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2024年1月31日

飯田GHDの西野 弘代表取締役専務、人工光合成研究センターの天尾 豊所長、南 繁行特任教授にインタビュー

左から、天尾 豊所長、西野 弘代表取締役専務、南 繁行特任教授

大阪公立大学では、飯田グループホールディングス(以下、飯田GHD)と共同で、2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)へパビリオン出展を行います。地球環境に配慮しつつ、長く、快適で健康に暮らせる住宅を追求する飯田GHDとは、本学人工光合成研究センターおよび健康科学イノベーションセンターに共同研究部門を設けて共同研究を行ってきました。その成果をそれぞれ人工光合成技術を搭載したIGパーフェクトエコハウス、AIが健康を管理するウエルネス・スマートハウスとして、万博で紹介します。
今回、飯田GHDの西野 弘代表取締役専務をお招きし、人工光合成研究センターの天尾 豊所長、同センターの南 繁行特任教授とともに、万博出展のいきさつや主に人工光合成についての研究内容などについてお聞きしました。

◎ちょっと先の未来、住宅や都市はどう変わる?

――万博のパビリオン「飯田グループ×大阪公立大学共同出展館」では何を表現しようとお考えですか。

西野 弘代表取締役専務(以下、西野) 万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」ですが、未来のきっかけになっているのは過去です。伝統を引き継ぎながら過去から未来へ向かって輪廻を繰り返しながら進化を遂げていく技術があるということをパビリオン外観と中の展示物で表現できないかと考えました。そこで、外観には京都で1200年以上の伝統をもつ西陣織を用いることにし、メビウスの輪をモチーフにしたユニークな構造にしています。
パビリオン内には、人工光合成研究センターとの共同研究による人工光合成技術と、健康科学イノベーションセンターとの共同研究によるウエルネス・スマートハウスを紹介します。人工光合成ハウスについては、環境に負荷をかけない技術として、太陽光を利用した人工光合成で住宅のエネルギーを賄う技術や、太陽光を当てて自然由来の材料を分解してエネルギーを創り出す技術をご紹介します。ウエルネス・スマートハウスについては、家全体をつかって住人の健康データを収集・AI解析する技術の一部をご紹介し、ひいては健康寿命の延伸につながる未来の健康住宅をご来場者に体感していただきたいと考えています。あわせて、未来都市でのイメージを模型や動画を使って表現したり、次世代を生きる学生の皆さんに自分たちの考える未来を披露していただきたいと考えています。

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◎人工光合成でエネルギーの自給自足が可能に。

――人工光合成ハウスについて詳しくお教えいただけますか。

南 繁行特任教授(以下、南) 人工光合成が目指すのは、人類すべてが文明を維持して、かつ幸せになることです。太陽光エネルギーは、埋蔵量や埋蔵地域が限られている化石エネルギーと異なり、地球上に無尽蔵に降り注ぎ、その1年間だけで、化石資源の全埋蔵量の100倍以上のエネルギー量を持っていると言われています。人工光合成ハウスで行おうとしているのは、まさにこの太陽光エネルギーを直接使って家庭で消費するエネルギーすべてをまかなうことです。実現すれば世界中に恩恵をもたらすことができます。

南 繁行特任教授

天尾 豊所長(以下、天尾) 人工光合成ハウスでは太陽光を使った人工光合成でCO2からギ酸を生成し、さらにギ酸から生成した水素を水素エネルギーとして活用することで発電を行います。水素生成時に発生したCO2を回収して再び人工光合成を行うことで、再度ギ酸を生成できるので、実質的にCO2排出量ゼロを達成できる住宅です。これまでCO2から物質をつくると必ず炭素が残るのが課題でした。その炭素をCO2にしてリサイクルすることで、真のカーボンニュートラルを実現したい。人工光合成はそのための活路だと思っています。

