研究グループ(1)自己免疫性水疱症の病態解明と治療法の開発

研究グループ(1)自己免疫性皮膚疾患の病態解明と治療法の開発

研究内容自己免疫性皮膚疾患の病態解明と治療法の開発

PI:廣保 翔
研究紹介

免疫系は「非自己」を認識しそれを体内から排除することで、外敵から「自己」を守っています。しかし免疫系が誤って「自己」の一部を「非自己」と認識してしまうと、免疫系は自己の組織を攻撃し様々な症状を引き起こします。このようなメカニズムで引き起こされる病気を自己免疫疾患とよびます。皮膚科の疾患には様々な自己免疫疾患があり、これらの病気の多くは治りにくく、また現在の治療には様々な副作用が伴います。このため、これらの難治性自己免疫性皮膚疾患に対する安全で効果的な治療法は、現在の臨床上のアンメットニーズです。

私達のグループは、これらの自己免疫性皮膚疾患の中でも特に類天疱瘡や白斑といった疾患をターゲットに研究をしています。これらの疾患における病態メカニズムを解き明かすことで、新たな治療法の開発につなげこれからの皮膚科医療に貢献することと、これまで誰も知らなかった皮膚免疫の複雑なシステムの一部を解明し科学の発展に寄与していくことが、われわれの目的です。

  • 類天疱瘡IgGの病理学的機能

    類天疱瘡疾患は、全身や粘膜に生じる水疱やびらんを臨床的特徴とし、高齢者に好発する自己免疫水疱症です。現在の治療は非特異に免疫を抑制する内服ステロイドなどが中心です。これらの治療は類天疱瘡に概ね効果的ですが、様々な副作用が臨床上の問題となります。またこうした標準治療があまり効果的でない症例もしばしば存在します。こうした理由から、より安全で効果的な治療法が臨床において求められています。また、社会の高齢化や類天疱瘡を引き起こす薬剤が増えてきたことなどにより近年その患者数は増加傾向で、類天疱瘡の新規治療のニーズは益々高まっています。

    これまで類天疱瘡の発症メカニズムとして、自己抗体が真皮表皮接合因子である自己抗原に結合すると、活性化補体の真皮表皮接合部への遊走とそれに伴う顆粒球のリクルートと様々なプロテアーゼの放出を誘導し、それらが真皮表皮接合因子を分解することで水疱が形成されることが示されてきました(図1)。これに加え、われわれは自己抗体が表皮細胞上に発現する自己抗原に結合すると、表皮細胞が自己抗原をマクロピノサイトーシスという機構で取り込み、その結果真皮表皮間接着が脆弱となり、水疱が形成されることを主にlive cell imagingの手法を用いて示しました(Hiroyasu et al., 2013, Am J Pathol)(図2)。これはこれまで明らかになっていなかった類天疱瘡の水疱形成メカニズムです。


    図1: 水疱性類天疱瘡における補体やプロテアーゼによる水疱形成

    図2: 水疱性類天疱瘡における自己抗原(COL17)の内在化による水疱形成

    現在私たちは、この研究の延長として、類天疱瘡IgGが表皮ケラチノサイトからのサイトカイン放出を誘導することに注目し、そのメカニズムを明らかにすることを目標に研究をしています(水疱性類天疱瘡における炎症誘起機序の解明と新たな治療法の開発応用)。これらの研究により、類天疱瘡発症直後のステージでどのような現象が起きているのかを明らかにし、それに対する治療方法の開発につなげることが私達の目標です。

  • 類天疱瘡におけるグランザイムの機能

    グランザイムは様々な細胞から放出されるセリンプロテアーゼです。そのメンバーとして、ヒトではグランザイムA, B, H, K, Mが存在します。もともとは感染下などで細胞傷害性T細胞やNK細胞からパーフォリンと共に放出され、感染細胞内に入り標的細胞を障害することが知られていました。しかし近年になって、肥満細胞や好塩基球、マクロファージなどからもパーフォリンを伴わずに放出され、細胞外でタンパク切断を行うことで様々な病理学的な機能を果たすことがわかってきました(図3)( Hiroyasu et al., 2021, J Dermatol Sci)。


    図3: グランザイムBの細胞内と細胞外機能(Hiroyasu et al., 2021, J Dermatol Sciより抜粋)

    私達のグループは、類天疱瘡における新たな治療薬を見つけることを目的に、the University of British Columbia のDavid Granville教授のグループと共同で、類天疱瘡におけるグランザイムBの機能を解析しました(Hiroyasu et al., 2021, Nat Commun)。複数のin vivoモデルとヒトサンプルを用い、肥満細胞や好塩基球から放出されたグランザイムBは真皮表皮接合因子のタンパク分解と、表皮角化細胞からのIL-8分泌を誘導し、類天疱瘡を増悪させることを明らかにしました。また、グランザイムBの小分子阻害薬の外用により、複数のin vivo 類天疱モデルの皮疹を改善させることに成功しました(図4)。


    図4: グランザイムB阻害薬外用は水疱性類天疱瘡マウスの水疱形成を抑制した(Hiroyasu et al., 2021, Nat Communより改変)

    現在私達は、この研究の延長として、類天疱瘡に特徴的な強い痒みをコントロールすることを目標に、類天疱瘡の痒みにおけるグランザイムの機能を解析しています(類天疱瘡の痒みにおけるプロテアーゼの機能解明)。また、類天疱瘡が掻破により増悪することに注目し、掻破が類天疱瘡の皮疹を増悪させるメカニズムの解明と、瘙痒のコントロールを通じた類天疱瘡の新規治療法の開発を目指して研究を行っています(水疱性類天疱瘡発症の新たな機序;掻破とNETosis)。

  • その他

    その他、私達のグループは、尋常性白斑におけるグランザイムの機能解析や、類天疱瘡の疫学的研究を行っています。

メンバー募集

私達のグループでは、一緒に研究をする博士課程、修士課程の大学院生を募集しています。自己免疫性皮膚疾患、皮膚免疫、プロテアーゼ、細胞接着因子などに興味を持ち、私達と一緒に研究を行いたい方は廣保までご連絡ください。ポスドク、留学生、実験助手などは、予算の都合上、現在特に募集しておりませんが、一緒にフェローシップなどをアプライすることは可能ですのでご相談ください。

PI 廣保 翔
研究員 廣保 葵
大学院生 松本 大介
研究生 チョウ シイ
訪問研究生 Jay-V James Barit