採択プロジェクト
2024年10月15日
- 設立支援
World's Healthiest EldeRlies Enjoy their Time in Osaka project :WHERETO project
プロジェクト名
World's Healthiest EldeRlies Enjoy their Time in Osaka project :WHERETO project
代表者
寺井 秀富(医学研究科)
共創メンバー
学内
氏名 | 所属 |
---|---|
岡﨑 和伸 | 都市健康・スポーツ研究センター |
横山 久代 | 都市健康・スポーツ研究センター |
川端 悠 | 都市健康・スポーツ研究センター |
樋口 由美 | リハビリテーション学研究科 |
上村 一貴 | リハビリテーション学研究科 |
上田 将也 | リハビリテーション学研究科 |
池渕 充彦 | 医学研究科整形外科 |
高橋 真治 | 医学研究科整形外科 |
玉井 孝司 | 医学研究科整形外科 |
岩前 真由 | 医学研究科整形外科 |
中村 博亮 | 医学部附属病院 |
学外
- 大阪府健康医療部長(調整中)
事業内容
2024年度においては、WHERETO project(World’s Healthiest EldeRlies Enjoy their Time in Osaka project)の本格始動に向けた基盤整備が主たる取り組みとなった。プロジェクトは2024年9月に正式に始動し、多分野から専門家を招集した研究チームの形成が完了した。医学、運動学、リハビリテーション学、社会学、情報科学などの多様なバックグラウンドを持つ研究者が参加し、学際的な視点から高齢者の健康寿命延伸に向けた課題に取り組む体制が整えられた。
初動の3ヵ月(9月〜11月)は、研究の全体設計に関する協議が集中的に行われた。WHERETO projectの目的である「自立移動困難状態の予防」を明確に定義したうえで、初回調査(WHERETO1.1)の内容設計を進め、健康状態、生活習慣、運動習慣、フレイルの兆候、主観的認知機能、eヘルスリテラシー、社会参加度といった幅広い視点から高齢者の状態を評価する項目を含めたアンケート票を作成した。同時に、大阪府健康医療部との連携準備を進め、既存の健康管理アプリ「アスマイル」との今後の協業も視野に入れた連携協議が行われた。
2025年2月には、初の大規模住民調査となる「WHERETO1.1」を実施した。大阪府在住の60歳以上の高齢者を中心に、WEBによるアンケート配布を行い、合計5,676人(大阪府民5,156人、山梨・三重各260人)から有効回答を得た。WHERETO1.1では、フレイル(虚弱)状態の有病率、不健康の主観的認識、運動器の不調(関節痛・腰痛等)、身体活動量、服薬状況など、多角的に高齢者の生活実態を把握することができた。特に、回答者の約4人に1人がフレイル状態にあることや、低身体活動者が6割近くに上ることは、今後の具体的な介入設計の重要な根拠となる。
加えて、研究チーム内では、各研究者の専門領域を活かした解析テーマが割り当てられ、健康寿命延伸、運動器疾患の影響、eヘルスリテラシー、行動変容ステージとリスク、地域差比較、転倒・骨折との関連など、多様な切り口からデータ解析が進められている。これらの分析は、2025年3月末を目処に中間報告としてまとめられ、さらに6月末に最終報告が予定されている。
なお、本年度は1stフェーズ全体の中でも特に「研究の準備・土台づくり」に注力した年であり、調査実施体制の確立、行政連携の構築、学際的な議論の場の形成といった重要なマイルストーンを着実に達成した。これにより、次年度以降に予定されている「WHERETO1.2」や、2ndフェーズ以降の介入研究・政策提言に向けた実装的研究への移行が円滑に進むための盤石な基盤が整備されたといえる。
事業の概念図
事業成果
2024年度のWHERETO projectでは、プロジェクト初年度にふさわしい重要な成果を多数達成した。中でも最大の成果は、2025年2月に実施された大規模アンケート調査「WHERETO1.1」により、5,676名の高齢者から得られた詳細なデータである。本調査は、健康状態、フレイル、生活習慣、身体活動量、eヘルスリテラシー、社会参加状況、主観的認知機能といった多岐にわたる項目を含み、健康寿命延伸に向けた課題の抽出にとって極めて有用な基礎資料となった。
特筆すべきは、調査参加者のうち大阪府在住の高齢者が5,156名と、対象地域における代表性を十分に確保できた点である。年齢構成や性別構成にも大きな偏りは見られず、今後の分析結果が大阪府全体の高齢者に適用できる可能性を高めるものである。また、比較対象として調査に協力した三重県・山梨県の高齢者520名のデータも得られており、地域差の分析や健康寿命の地域格差に着目した研究の足がかりも得られた。