人工光合成ハウスのイメージ図

――そもそも人工光合成とはどのようなものでしょうか。

天尾 水を分解して水素をつくったり、CO2を原料として有用な物質をつくる際に光エネルギーを利用するというのが人工光合成の一つの定義だといえます。
植物が行う天然の光合成は、太陽光を使って、CO2と水からデンプンやブドウ糖をつくり、酸素を出すという反応です。天然の光合成の場合はデンプンやブドウ糖がつくられるのですが、人工光合成の場合はCO2から多様な物質がつくれる点が魅力です。例えば先程ご紹介したギ酸に加えて一酸化炭素、メタノール、さらにはプラスチックの原料などもできます。ただ、多様なだけにゴールをどこにするのかが難しいともいえます。
人工光合成を使ってCO2から一番つくりやすいのはギ酸で、私はもともとCO2からギ酸をつくる研究をしていました。CO2から物質ができることに対して皆さん「すごい」とおっしゃってくれるのですが、「すごい」の次に何を持ってくればいいのか。いろいろ考えて、ギ酸を次のエネルギー源として活用することをこのプロジェクトの柱のひとつにしました。CO2を活用できるというのは、人工光合成の本来の目的の一つだと思います。

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◎他分野や企業とのタッグが新たな可能性を生む。

――大阪・関西万博に出展することになった経緯などをお聞かせください。

 飯田GHDさんと本学は20年以上前からさまざまな共同研究を行ってきました。2010年の上海万博大阪館に人工オーロラ発生装置を出展したのもそのひとつです。当時、私は工学部に所属しており、2012年から人工光合成研究センターに異動になったのですが、そこで人工光合成にふさわしい新しい共同研究の可能性を感じました。人工光合成を利用して水素をつくり、エネルギーに変換できる装置を各住宅に搭載すれば、エネルギーを自給自足できる住宅が実現します。そうしたことを飯田GHDさんにお話ししたところ非常に共感していただいて、2015年度から大型の共同研究がスタートし、同センターの所長である天尾先生と一緒に取り組んできました。そんな中、大阪・関西万博に共同でパビリオンを出展し、共同研究の成果を発表しないかと大学側から持ち掛けたところ、ご快諾いただいたわけです。

西野 万博のテーマと、未来の暮らしを考える共同研究のテーマがぴたりとあうのはご縁だと考えて出展を申し込みました。大阪公立大学のネームバリューもあって出展を認めていただいたのだろうと考えています。
飯田GHDは、分譲住宅シェア日本一の会社として認知されていますが、ただ住宅をたくさんつくるだけでなく、基本品質がしっかりした住宅をつくる必要があると考え、耐震性や温熱環境など、国土交通省が定める住宅性能評価の主要項目で最高等級の住宅を供給しています。住宅が人にやさしいだけでなく、自分たちが住む街も環境にやさしい街でなければなりません。なるべく化石燃料を使わないで済む仕組みを住宅で実現できれば、非常に価値があります。そういう思いが南先生とのご縁の中で形になり、人工光合成の研究を進めていらっしゃる天尾先生につながりました。おかげさまで今回のプロジェクトが順調に進んでいることをありがたく思っています。

天尾 万博に出展すると決まったとき、最初に思ったのは「間に合うかな?」で、心臓が止まりそうでした。基礎研究をしていた技術が実証試験につながることはほとんどないので、万博で実証的な研究成果をお披露目するというのは我々研究者にとって非常に大きなことです。飯田GHDの社員の方も大学に来ていただいて実験するなど、実質的な産学連携の取り組みができています。
実は、世間でいわれている実証試験は、大型化しただけという場合がほとんどです。大規模な水素発生ができたという実証試験でも、出てきた水素を活用できていなかったと思います。共同研究で電気工学を専門とされる南先生とタッグを組めたことで、発生した水素を動力として使ったりCO2を回収するなどのプロセスが見えてきました。研究課題の段階から実現可能なところまできたのは大きい。人工光合成の本質的な実証試験としては多分初めてになると思います。

