波長可変半導体レーザー吸収分光法を用いた噴出ガス計測手法の構築

研究背景と目的

 スクラムジェットエンジン内の気流の滞留時間はミリ秒オーダーであり,エンジン内で燃料を確実に着火させるために,これまでプラズマジェットトーチ(PJトーチ),レーザー,マイクロロケットトーチなど様々な点火器が提案されてきた.本研究では,スクラムジェットエンジン用の点火器の中でマイクロロケットトーチに着目した.ここで,マイクロロケットトーチは,トーチ内で生成した燃焼ガスを主流中に供給し着火促進させる点火器である.また,このトーチは,従来研究されてきたPJトーチと同等の着火促進効果を有していることが明らかとなっている.しかし,着火できたとしても安定して燃焼と保炎させることは難しく,スクラムジェットエンジン内でどのように安定して着火,燃焼,保炎させるかは長年の研究課題となっている.そこで,本研究ではスクラムジェットエンジン内で点火器を用いて安定して着火させるために,マイクロロケットトーチを対象とした高精度な強制着火モデルを開発することを目指して研究を進めてきた.高精度な強制着火モデル構築には,マイクロロケットトーチの噴出ガスの物性値を明らかにする必要があるため,波長可変半導体レーザー吸収分光法を用いたトーチ噴出ガスの計測手法を構築した.さらに,スクラムジェットエンジン内で点火器を用いて安定して着火させるために,マイクロロケットトーチを対象とした高精度な強制着火モデルの開発を目指して以下の研究を実施した.

研究内容

 波長可変半導体レーザー吸収分光法(Tunable Diode Laser Absroption Spectroscopy, TDLAS)を用いて,マイクロロケットトーチから噴出されるガスの物性値を調べた.本研究では,噴出ガス内のH2O濃度を測定するために,1392 nmの吸収帯の半導体レーザーを用いた.計測装置の概要を図1に示す.トーチからの噴出ガスには,燃焼振動などの振動要因により波形にノイズが含まれている.そのため,ノイズ除去するためのプログラムを開発した.計測手法の検証実験には,大気中の温度及びH2O濃度と比較し,本研究で開発したデータ解析手法は,従来のデータ解析手法と比較して同等の精度を有していることが明らかとなった.また,トーチからの噴出ガスの計測でも,従来のデータ解析手法よりも精度よく物性値を算出することができる.この研究結果は,2023年3月の国内学会(日本航空宇宙学会北部支部講演会)で発表した.より詳細な物性値の解明には,複数本のレーザー光を用いて計測精度の更なる高精度化が必要であることが明らかとなったため,今後の解決すべき課題である.

TDLAS計測装置概要 トーチ噴出ガス計測
(a) 計測装置の概要
(b) 噴出ガスの測定 
図1 半導体レーザーを用いたマイクロロケットトーチ噴出ガスの測定

 キャビティ保炎器内にマイクロロケットトーチを取り付けた場合の強制着火モデルを構築した.上記の計測手法を用いて計測したマイクロロケットトーチ噴出ガスの物性値を基に,噴出ガスモデルを構築し,キャビティ保炎器内での強制着火限界を予測できる物理モデルを開発した.本モデルを用いた予測結果は,以前実施したスクラムジェット燃焼器を用いた燃焼実験データと概ね一致する結果が得られた.しかし,上記の計測手法で述べたように噴出ガス測定の更なる高精度化が必要であるため,今後,強制着火モデルをさらに高精度化し,安定して着火及び燃焼できる点火器の最適設計することが今後の課題として残った.この研究結果は,2023年6月の国際学会(International Symposium on Space Technology and Science, ISTS)で発表する.

本研究は,公益財団法人JKAの研究補助2022M-244(オートレースの補助)を受けて実施した.

JKA補助事業

本研究内容の問い合わせ先:

大阪公立大学 大学院工学研究科 助教 小川秦一郎

E-mail: shinichiro.ogawa[at]omu.ac.jp