研究内容

分裂酵母の胞子形成

分裂酵母の胞子は、熱、浸透圧、消化酵素などのストレスに対して栄養細胞より高い耐性をもつ休眠細胞です。
電子顕微鏡でみると、胞子の表面は金平糖のような突起に覆われ、また分厚い細胞壁が存在します(図1)。

私たちは、この胞子がどのように作られ、特徴的な形がどのような意味をもつかを分子遺伝学的 ・分子細胞生物学的アプローチにより解析しています。

胞子の走査型電子顕微鏡図

              図1 分裂酵母の胞子表面の走査型電子顕微鏡図

我々は主に以下の3つの分子メカニズムの解明を目指しています

胞子細胞膜形成の分子メカニズムの解明

胞子壁形成の分子メカニズムの解明

胞子にみられる特徴的な構造とその役割


胞子細胞膜形成の分子メカニズムの解明

栄養源が少なくなると、分裂酵母は胞子形成を開始します。

2つの一倍体細胞が接合して、 二倍体となり、減数分裂と同時に胞子の細胞膜となる「前胞子膜」が形成されます。

減数分裂 により分かれた核を取り囲むように前胞子膜が伸張し、包み込みます。

最後に胞子壁が形成され、 胞子が完成します(図2)。

fig2

                                   図2 分裂酵母の生活環

①胞子細胞膜形成の開始


fig3

                                   図3 前胞子膜形成

前胞子膜形成は、通常の生体膜と異なり、母細胞の細胞質中に新たに合成される点で大変ユニークです。

第二減数分裂になると、高等生物の中心体にあたるスピンドル極体(SPB)の細胞質側に多層化した構造がみられ、 それに接して前胞子膜が形成され始めます(図3)。

私たちは、この形成に関わるSPBタンパク質の取得と解析を通して、 その分子メカニズムの解明を目指しています。

中心体からの膜形成は高等生物の一次繊毛形成にもみられ、普遍的な 生命現象であると考えられます。

②前胞子膜の伸張および閉環


前胞子膜は膜小胞が融合して伸張します(図4)。

膜小胞はどこから来るのか、融合に関わるタンパク質は何なのか、どのようにして閉じるのかの解明を目指しています。

fig4

                         図4 胞子細胞膜の伸張


胞子壁形成の分子メカニズムの解明

胞子は栄養細胞と比べて分厚い細胞壁に覆われています。また、その構成成分も栄養細胞とかなり異なります。

胞子壁形成に関わる遺伝子の取得と解析から、その分子メカニズムの解明を目指しています。



胞子に見られる特徴的な構造とその役割の解

胞子を電子顕微鏡で見ると大変興味深い構造をみることができます。表面は金平糖のような凸凹が観察されます。

さらに詳細な構造をみることが可能な急速凍結レプリカ電子顕微鏡法(大阪市大宮田研究室との共同研究)では、胞子の表面は筋状の構造で覆われています。また、胞子細胞膜の表面は深い溝が多く走っています(図5)。

これらの構造はどのようにして作られるのか、何の意味があるのかについて解析しています。

fig5

                        図5 胞子細胞膜にみられる深い溝