西野 今回の共同研究の成果は、天尾先生の化学の分野と南先生の電気工学の分野が結びついて、初めて一つのシステムとして成り立つことなのです。基礎研究だけでは難しかったことが、一つの目的に向けてそれぞれの分野が協力できたことがよかったのではないかと素人目に思っています。

 その通りです。この共同研究は、人工光合成を実用化させるという目標、高い志を持って進めるべきものです。実証までちゃんとやることに、企業と一緒に研究する大きな意味があると思います。

――最後に、今回のプロジェクトに対する思いや、学生に向けたメッセージをお願いします。

 2022年に統合したばかりの大阪公立大学で、こうした大きなプロジェクトが始まっているということを知ってほしい。また、先ほど西野専務も話された通り、今回の万博は学生も参加できる機会があります。千載一遇のチャンスですので、ぜひ参加して協力してほしいと思います。

天尾 大学の研究のひとつは基礎研究ですが、基礎から発展して社会に役立つものになっていく姿を感じてもらえたらと思います。この技術は万博よりずっと先の未来につながるものです。例えばパリ協定では2050年までに炭素排出量を抑えるとしていますが、2050年から振り返ったときに「あのとき見た技術が実現できたんだ」と考えるきっかけにしてもらえればと思います。

西野 よい志がよい縁を生むということをご理解いただきたいですね。地球環境にやさしい社会をつくりたい、健康寿命を長くしたいという真摯な思いが、共同研究や万博出展という思いも寄らぬよい縁を引き寄せてくれました。
また、大阪市立大学、大阪府立大学の時代からステークホルダーの皆様が脈々と支えてくださって、素晴らしい組織をつくってくださったからこそ、当社は皆様と出会うことができ、万博につながりました。皆様が培ってきた伝統があるからこそ、今回の場ができ、それが今の学生に受け継がれていく、万博はその象徴的な出来事の一つだと思います。何よりも、万博でパビリオンを産学で共同出展するというのは国内初なのです。それを大阪公立大学が成し遂げたということで、ぜひ、多くの学生、OBの皆様に万博に訪れていただいて、自分の大学名の記されたパビリオンを見て誇りに感じていただきたい。
共同研究では、双方に化学反応が起こると思います。例えば、企業はどうしてもビジネスライクになって発想に限界が出がちですが、研究者ならではの着眼点が刺激になったりアイデアをいただいたりできます。ビジネスの考え方と学術研究が結びつくことで、これまでにないものが生まれるのです。今回の万博で社会に成果をお見せできれば、大阪公立大学のブランド価値の向上にも役立つでしょうし、我々も企業としてその責任感を持って取り組んでいきたいと考えています。

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<プロフィール>

飯田グループホールディングス代表取締役専務 西野 弘氏
1988年リクルート入社。2006年東栄住宅(現 飯田グループホールディングス子会社)入社。07年同社代表取締役社長就任。13年より飯田グループホールディングス取締役に就任。19年常務取締役、21年取締役専務に就任。22年3月より現職。

人工光合成研究センター所長 天尾 豊
博士(工学)。1997年東京工業大学大学院修了。専門分野はナノテク・材料/グリーンサスティナブルケミストリー、環境化学など。科学技術庁航空宇宙技術研究所(現宇宙航空研究開発機構JAXA)研究員、大分大学准教授などを経て、2013年に人工光合成研究センターへ。2015年に所長着任。

人工光合成研究センター特任教授 南 繁行
博士(工学)。1972年大阪市立大学(現 大阪公立大学)大学院工学研究科修了。専門分野はものづくり技術(機械・電気電子・化学工学)や 電力工学、宇宙惑星科学など。2010年の上海万博大阪館に「人工オーロラ発生装置」を出展。2019年には全く新しい方式の水素駆動推進船システムを世界で初めて実現した。