WHERETO1.1の結果から、参加者の24.9%が「フレイル状態」に該当し、また21.8%が自身を「不健康」と感じていることが明らかとなった。さらに、不健康の要因としてもっとも多く挙げられたのは関節疾患(18.3%)であり、これが高齢者の自立移動困難状態に大きく関与していることが示唆された。また、身体活動量の評価では、国際的に標準化された質問票を用いて、57.0%が「低身体活動群」と分類されたことは、大阪府における運動不足の実態を客観的に示すものとなった。
他にも、4種類以上の薬剤を定期的に服用する「ポリファーマシー」状態が27.0%に達していたことや、eヘルスリテラシーの低さが社会参加意欲や健康状態に影響している可能性など、数多くの新たな知見が得られた。これらの結果は、今後のフェーズで展開する介入プログラムや行政施策の設計に直結する具体的な示唆を与えるものである。
加えて、研究チーム内での専門性に応じたテーマ分担もスムーズに行われた。運動・フレイル・認知機能・地域比較・eヘルスリテラシー・骨折歴・社会参加など、多角的な視点での分析を進める体制が整い、今後の学術成果(論文、学会発表)に向けた準備が本格化している。
さらに、本年度に得られた成果は、プロジェクトの社会的意義や政策的インパクトを高める材料ともなった。WHERETO1.1の調査設計・実施・分析準備を通じて、大阪府民の健康課題がより明確に可視化され、具体的な介入策の必要性が強調されたことは、今後のフェーズ移行への力強い一歩となった。これらの成果は2025年度以降の研究展開、行政施策との融合、そして最終的な「健康長寿都市・大阪モデル」の構築へと繋がっていくものであり、初年度における成果として大きな意義を持っている。
今後の事業計画
2025年度以降のWHERETO projectは、1stフェーズの後半戦および2ndフェーズへの移行期として極めて重要な局面に入る。2025年度上半期においては、2025年2月に実施されたWHERETO1.1の最終分析結果を6月末までにまとめ、学術的・行政的にも有用なエビデンスとしての活用に向けた報告書・論文化を進める予定である。研究チーム内ではすでに7名の研究者によって専門性に応じたテーマ別の分析が進められており、これらの成果を結集して中間報告(3月末)・最終報告(6月末)を段階的に公開する。
また、WHERETO1.1で得られた知見を踏まえ、次なる調査「WHERETO1.2」の準備が進められる。WHERETO1.2では、大阪府健康医療部が有するアスマイルアプリとの連携により、1日の総歩数や転倒リスク、健康状態、筋力や体組成の簡易測定、フレイル判定などを多面的に評価する新たなクロスセクショナル研究が行われる予定である。これにより、実際の運動量と自立移動困難状態との関連を明らかにし、介入対象の選定および今後の縦断研究設計の基盤を築く。加えて、WHERETO1.1のデータとWHERETO1.2の新規データを統合することにより、生活習慣・身体機能・社会参加・薬剤使用など多層的要因間の相互関係を可視化する分析も行われる。
その後、2026年度以降は2ndフェーズへと移行し、介入研究が本格化する。特に、WHERETO1.1・1.2の解析で明らかとなった高リスク群に対して、地域単位で運動プログラムや栄養指導、社会参加促進プログラムを導入し、効果検証を行う。例えば、地域の体操教室や歩行訓練、アプリを活用した運動・生活習慣管理、eヘルスリテラシー教育などを組み合わせることで、より個別性の高い支援を提供するモデルを構築する。これらの実践的介入は、NPO、医療・介護事業者、スポーツ関連団体、IT企業などとの協働により行われ、成果は段階的に行政部門にも報告され、施策としての反映を目指す。
さらに、2027年度〜2028年度には、2ndフェーズで得られた成果をもとに、大阪府および各市町村と協働して健康寿命延伸・要介護予防のための制度設計に着手する。これは、3rdフェーズにあたる「共創フェーズ」であり、官民連携・科学的根拠に基づく健康施策を共に設計・運営することを目的とする。また、これらの成果を大阪モデルとして国内外に発信し、他地域への横展開や国際的評価を得ることも見据えている。
2025年度は、WHERETOプロジェクト全体の中でも「次への橋渡し」となる中核的な年であり、研究と行政、学術と社会実装の接点を強化することで、科学的知見に基づく実効性ある健康寿命延伸モデルを着実に構築していく予定である。