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2026年8月5日
- 職員
総合知を技術力で支える総合技術部の挑戦――「研究者を支え、同じ熱量で議論できる技術職員を目指したい」 総合技術部 篠原 明莉さん
大阪公立大学が目指す「研究型大学」への進化。その大きな鍵を握る一つが、総合技術部です。
社会課題が複雑化し、解決する方策も多様化するなか、研究者が研究開発に挑戦し、国際的な競争力のある研究成果を生み出すために、大学における技術職員の存在は不可欠です。
2025年4月、分散していた技術職員を全学的に結集し、総合技術部を新設。分野や所属を超えた協力体制を築き、学際的な研究や新たな技術的課題にも柔軟かつ積極的に対応できる、高度専門技術者集団を目指します。
今回は、組織を統括する緒方 孝一部長と、2025年4月に教員から技術職員へと転身し、生命科学部門・医学機能系グループで働きながら博士学位取得を目指す篠原 明莉さんに、新組織の狙いや技術職員というキャリアの魅力についてお話を伺いました。
PROFILE
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緒方 孝一(おがた こういち)
総合技術部の統括責任者として、立ち上げ当時より従事。
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篠原 明莉(しのはら あかり)
京都府立大学 農学食料学部栄養科学科にて助手として勤務後、2025年4月から本学技術職員として、生命科学部門・医学機能系グループにて従事。
2026年4月より勤務と並行して大学院医学研究科にて博士の学位取得を目指す。
- ※所属は取材当時
まず、総合技術部設立の経緯と背景について教えてください。
既存の研究支援体制にはどのような課題があったのでしょうか。
- 緒方
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最大のきっかけは、本学が令和5年度文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択されたことです。現在、日本の大学では、教員や研究者の教育・研究時間をいかに確保するかが大きな課題となっています。国の基本政策においても研究環境の抜本的な刷新が求められています。先進国の中で日本の理系人材の割合は低く、国際的な研究力の相対的低下が危惧される中、資源の少ない日本が世界と伍して戦うには研究力のさらなる向上が不可欠です。
文部科学省は、令和7年度末に「技術職員は教員と共同して研究を推進する高度人材である」という人事制度等に関するガイドラインを策定しており、本学ではこの策定に先駆けて、全学的な技術職員の組織化(全学的集約)に踏み切りました。目指すは「高度専門技術者集団」です。
また、文部科学省は現在、高価な研究設備や機器を研究室ごとに抱え込まず、大学全体、さらには学外とも「共用化」していく方針を強く推進しています※1。その維持管理や運用の担い手としても、技術職員の組織化が必要だったのです。
「製作・計測、分析・実験教育、施設維持管理、医学系・フィールド系」など多分野を統合した組織構成ですが、この狙いやメリット、特徴は何でしょうか。
- 緒方
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現在は8つのグループに分かれています。教育研究系技術職員の所属(派遣元)を総合技術部に一本化しつつ、勤務地はこれまでの職場という形をとっています。同じ分野の技術職員が一つの組織になることで、技術のシナジー効果が期待できますし、学内の方針を一つのベクトルで前進させられる強みが生まれました。本学の特徴であり課題でもあるのは、市大・府大の統合によりキャンパスや拠点が分散している点です。そのため、TeamsやSharePointなどを駆使して横の連携を深め、ワンチームになれるよう取り組んでいます。
技術職員の役割は、従来からどのように変わりつつありますか。また、スキル向上の取り組みは?
