研究内容 Research

光合成の集光機構の解明と人工光合成への展開

太陽光は低密度かつ変動の大きいエネルギー源であり、光合成生物は色素タンパク質を使って光を効率的に集め、利用しています。この過程で鍵を握るのが、光合成色素の励起状態です。この励起状態は、色素の分子構造や周囲のタンパク質環境によって変化し、光合成機能の制御に深く関わっています。

私たちは、特に海洋性藻類が限られた光環境下で緑色光を活用するしくみに注目し、光合成色素としてのクロロフィルやカロテノイド(特にシフォナキサンチン)の励起状態が、構造変化やタンパク質との相互作用によりどのように変化し、エネルギー移動を制御しているのかを分子レベルで解明しようとしています。

この目的のために、藻類の大量培養、色素タンパク質の精製、リコンビナントタンパク質と色素を用いた色素タンパク質複合体の再構成、分光学的手法によるエネルギー移動の解析、さらには構造解析(X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡)までを組み合わせた多角的なアプローチを用いています。最終的には、励起状態の理解を通じて、人工的な太陽光集光システム設計の原理の解明を目指しています。

<最近の研究> 

海洋性大型緑藻ミル

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潮間帯の海底に生育する大型の緑藻ミルは、潮汐による水深の変化により、光の色が白色強光⇄青緑色弱光と常に変化する環境で光合成をしています。

緑藻ミルにおいて、光合成アンテナに結合したシフォナキサンチンが緑色光を吸収し、光合成に役立てていることは1980年代から知られてきたが、光合成アンテナの構造情報は得られていませんでした。

シフォナキサンチンは抗炎症作用や抗肥満作用を示す機能性成分として近年注目され始めているが、大量供給源がないことが問題点となっています。

青色光でシフォナキサンチンの生合成が阻害された?

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我々は、糸状体培養技術を用いて、青緑色強光でシフォナキサンチンの生合成が阻害され、前駆体であるデオキシ体が光合成アンテナ内に蓄積することを発見しました。(FEBS Lett. 2022)

<神戸薬科大学 山野由美子教授、徳島大学 岡直宏准教授、基礎生物学研究所 亀井保博准教授との共同研究>

シフォナキサンチンの生合成経路については、これまで、ルテインの19位のメチル基にOHがついたロロキサンチンを経由すると考えられてきましたが、本研究では、ルテインにカルボニル基がついたデオキシシフォナキサンチンが前駆体だと分かったため、これまでの定説を覆す結果となりました。シフォナキサンチン の生合成前駆体についての実験的な証拠を提示したのは、本研究が初めてです。 今後シフォナキサンチンの生合成酵素についての研究が進むことが期待されます。  研究継続中

シフォナキサンチンを結合する光合成アンテナ(SCP)の高分解能構造を解明!

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我々は、クライオ電子顕微鏡法により、緑藻ミルの光合成アンテナの原子分解能構造(2.78 Å)を解明しました。この構造より、シフォナキサンチンのねじれが緑色の吸収帯を生成すること、クロロフィルaがクロロフィルbに置換された二箇所によりクロロフィルbの集積領域が拡大したことが青色吸収帯の増強に寄与することが示唆されました。(BBA Advances, 2022) プレスリリース

<大阪大学蛋白質研究所 栗栖源嗣教授、ThermoFisher Scientific社 銭朴研究員との共同研究>

陸上植物ではほうれん草、エンドウ豆由来の光合成アンテナLHCIIの高分解能構造がX線結晶構造解析により2004年ごろに報告されていましたが、陸上植物とは異なる色素を結合したLHCIIの高分解能構造は初めてとなります。

この構造に基づいた量子化学計算と、超高速分光の結果を合わせて解析することにより、光合成アンテナのエネルギー伝達メカニズムの理解が深まると期待できます。 研究継続中

シフォナキサンチンを結合する光合成アンテナ(SCP)は単粒子分光で妙な挙動をする?

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我々は、ミルの光合成アンテナSCPの単粒子分光(single particle spectroscopy)を実施し、赤色光で励起した時に特異的に、消光の特徴である低エネルギーで寿命が短い蛍光が現れるというミルに特有の現象を初めて観測しました。(J. Phys. Chem. Lett, 2022) 

<ドイツ バイロイト大学J. Köhler 教授との共同研究>

この現象が、集光と消光のモードの切り替え(swiching)の分子メカニズムと考えて良いのかどうか、研究継続中です。