2026年度セミナー

2026年度コロキウム

日時・場所 講演者 題目・概要

4月10日(金)
16:00〜
E108

中尾憲一

(大阪公立大学)

電荷を持つ無限に薄い球殻の降着によるブラックホールの帯電について

活動銀河核やガンマ線バーストなどは磁場が重要な役割を担うブラックホール近傍で起きる物理現象だと考えられている.それらの理論的研究において,ブラックホールは電気的に中性であることが仮定されることが多いが,近年,ブラックホールが帯電する可能性とその影響が注目されている.例えば,講演者とその共同研究者らによって,静的なブラックホールの周りに陽子-電子プラズマが分布している場合,陽子温度と電子温度がほぼ同じならば,陽子と電子の質量の違いによる陽子の選択的降着によってブラックホールが正に帯電しうることが示された.しかし,この解析に対して,陽子と電子の間に働くクーロン引力の影響を考慮していないという批判がある.そこで,本講演では,静的ブラックホールを取り囲む電子だけから成る無限に薄い球殻と陽子だけから成る無限に球殻の2体系に注目し,クーロン引力の影響がブラックホールの帯電に及ぼす影響を議論する.

4月17日(金)
16:00〜
E108

宮地 大河
(大阪公立大

完全WKB解析を用いたブラックホール準固有振動解析の最近の進展

ブラックホール時空を背景とするスカラー場、ベクトル場、テンソル場、スピノル場などの場の摂動論は、天体物理学やホログラフィー理論において重要な役割を果たす。特に、摂動方程式の固有値問題に現れる複素振動数は準固有振動と呼ばれる。例えば、ブラックホール連星からの重力波においては、連星合体後のリングダウン重力波を特徴づける量であり、強重力下の重力理論を検証する有力な手がかりとなっている。また、ホログラフィーによるクォーク・グルーオンプラズマ(QGP)の記述においては、QGP流体の粘性がAdSブラックホールの重力摂動に対応する準固有振動として表される。これらを記述する摂動方程式は多くの場合、変数分離が可能であり、最終的には2階常微分方程式の固有値問題に帰着する。しかし、これらの微分方程式を解析的に解くことは一般に困難であり、準固有振動の計算には数値計算や限定的な近似法が用いられてきた。

近年、宮地、難波、大宮、大下により、完全WKB解析と呼ばれる数学的手法を本問題に適用する枠組みが確立された。完全WKB解析は、微分方程式の解の大域的挙動を近似に依らずに記述する手法であり、特に固有値問題に対して強力である。これにより、準固有振動の満たす条件式を厳密に記述することが可能になりつつある。

本コロキウムでは、この完全WKB解析を用いた準固有振動の計算方法と、その手法を応用した最近の研究の進展について紹介する。

4月13日(木)
16:45〜
オンライン

清水 康弘
(大阪公立大

Gravitational Waves from Phase Transition in a Supersymmetric Left-Right Model

強いCP問題を解決する超対称 SU(2)_L × SU(2)_R × U(1)_{B-L} 模型において、SU(2)_R × U(1)_{B-L} → U(1)_Y の対称性の破れに伴う一次相転移から生成される重力波を考察した。LHCの制約を満たすパラメータ領域において、この相転移は強い一次相転移となる場合があり、生成される確率的背景重力波はピーク周波数 0.1-1 Hz、振幅 h²Ω_GW ~ 10⁻¹⁴-10⁻¹² となることを示した。このスペクトルが将来のDECIGO/BBO計画の感度帯域と一部重なり、強いCP問題の解決機構が重力波観測によって検証できる可能性があることが分かった。

5月8日(金)
16:00〜
E108

松野 皐
(大阪公立大

3D Newman-Penrose形式を用いた概接触計量構造の考察とshear-free geodesic congruenceを持つ完全流体空間の分類

完全流体を物質とするEinstein方程式を満たす時空やリーマン多様体は完全流体多様体などと呼ばれる。完全流体多様体がどれぐらいあるか調べることは一般相対論の黎明期から現在に至るまで興味ある問題である。しかし例え3次元であっても、これまでに対称性を仮定した厳密解がいくつか見つかっているものの、完全流体多様体を完全に分類することはかなり難しい。そこで講演者(松野)は流体の流れがshear-free geodesic congruenceになるという運動学的に比較的リーズナブルな条件の下で、3次元完全流体多様体の分類を行った。3次元完全流体多様体は、3次元概接触計量eta-Einstein多様体と同値であり、3D Newman-Penrose形式を用いた議論により、shear-free geodesic congruenceという性質は概接触幾何におけるnormalityと同値であることが分かる。従って、数学的には3次元normal概接触計量eta-Einstein多様体の分類問題となり、これは概接触計量幾何の分野でも未解明であった。講演者はRiemannianにおいてはコンパクト/非コンパクトの両方において完備性の仮定の下で分類を行った。Lorentzianにおいては非コンパクトな場合に曲率特異点を持たないという仮定の下で分類を行った。Lorentzianの場合では対称性を全く持たない完全流体時空の無限自由度の族が得られ、これはRiemannianでは対応物が存在しないことも分かった。