- 緒方
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これまで以上に「教員の研究内容を理解した上で技術的なアドバイスができる人」へと高度化が求められています。
スキル向上の取り組みの一つとして、東京科学大学主宰の「TCカレッジ」という、大学の技術職員や企業で研究開発に携わる技術者を対象とした「高度技術専門人財」を養成するための研修に、本学からも延べ7名が参加しています。すでに「テクニカルコンダクター(TC)」「テクニカルマスター(TM)」などの認定者が出ており、自ら技術研鑽を積んで高度化を図っています。
研究成果への貢献度を評価・可視化する取り組みや、今後の課題はありますか。
- 緒方
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8グループの業務は多岐にわたるため、一つの指標で定量的に評価するのは非常に難しいのが現状です。ただ、一昨年度までバラバラだった組織を一つの組織に集約できたのは前進です。大学Webサイトの総合技術部のページでは、「大阪公立大学技術者名鑑※2」として、技術支援情報や担当機器などの公開を通じて仕事の見える化をしています。技術職員の認知度を高めていくことが今後の課題であり、積み上げていきたい部分ですね。
※2:総合技術部「大阪公立大学技術者名鑑」(大学Webサイト)
地域や社会への貢献として、具体的にどのような取り組みを行っていますか。
- 緒方
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夏休みを中心に、「サンケイリビング子ども大学」や「サイエンスフェスタ」「関西科学塾」など子どもや中高生向けの地域イベントを積極的に行っています。技術職員が教育・研究推進の実績を活かし、大学ならではの実験機器・材料・生物を使って直接子どもたちにレクチャーするイベントは、非常に満足度の高い声をいただいています。技術職員だからこそできる積極的な社会貢献活動だと思っています。
総合技術部の5年度・10年後に目指す姿、今後のビジョンを教えてください。
- 緒方
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今年度、文部科学省及び国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による先端研究基盤刷新事業(EPOCH)に採択されましたので、今後、本学は技術職員やURAなどの人材を含めたコアファシリティを戦略的に整備する取り組みや先端的な研究設備・機器の整備・共用・高度化を進めていくことになります。
今後は、本学の高専や学部卒、修士・博士卒の学生たちが、将来のキャリアパスとして「大学の技術職員になりたい」と思えるような、専門性がしっかりと認められ、制度面・環境面からも支えられた魅力とやりがいのある組織にしていきたいです。「生き生きワクワク」できる職場を作り、教員の研究を前進できるように取り組んでまいります。
続いて、篠原さんにお伺いします。
2025年4月に、京都府立大学の助手(教員)から本学の技術職員へ転身されました。目指したきっかけについて教えてください。
- 篠原
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教員時代は研究と教育の両立で、早朝から深夜まで働く多忙な日々を送っており、大学教員としての長期的なキャリアや将来の見通しに少し不安を感じていた時期がありました。また、教員として学生を指導するなかで、自分が成果を上げるよりも、誰かの支えになる仕事に魅力を感じるようになっていきました。もともと研究自体にはすごくやりがいを感じていて、より長期的に研究に向き合える環境を探そうと考えたのが、技術職員を目指したきっかけです。
数ある選択肢のなかで、大阪公立大学を選んだ理由は何ですか。
- 篠原
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国内最大級の公立大学であり、研究分野が非常に広いことに魅力を感じました。「ここなら、たくさんの面白い研究テーマに出会えるかもしれない」と。また、募集が「医学部で勤務する技術職員」という枠だったので、自分の専門性を活かして医学研究の発展に貢献できるかもしれないと思ったのも決め手です。
入職当時は、総合技術部が新設されたばかりだとは知らなかったのですが、周囲の先輩方と一緒に新しい予約システムを導入し、みんなで試行錯誤しながら組織の土台を整えていく過程で、新設部署ならではの熱量を肌で感じることができました。
現在の具体的な業務内容や、1日のスケジュールを教えてください。
- 篠原
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医学研究科共同実験機器施設で、細胞や組織の生理機能を評価するフロアを担当しています。具体的には、フローサイトメーター(細胞のタンパク質発現を蛍光標識により定量解析する装置)や、タイムラプス装置、蛍光顕微鏡などのメンテナンスや管理運営を行っています。
