バイオ計測(椎木)/Bio measurements (Shiigi party)

生体分子計測のためのナノ構造体の開発

エレクトロニクス分野では,ナノ材料とナノ加工技術の組み合わせによる新しい戦略に基づいた開発を進めています。金属ナノ粒子(MNP)と無害なバインダ分子の自発結合を利用したコーティング・めっき技術を世界に先駆けて開発しました。プラスチックやガラスなどの表面にMNPを二次元配列することで直径を反映した均一な表面コーティングと厚みを実現し,薄膜形成における省資源と環境負荷の低減が達成されます。分子エレクトロニクス技術を応用して,隣接するMNPにナノメートル(nm)サイズの空隙(粒界)を形成したナノギャップ電極を開発しました。この電極を用いることで分子の微小な電気信号の計測が可能になり,DNAのハイブリダイゼーションに基づく電気的性質の変化を直接観察することに世界で初めて成功しました。また,セルロースナノファイバにMNPを一次元配列して作製した薄膜は金属的な導電性のみならず,柔軟かつ高い機械強度を有することを見出しました。私たちは,これを「破れない金箔」と名付けました。この金箔は生体適合性にも優れており,これらの特性を利用した生体計測について検討しています。

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ナノアンテナを利用した検出法の開発

MNPは特定波長領域の光と相互作用することで,金属種やサイズ,分散状態に基づいた特徴的な光学的性質を示します。私たちは,独自の製法によりMNPが三次元的に集合したラズベリー状の構造体の形成に成功しました。この構造体の直径が約100 nmであることから,私たちはこれを「ナノラズベリー」と名付けました。ナノラズベリーが同一サイズの単一MNPよりも大きな光の吸収や散乱を生じることから,光を効率的に送受信できる高感度な光アンテナとしての応用について検討しています。ナノラズベリーの表面に抗体を導入することで特定細胞表面に結合させることができます。例えば,大腸菌表面の抗原に着目することで,対応する抗体をもつナノラズベリーの結合によって,抗原の異なる大腸菌(O26とO157)を識別することが可能になりました。また,このナノラズベリーは,構成する金属種やバインダ分子の組み合わせによって,電気化学的な性質も異なります。このことから,電気信号によるバクテリアの識別,定量も可能になりました。この開発は,世界中で大きな問題となっている感染症や食中毒の原因となる病原性細菌やウイルスの検出に有用です。

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微生物検出法および細胞活性計測法の開発

ヒトは60兆個の細胞から成っているのに対し,腸内に生息するバクテリア(腸内細菌)は約1000兆個常在し,体内において細胞数では圧倒的多数存在しています。そのようなことから,腸内細菌は健康状態や病気,さらには未病の観点から注目されています。そこで私たちは,健康状態の新しい評価指標の提案を目指し,バクテリアの定量的評価や活性計測に関する研究を行っています。導電性高分子や刺激応答性高分子などを用いてバクテリアを電気化学計測や光学計測したり,顕微鏡観察したりすることができるプラットフォームを開発し,バクテリアの増殖過程の追跡や様々な代謝の計測に成功しました。現在,バクテリアに基づく光,電気,熱の信号変化をリアルタイム計測する手法の開発を行っています。 
分子インプリンティングは,標的物質をテンプレートとして重合反応に共存させ,その溶出によって標的に相補的な形状と結合部位を持つ分子型の孔(分子鋳型)を高分子マトリクスに形成する技術です。この分子鋳型はテンプレート分子と特異結合することから人工抗体として機能します。これまで様々な生体分子の抗体作製に成功しました。分子インプリンティングに基づいて,上記の高分子に固定化したバクテリアを除去すると細胞の形状に応じた孔が形成されます。この細胞型の孔が特定菌種と特異結合することを見出しました。

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