用するかを根本的に明らかにするためには、原子や分子が光のエネルギーをどのように吸収し、放出するのか、さらには、多くの異なる光を混合させた多様な励起を行った場合には、どのような応答をするのかを解明する必要があります。私たちの研究の多くの部分は、この光による多様な励起の過程と緩和現象の解明を行なっています。

 光の特徴は、そのエネルギー領域が電波領域からガンマ線の領域にまで非常に幅広く広がっていることです。これらの光の多様性の開拓は、レーザー光の開発など最近の光技術の進展でますます加速しています。特に、2000年台に入ってから、超短光パルスの発生が可能となり、その時間幅はアト秒の領域(10^-18秒)に入っています。このような時間領域での顕微鏡を使えば、原子や分子の中で動いている電子をあたかも止まっているかのごとく捉えることができるようになります。さらに、この広範なエネルギーの多様性に加えて、偏光の自由度、さらには最近では新しい光渦という自由度まで発見されています。これらの多種多様な自由度を用いて、量子通信への応用も期待されています。また、これらの多様な光と物質が織りなす相互作用の物理現象は非常に大きな可能性を持った研究分野です。私たちは、複素スペクトル解析という新たな武器を用いて、光と物質が織りなす多様な世界の解明に取り組んでいます。

当研究室を志望する学生のみなさんへ

 物性理論の研究は、解析力学、電磁気学の基盤の上に、量子力学、統計力学の専門科目をしっかりと身につけていることを前提として行います。現在、物性物理学の研究は、実験技術の進展とともに目覚ましい発展を遂げている分野であり、場の量子論を基礎に研究が進められています。物性理論研究を行おうとする場合、未知の物理現象に対する強い好奇心と、これらの現象の根幹をなす普遍法則の探求に真剣に取り組む気概を持って入って来てください。実験研究における最新の実験装置の代わりをなすものは、理論研究においては自分の力しかありません。日夜問わず研究に励もうという意欲と態度を持ってくる学生を歓迎します。