【1日のスケジュール例】
朝 メールチェック後、まずはフロアを巡回。各装置の使用記録を確認し、装置の不調や消耗品の不足がないかチェック。 日中 装置のマニュアルを医学部の教員向けに分かりやすく改良する事務作業。 都度 「装置の使い方がわからない」「こんな実験をしたい」という教員の相談対応やサポート。 空き時間 メーカー主催のオンラインセミナーなどを受け、技術や原理の知識をアップデート。
実際に働いてみて、イメージと違った点はありますか。また、やりがいを感じる瞬間も教えてください。
- 篠原
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実験の支援だけでなく、施設の利用料金設定や請求の取りまとめ、機器使用のルール整備といった施設の運営管理業務も業務の大きな割合を占める点は、入職前のイメージと少し違いました。これまでは自分の研究のことばかり考えていましたが、「みんなが気持ちよく研究設備・機器を共用するにはどうすべきか」を俯瞰して考える難しさと面白さを知りました。
やりがいを感じるのは、やっぱり先生方に頼りにされた時ですね。臨床の医師や基礎研究の先生から難しい相談を受け、一筋縄ではいかないトラブルを試行錯誤の末に一緒に解決できた瞬間は、本当に技術職員になってよかったなと思います。
2026年4月からは、勤務と並行して大学院医学研究科で博士の学位取得を目指されているそうですね。その理由は何でしょうか。
- 篠原
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技術職員の高度化が求められているという背景もありますが、何より日頃接している先生方の研究への熱量がもの凄く高いんです。自分もその先生方と同じ温度感、同じ感覚でディスカッションがしたい、業務に臨みたいと思ったのが一番の動機です。
また、これまでの研究経験を一度しっかり「博士学位」という形にして、今後の業務に還元したいと考えました。
業務と研究、両立の大変さや工夫している点はありますか。
- 篠原
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時間の確保が一番の課題なので、平日の業務時間外や休日を使って実験をしています。できるだけ効率的に進められるよう、実験計画は入念に立てますね。休日にまとめて試薬を調整しておいたり、反応時間を短縮できる最新のキットを積極的に活用したり、タイムマネジメントを工夫しています。
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「研究の経験が業務に活きる点」、逆に「業務の経験が研究に活きる点」はありますか。
- 篠原
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研究経験が活きているのは、失敗からの立て直し方です。実験支援の現場では、当初の方針を大きく見直さなければならないトラブルが多々起きます。そんな時、研究生活で培ったトライ&エラーの精神が役立っています。
逆に業務の経験が研究に活きているのは、俯瞰的な視点です。技術職員として第三者の目線で多くの実験を見るようになったことで、以前よりも広い視野を持てるようになり、自分の研究で行き詰まることが減り、スムーズに進むようになりました。
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将来的に挑戦したいことや、目指す技術職員像を教えてください。
- 篠原
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将来的には、研究力向上のための研究費の獲得・助成事業の申請業務などにも関わっていきたいです。現場の声を一番近くで聞いている立場として、大学の力になれたら嬉しいですね。
また現場においては、専門知識をさらに深め、研究者の先生方と対等に議論できる技術職員になることが目標です。そのためにも、日々のコミュニケーションを大切にして、気軽に相談してもらえる存在であり続けたいと思います。
最後に、技術職員を目指す学生や高校生に向けてメッセージをお願いします。
- 篠原
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私自身、すべての始まりは大学3年生の実習で大腸菌を観察した時に桿菌が分裂時に連鎖する様子を見て、「菌が伸び伸び成長していて、実験って面白いな!」とワクワクしたことでした。教員であれ技術職員であれ、根底にあるのは「実験が好き、楽しい」という気持ちです。自分が「楽しい、これなら頑張れそう」と思えることは、ぜひ長く大切に続けてほしいなと思います。それが将来、長く頑張るための大きなエネルギーになります。
関連情報
文部科学省「先端研究基盤刷新事業(EPOCH)」に採択 ―研究者が挑戦できる研究基盤への刷新を目指して― (大学Webサイト)