採択プロジェクト
2025年3月31日
- 設立支援
ワンヘルス時代における医獣連携の薬剤耐性感染症対策ネットワークの構築
プロジェクト名
ワンヘルス時代における医獣連携の薬剤耐性感染症対策ネットワークの構築
代表者
安木 真世(大阪国際感染症研究センター/獣医学研究科)
共創メンバー
学内
氏名 | 所属 |
---|---|
掛屋 弘 | 大阪国際感染症研究センター/医学研究科 |
金子 幸弘 | 大阪国際感染症研究センター/医学研究科 |
山﨑 伸二 | 大阪国際感染症研究センター/獣医学研究科 |
堀江 真行 | 大阪国際感染症研究センター/獣医学研究科 |
嶋田 照雅 | 獣医学研究科/獣医学部附属獣医臨床センター |
長谷川 貴史 | 獣医学研究科/獣医学部附属獣医臨床センター |
鳩谷 晋吾 | 獣医学研究科/獣医学部附属獣医臨床センター |
覺野 重毅 | 医学研究科/医学部附属病院 |
仁木 誠 | 医学部附属病院 |
藤田 明子 | 医学部附属病院 |
学外
氏名 | 所属 |
---|---|
朝野 和典 | 地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所 |
中村 昇太 | 国立大学法人大阪大学微生物病研究所 |
元岡 大祐 | 国立大学法人大阪大学微生物病研究所 |
事業内容
薬剤耐性感染症は深刻な脅威であり、世界規模での対策が喫緊の課題である。日本では2016年の閣僚会議において「薬剤耐性感染症アクションプラン」が策定され、国レベルでの対策が行われている。本感染症は人獣共通感染症であることからヒトだけでなく動物や環境を包括したワンヘルスコンセプトに基づく対策が重要である。大阪公立大学が位置する大阪府は高齢者が多く(感染症に罹患しやすいヒトが多く)、またペット飼育頭数が多い(感染症の媒介者としてヒトだけでなく動物が存在する)特徴をもつ都市であることから、ヒトとペット間で伝播する薬剤耐性菌の情報を医師と獣医師で広く共有することが重要である。
しかし、ペットの薬剤耐性菌に関する知見は限られており、日本におけるサーベイランスは2017年に始まったばかりである。2021年に研究代表者らはイヌ糞便由来薬剤耐性大腸菌の全ゲノムを解析し、データベース上のヒト由来大腸菌と比較することで、一部の大腸菌や耐性遺伝子保有プラスミドがイヌとヒトで伝播しうることを明らかにしたが、種を超えた耐性菌の伝播の実態の全容は未だ明らかではない。更には、薬剤耐性菌対策を講じるにあたりワンヘルスの観点から世界医師会と世界獣医師会、日本医師会と日本獣医師会が協力関係を構築して久しいが、地域社会の実情として両者の相互ネットワーク構築や情報共有は未だ成熟していない。
これら課題点を克服し、効果的な薬剤耐性感染症対策を講ずるために、本事業では(1)薬剤耐性菌情報を創出するための基礎知見の充実、(2)大阪府下の医療従事者ならびに獣医療従事者に対するワンヘルスの概念を取り入れた薬剤耐性感染症教育の充実、(3)薬剤耐性菌情報の共有のための医獣連携ネットワークシステムの構築、に取り組んだ。
事業の概念図
事業成果
基礎知見の充実では、倫理承認された方法を用いて、ペットとその飼い主のペア糞便検体の収集を開始した、収集された15ペアのうち3ペアでペットと飼い主の双方に同種の薬剤耐性菌が検出された。また別の3ペアで飼い主のみに、1ペアでペットのみに耐性菌が検出された。本結果から、薬剤耐性菌の一部の種・型は宿主種を超えて伝播する可能性が示された。今後検体数を増やすとともに、分離された耐性菌の生物学的ならびにゲノム遺伝学的性状を比較することで宿主種を超えた伝播の評価を行い、医療従事者ならびに獣医療従事者と情報共有を行う予定である。
教育の充実では、医学研究科、大阪府獣医師会、獣医学部附属獣医臨床センターが主催するそれぞれの研修会において、医療従事者ならびに獣医療従事者を対象にペット由来薬剤耐性菌のヒトへの伝播の可能性とワンヘルスコンセプトでの薬剤耐性菌対策の重要性について講演を行った。
ネットワークの構築では、医学研究科と獣医学研究科の薬剤耐性菌研究者間において継続的な教育の必要性と医獣連携を利用したネットワーク構築の必要性について協議を行った。さらに大阪府獣医師会ならびに大阪府の感染症対策課所属獣医師と協力関係の構築に関する意見交換を行った。
今後の事業計画
本学は医学、獣医学の両研究科を有する日本で数少ない大学であり、大学の医獣連携を基盤とした相互ネットワークを地域の医師会と獣医師会へ拡充させることで、ワンヘルスコンセプトを取り入れた薬剤耐性菌対策のモデルケースとなることが期待される。医学研究科、獣医学研究科、大阪府医師会、大阪府獣医師会、大阪府市の感染症対策課の関係者とネットワーク構築の協議を進める一方で、基礎知見の創出を通して、医療従事者ならびに獣医療従事者と情報共有を行い、また教育研修会を大阪府医師会と大阪府獣医師会に所属する医療従事者と獣医療従事者を対象としたものへ拡充、継続することで薬剤耐性感染症の理解の深化に繋げる。これら計画を通して成熟した地域ネットワークは、実臨床における大阪府の薬剤耐性菌対策の一助となることが期待される。