5月15日(金)
16:00〜
E108

小久保 充
(国立天文台

JWSTで見えてきた初期宇宙の謎の活動銀河核「リトル・レッド・ドット」

活動銀河中心核(AGN)は、銀河中心に存在する超巨大ブラックホールへの激しい物質降着によって莫大なエネルギーを放射する天体である。本講演ではまず、ブラックホールへ落ち込むガスがどのように光を放つのか、そして天文学者がどのような観測を通してAGNを見分けているのかを概説する。 続いて、近年の James Webb Space Telescope (JWST) による超高感度赤外線観測によって発見された、遠方宇宙の新しい天体種族「リトル・レッド・ドット(Little Red Dots)」に焦点を当てる。これらの天体は、宇宙誕生後まもない時代に多数存在していたにもかかわらず、活動銀河中心核=超巨大ブラックホールに特徴的な幅広い輝線を示すという不思議な性質を持つ。一方で、そのスペクトルの特徴は従来のAGN像とは一致しない点も多く、その正体を巡って活発な議論が進んでいる。 本講演では、JWSTが可能にした遠方宇宙観測の革新を紹介するとともに、「リトル・レッド・ドット」が初期宇宙における超巨大ブラックホール形成や銀河進化の理解にどのような新たな問いを投げかけているのかを議論する。

5月22日(金)
16:00〜
オンライン

小川 達也
東京電機大

多重場オシロン/I-ballの形成と性質 - Friedberg–Lee–Sirlin模型における解析と数値計算 -

オシロン(I-ball)は、実スカラー場に現れる長寿命の局在振動構造であり、インフレーション後の reheating・preheating 過程や暗黒物質、重力波など初期宇宙の様々な現象との関連から近年注目を集めている。通常、局在した波束は時間発展とともに分散するが、オシロンでは非線形効果によって局在構造が長時間維持される。しかし、その形成機構や安定性、特に複数の場が存在する場合の性質は十分に理解されていない。

 本セミナーでは、まずオシロン/I-ball の基本的性質について概説し、インフレーション後の reheating・preheating 過程との関係や、なぜ長寿命局在構造が形成されるのかを初歩から説明する。その後、Friedberg–Lee–Sirlin (FLS) 模型の実スカラー版において、多重場オシロン/I-ball の存在を解析した最近の研究を紹介する。two-timing解析による存在条件の導出、および格子シミュレーションによる形成過程の数値的検証を通して、異なる質量を持つ複数の場が同一領域に局在し、一種の束縛状態として振る舞う多重場オシロンについて議論する。

5月29日(金)
16:45〜
E108

山崎 了
青山学院大

大型レーザーを用いた磁化プラズマ中を伝播する無衝突衝撃波の生成実験

磁化プラズマ中を伝播する無衝突衝撃波(magnetized collisionless shocks)は、超新星残骸、太陽地球圏プラズマ、実験室プラズマなどに普遍的に存在する。低エントロピーの上流流体が衝撃波に流入すると、そのバルク運動エネルギーは、イオン・電子の加熱、磁場乱流、非熱的粒子などへと変換される。特に、超臨界のmagnetized shockでは、入射イオンの一部が衝撃波面で上流側へ反射され、foot〜ramp〜overshoot といった内部構造を形成する。この反射イオンは、衝撃波散逸、イオン加熱、プラズマ不安定性、さらには宇宙線加速の初期過程にも関わると考えられている。しかし、このような多階層・非線形過程を天体観測のみから詳細に分解することは難しく、制御された条件下の地上実験で衝撃波を生成・診断する実験室宇宙物理学的アプローチが重要となる。
 本講演では、大型レーザーを用いて磁化プラズマ中に超臨界のmagnetized collisionless shockを生成する実験について紹介する。プラズマ自発光計測によりfoot領域を捉えた。さらに、空間分解集団トムソン散乱計測により、foot領域で背景磁場に垂直方向・平行方向のイオン温度異方性を示す実験的証拠が得られた。セミナーでは、高エネルギー宇宙物理学、無衝突衝撃波、宇宙線のイントロダクションから初めて、我々の実験結果(自己発光計測、集団トムソン散乱など)と粒子シミュレーションとの比較を通じた、magnetized shockの形成過程について議論する

