採択プロジェクト
2024年10月15日
- 設立支援
パンデミックによる社会経済なリスク評価とその対策に関する研究
プロジェクト名
パンデミックによる社会経済なリスク評価とその対策に関する研究
代表者
五石 敬路(大阪国際感染症研究センター/都市経営研究科)
共創メンバー
学内
氏名 | 所属 |
---|---|
菅野 拓 | 文学研究科 |
塩川 悠 | 都市経営研究科附属都市経営研究センター/大阪市(福祉職) |
梶原 秀晃 | 都市経営研究科附属都市経営研究センター/大阪市(福祉職) |
大里 祥 | 都市経営研究科附属都市経営研究センター/大阪市(福祉職) |
学外
氏名 | 所属 |
---|---|
朝野 和典 | 地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所 |
吉村 友美 | 山王訪問看護ステーション(管理者)、訪問看護士・保健師 |
竹内 由香里 | 一般社団法人東住吉区薬剤師会(副会長)、薬剤師 |
川田 和子 | 学校法人西大和学園大和大学 |
湯川 順子 | 高知県公立大学法人高知県立大学 |
河村 信子 | 学校法人佐保会学園奈良佐保短期大学 |
事業内容
本プロジェクト案は、時期と感染程度に紐付けたコロナ禍の経験とデータを収集し、グラフ化された資料に基づく生成AI(RAG)を用い多様なシナリオをシミュレーションを示すことによって、必要な社会資源や官民の対応を提案する。シミュレーションは、感染状況の変化に応じた段階的な対策立案を可能とし、医療崩壊の防止と社会経済活動への影響最小化の両立を図る。多様な専門の知見を結集し、継続的に改善することで、将来のパンデミックへの強靭な対応体制の構築を目指す。
事業の概念図
事業成果
- 本プロジェクトは海外研究者との共同研究としても進めており、日本の他、韓国、米国、オランダ、ノルウェーのオンラインアンケート調査を実施した(サンプル数計14,000)。
- 大阪府内における地区別の感染率、入院率等の基礎データを得るため、オンラインアンケートを実施した(サンプル数10,000)。ここで得られた数値データは、コロナ禍における府民の個人的な経験に関するテキストデータにも紐づいている。
- 大阪府訪問看護ステーション協議会の協力を得て、コロナ禍における健康観察事業に従事した訪問看護師32名に各2時間~3時間程度のインタビューを実施した。
明らかになった点
都道府県および市レベルの感染率・入院率の説明要因として約40の変数を分析した結果、生活困窮や居住環境の劣悪さが最も説明力が高いことが分かった。そこで、本プロジェクトでは、感染リスク、感染による重症化リスクとして、社会経済的な条件に着目して、住民・世帯やコミュニティレベルでの感染リスク評価を行うこととした。その結果として、以下のことが分かってきている。
-
- 日本だけでなく、韓国、米国、オランダ、ノルウェーでも、生活困窮者の重症化リスクが高い。
- 人々との接触の高い人ほど感染リスクが高い。
- 平時より孤立傾向にある住民の重症化リスクが高く、そうした住民は地域的に集中する傾向がある。
参考文献:五石 敬路(2023)「コロナの感染率および死亡率の要因に関する予備的考察」『空間社会地理思想』第26号、131-136頁
今後の事業計画
本事業では、大阪府内における中学校区レベルを対象に、人口属性、所得、医療・介護資源、福祉体制、住宅環境など複数の要素をもとにした社会的脆弱性指標(Social Vulnerability Index:SVI)を開発する。また、パンデミック下で実際に生じた生活上の困難や支援の不足を、感染時期や感染状況と結び付けて定量的・定性的に記録する。
さらに、AI技術を活用し、過去のデータから将来の感染拡大パターンや社会的影響を予測する複数のシナリオを生成し、それに応じた医療資源や福祉サービス等の需要をシミュレートする。こうした成果をもとに、感染段階に応じた段階的な対応計画を設計可能とすることで、地方行政における迅速かつ柔軟な対応力を強化する。
最終的には、科学的根拠に基づいた行動計画と市民への適切な情報発信を両立させることで、地域社会のレジリエンスを高めることを目指す。
本事業の成果が事業化され、地域社会に定着することで、パンデミックへの対応を「事後的・反応的」なものから「事前的・予測的」なものへと転換させることが最終的な目標である。従来、感染拡大後に被害が顕在化してから対策が講じられていた構造が、感染リスクや社会的脆弱性の可視化により、早期段階から地域ごとに最適な対策を講じる「予防型のガバナンス」へと変容することが期待される。
また、AIによるシナリオ分析や資源需要シミュレーションの導入により、自治体の政策形成は勘や経験に依存するのではなく、エビデンスに基づく合理的な意思決定に移行する。これにより、医療・福祉・教育・経済といった分野横断的な連携が促進され、従来の縦割り行政を乗り越える実践的な基盤が形成される。
さらに、社会的弱者への支援の早期化と最適化により、格差の固定化や孤立の深刻化を防ぐ包摂的な地域社会づくりが可能となる。データに基づく市民参加型の危機管理が広がることで、地域のレジリエンスと信頼を高め、将来的な災害・感染症対策のモデルとなる社会変容が期待される。