6月05日(金)
16:45〜
E108

小松原 涼介
(大阪公立
Kerr 時空の周りで自由落下する完全流体プラズマ中の重力レンズ効果

 ブラックホール周辺の光伝播は、Event Horizon Telescope による M87* や Sgr A* の撮像を解析するうえで本質的な問題である。従来の重力レンズ効果の理論は真空時空や「冷たい静止(cold static)プラズマ」を基本としていたが、実際の降着円盤は動的な4元速度を持ち、強い磁場や高い温度を伴うことが予想されている。そのため近年、光線軌道の解析に対するより現象論的なモデルとして、プラズマ媒質中における伝播のモデルが盛んに研究されてきた。

 そこで、Kerr ブラックホールの周りにプラズマが取り巻く状況を考察し、光の伝播(重力レンズ効果)を数値的に解析する。光線の方程式は、一般相対論と幾何光学近似に基づいてハミルトン形式で解析し、先行研究に基づいてプラズマ媒質の運動と屈折率の効果を一般化する。先行研究では、Hamilton 方程式が変数分離可能なプラズマ分布を特定し扱っていたが、自由落下するプラズマの数密度を用いると、Hamilton 方程式は変数分離不可能になる。

 本研究では、それを数値的に取り扱い、順回転・逆回転の場合について光線の偏向角を定量化する。偏向角に加え、光の閉じた軌道についても考察し、時空の回転(スピンパラメータ)とプラズマの運動が、ブラックホール候補天体の重力レンズ効果に与える影響を定量化する。

6月12日(金)
16:00〜
E108

武田 紘樹
(京大 白眉センター

重力の開放量子系と量子性検証

重力の量子的性質は、基礎物理学における未解決問題の一つであり、いまだ実験的に検証されていない。本講演では、重力の量子開放系と量子性検証について発表する。特に、重力波は重力の量子的キャリアと考えられている重力子を探る有力な手段となりうる。しかし、量子的な信号を古典的な重力波と区別するためには重力波の量子コヒーレンスが保持されている必要がある。一方で、そのコヒーレンスは宇宙環境との相互作用によって失われる可能性があり、量子から古典への遷移を引き起こすデコヒーレンスの影響を考慮する必要がある。そこで、縮約密度行列およびデコヒーレンス汎関数を導出し、重力波がどの程度量子情報を保持できるかを評価する。これにより、重力の量子的性質やインフレーション起源の重力波を直接検証する上での基本的な限界を明らかにする。

6月18日(木)
16:45〜
E101

富沢 真也
(豊田工業

多中心極限Myers-Perryブラックホール

ブラックホール多体系の厳密解は、重力波天文学におけるブラックホール連星の理解や、理論物理の重要課題に直結することから、これまで広く研究されてきた。しかし、対称性の欠如や系の本質的な動的性質のため、その構成は一般に極めて困難である。真空においては、IsraelとKhanによる多重Schwarzschild解や、KramerとNeugebauerによる回転を含むdouble
Kerr解が知られているが、いずれも平衡を維持するためには円錐特異点(ストラット)の存在が不可避である。一方、電荷を導入すると状況は大きく変わる。Einstein–Maxwell理論におけるMajumdar–Papapetrou解では、重力と静電斥力が正確に釣り合うことにより、特異点を伴わない静的な多体系が実現される。しかし、このような正則な多体ブラックホール解は、これまでさまざまな理論において構成されてきたものの、その多くはBPS解に限られている。

本研究では、非BPSの場合において、新しい正則な多体ブラックホール解を構成する。まず、Teo–Wan、MaisonおよびClémentの研究を基盤として、5次元Kaluza–Klein理論における正則な多中心回転ブラックホール解を構成する。この解は、次元低下によりEinstein–Maxwell–dilaton理論における任意個の回転ダイオンブラックホール系を記述するものであり、回転するMajumdar–Papapetrou解の一般化として理解される。さらに、この回転Majumdar–Papapetrou解の構成を踏まえ、5次元真空アインシュタイン重力における多中心回転ブラックホールの新しい厳密解を構成する。2つの可換なキリングベクトル場を仮定すると、この系は非線形シグマ模型と結合した3次元重力へと帰着される。我々は、極限Myers–Perry解のスカラー場が3次元平坦空間上の2つの調和関数で記述できることを示し、これらを多中心へと拡張することで、多中心回転ブラックホール解を構成する。これらの解においては、曲率特異点は地平面の内部に隠されており、地平面上およびその外部には、閉じた時間的曲線や円錐特異点が存在しないことも示される。

6月26日(金)
16:45〜
E108

山村 勇斗
(大阪公立
AdSバブルによる粒子生成

ブラックホールは宇宙物理学において、理論、実験の両面から活発に研究されており、重要な研究対象となっている。ところが、ブラックホールは情報喪失問題など、複数の理論的な未解決問題を含んでいる。これらの諸問題を解決するため、ブラックホールに代わる重力崩壊の最終生成物としてgravastarと呼ばれる非常にコンパクトな天体がMazur, Mottolaによって提唱された[1]。Gravastarの表面は薄い球殻からなり、その内部は正の宇宙定数で満たされている(de Sitter時空)。

一方、重力崩壊によりブラックホールが生成される場合、その質量に反比例する温度の熱的なスペクトルを持つ放射が発生することが知られている(Hawking放射)。重力崩壊の結果、gravastarのようなコンパクト天体が生成される場合においても放射が発生するかを調べることは、ブラックホールの代替物を議論する上で重要である。
[2]は、重力崩壊によりgravastarが生成される場合、その内部の宇宙定数によって決まるGibbons-Hawking温度の熱的な放射が発せられることを示した。また、重力崩壊を経ずにgravastarが生成される場合でも同様の放射が発生することが示された[3]。本講演では[3]のレビューを行う。また、[3]と同様の状況において、内部が負の宇宙定数で満たされ、反de Sitter時空で記述される「AdSバブル」が生成される場合において発生する放射について議論する。
[1]P.O. Mazur and E. Mottola, Natl, Acad. Sci. U.S.A. 101, 9545 (2004) [arXiv:gr-qc/0109035]
[2]K. Nakao, K. Okabayashi and T. Harada, Phys. Rev. D 106, 105006 (2022) [arXiv:gr-qc/2203.14519]
[3]K. Nakao, K. Okabayashi and T. Harada, Phys. Rev. D 107, 084036 (2023) [arXiv:gr-qc/2211.13477]

7月03日(金)
16:00〜
オンライン

波場 直之
(大阪公立

強いCP問題、アクシオン、そして非可逆対称性への試み

アクシオンは宇宙論で頻繁に登場する素粒子です。もともとは素粒子物理の難問『強いCP問題』を解くために導入されたもので、今回、それが何なのかを素粒子論の視点から背景も含めて分かりやすく説明します。アクシオンは冷たいダークマターの有力候補でもあり、その生成や観測的手がかり(質量制限・CMB複屈折)についても触れます。最後に、現在とても活発に研究されている「非可逆対称性(NIS)」を取り上げ、まだ勉強中ですが、アクシオンとどう関わるのか、宇宙物理や素粒子物理にどんな新しい発見を期待できそうなのか、行われている研究の現状を中心にお話したいと思います。

7月10日(金)
13:15〜
E108

【夏の学校直前発表会】

 

 

古謝 凌久斗
(大阪公立

光子-重力子相互作用による重力波検出の量子論的定式化

LIGO-Virgo-KAGRA等の重力波観測は、通常マイケルソン干渉計における古典的な光路長変化として解釈される。本発表では、この検出過程を光子と重力子の量子的散乱として体系的に定式化した論文(Hari & Shankaranarayanan, arXiv:2601.20553)をレビューする。相互作用ハミルトニアンから出発し、重力子側をトレースアウトした光子の縮約密度行列を通じて、低周波近似において従来の古典的な位相応答が量子論の枠組みから再導出されることを示す。さらに、Hong-Ou-Mandel干渉計を用いた同時計数確率の変調によるシグナル抽出についても紹介する。

東谷 亮汰
(大阪公立

fine tuningなしの高エネルギー衝突ー束縛系における2枚のshellの多重衝突

Extremal Kerr black holeとextremal Reissner-Nordström black holeの地平面近傍において2つのテスト粒子が衝突する場合、重心系における衝突エネルギーが任意に増大することはすでに示されている[1, 2]。しかし、このテスト粒子を用いたモデルには、2つの課題が存在する。1つ目は、衝突物体の自己重力によるback reactionが考慮されておらず、強重力領域における運動の精度が不十分である点である。2つ目は、このような高エネルギー衝突を実現するためには、粒子の保存量(エネルギーや角運動量、電荷など)や初期位置、初速度の微調整(fine tuning)が必要であるという点である。

 [3]は、これらの課題を解決する系としてoverextremal Reissner-Nordström 時空における2つの、dustでできた無限に薄い球殻(dust shell)の多重衝突モデルを考えた。このモデルでは、Israelのshellモデルを採用することで物体の自己重力によるback reactionを完全に考慮した。さらに、裸の特異点による幾何学的な斥力とshellの自己重力により、2つのshellは系内に束縛され、透過的な衝突を繰り返す。この多重衝突に伴うshellのカオス的な運動により、初期条件にfine tuningを課さずとも、重心エネルギーが自動的に理論的な上限に迫ることを数値的に解析した。本発表では[3]のレビューを行なう。

[1] T. Piran, J. Shaham, and J. Katz, Astrophys. J., 196, 107 (1975).
[2] O. B. Zaslavskii, JETP Lett. 92, 571-574 (2010).
[3] T. Kokubu, Phys. Rev. D 102, 064026 (2020) [arXiv:2007.15177].

7月17日(金)
16:00〜
E108

【夏の学校直前発表会】

 

 

野口 怜
(大阪公立

摂動された連星運動と重力波への影響:観測解析に向けた考察

重力波による観測は近年目まぐるしい発展を遂げ、2030年代には新たなレーザー干渉計であるLISAの打ち上げが予定されるなど、その観測範囲をさらに押し広げようとしている。現在の重力波観測は、ブラックホールを始めとしたコンパクト連星の合体検出を中心に発展してきた。一方で、LISAを始めとする新たな将来観測は、低周波数帯の長時間信号を可能とする。それによって微小な力学的効果が重力波の位相へ蓄積する効果を得られることが期待される。したがって、これまでの解析でその寄与が十分小さいとして無視されてきた物理現象も将来的に検証対象となり得る。

本発表では[1]において提案された、連星系への様々な摂動が重力波の位相差に与える影響を議論するための統一的枠組みをレビューする。ケプラー運動をする連星系は自身が持つ特徴や周辺環境により摂動を受けてその軌道を変化させる。例えば中性子連星の潮汐力相互作用がr^{-6}、磁場を持った中性子連星の磁気双極子相互作用がr^{-3}にそれぞれ比例するポテンシャルとして表される。著者らはこれらを包括する一般的な表式の摂動ポテンシャルとして与えた。さらにポテンシャルから軌道を計算し、放出される重力波の位相を調べることで、摂動が重力波へ与える影響を議論した。

この枠組みは、従来用いられてきた相対論的補正をv/cの展開として扱うポスト・ニュートン展開を置き換えるものではなく、摂動の直接的なポテンシャルへの寄与と重力波位相への影響を対応付ける相補的なものとして位置づけられる。さらに、将来の高精度な重力波観測と接続することで弱重力・低速領域における連星周辺環境や非標準的な相互作用の探査に役立つ可能性がある。
[1] R. Ghosh et al., Phys. Rev. D 113, 084018 (2026)
直木 俊輔
(大阪公立

摂動された連星運動と重力波への影響:観測解析に向けた考察

重力波による観測は近年目まぐるしい発展を遂げ、2030年代には新たなレーザー干渉計であるLISAの打ち上げが予定されるなど、その観測範囲をさらに押し広げようとしている。現在の重力波観測は、ブラックホールを始めとしたコンパクト連星の合体検出を中心に発展してきた。一方で、LISAを始めとする新たな将来観測は、低周波数帯の長時間信号を可能とする。それによって微小な力学的効果が重力波の位相へ蓄積する効果を得られることが期待される。したがって、これまでの解析でその寄与が十分小さいとして無視されてきた物理現象も将来的に検証対象となり得る。

本発表では[1]において提案された、連星系への様々な摂動が重力波の位相差に与える影響を議論するための統一的枠組みをレビューする。ケプラー運動をする連星系は自身が持つ特徴や周辺環境により摂動を受けてその軌道を変化させる。例えば中性子連星の潮汐力相互作用がr^{-6}、磁場を持った中性子連星の磁気双極子相互作用がr^{-3}にそれぞれ比例するポテンシャルとして表される。著者らはこれらを包括する一般的な表式の摂動ポテンシャルとして与えた。さらにポテンシャルから軌道を計算し、放出される重力波の位相を調べることで、摂動が重力波へ与える影響を議論した。

この枠組みは、従来用いられてきた相対論的補正をv/cの展開として扱うポスト・ニュートン展開を置き換えるものではなく、摂動の直接的なポテンシャルへの寄与と重力波位相への影響を対応付ける相補的なものとして位置づけられる。さらに、将来の高精度な重力波観測と接続することで弱重力・低速領域における連星周辺環境や非標準的な相互作用の探査に役立つ可能性がある。
[1] R. Ghosh et al., Phys. Rev. D 113, 084018 (2026)