採択プロジェクト
2025年3月31日
- 設立支援
SOGIや多文化共生などの人権課題の解決に向けた産学官民の共創
プロジェクト名
SOGIや多文化共生などの人権課題の解決に向けた産学官民の共創
代表者
新ヶ江 章友(人権問題研究センター/都市経営研究科)
共創メンバー
学内
氏名 | 所属 |
---|---|
金澤 真理 | 法学研究科 |
東 優子 | 現代システム科学研究科 |
廣岡 浄進 | 人権問題研究センター/現代システム科学研究科 |
三田 優子 | 現代システム科学研究科 |
松波 めぐみ | アクセシビリティセンター |
宮田 りりぃ | 人権問題研究センター |
学外
- 大阪府府民文化部人権局人権企画課
- 大阪市ダイバーシティ推進室
- 大阪市人権啓発・相談センター
事業内容
本事業では、地域に根ざした都市シンクタンク機能を果たす知の拠点として本学が中心となり、産学官民による恒常的な対話・連携によるSOGI/LGBTQをはじめとする人権課題解決に向けた取り組みを共創するための新たな基盤「人権プラットフォームOMU」の構築に取り組む。
1.文献・資料調査
大阪府下における人権課題への取り組み実態を俯瞰するための文献・資料調査を実施する。まずはSOGIに関する知識・情報の普及啓発やLGBTQのための相談事業などに取り組む組織・団体を企業/行政/大学/市民団体の4つに分類し、それぞれの基本的な情報や活動事例を、所在地/WebサイトおよびSNS/人権課題解決に向けた主な取り組みの3つに分類する。さらに、異なるセクター同士による過去の連携事例についても調査する。
2.関係者へのヒアリング
関係組織・団体との関係構築を図り、対話・連携を促進していくため、その端緒として、SOGI/LGBTQ施策に取り組む行政部署へのヒアリングを実施する。ヒアリングのテーマは、人権課題解決に向けた取り組みを進める上でのニーズであり、とくに産学官民が対話・連携するためのプラットフォームづくりを含めた「大学に期待すること」とする。
3.「人権プラットフォームOMU」の開設
オンライン上での展開として、本学人権問題研究センターのWebサイト内に「人権プラットフォームOMU」を開設するための準備を進める。人権課題解決に向けた産学官民による対話・連携に関する最新情報や過去の取り組みについて参照できるよう、本事業に特化したカテゴリーをトップページに実装していく。
事業の概念図
事業成果
本事業では、地域に根ざした産学官民による恒常的な対話・連携基盤構築の一貫として、インターネットおよび文献による調査や、SOGI/LGBTQ施策に取り組む行政部署へのヒアリングをもとに、人権課題解決に取り組む組織・団体や連携事例などの情報を収集するとともに、効果的なプラットフォーム運営について検討した。さらに、オンライン上での展開として、本学人権問題研究センターのWebサイト内に、本事業に係る情報を参照したり担当者に問い合わせたりするための新たな機能を実装した。
近年、LGBT理解増進法や女性支援新法が法制化され、また障害者差別解消法の改正によって事業者による合理的配慮の提供が義務化されたように、現代社会における潜在的かつ複雑な人権問題の実態が次々と浮かび上がるとともに、それらにどう対応できるのかが注目を集めるようになっている。本事業を進める中で、こうした潜在的かつ複雑な人権問題に対応するためには、SOGI/LGBTQや女性が直面しやすい問題、障害といったそれぞれの人権課題に関する最新知識・情報のアップデートや、異なるセクターによる恒常的な対話・連携を促すためのしくみづくりが重要であると分かった。
大阪地域における産学官民による相互連携の事例としては、「大阪府内地域連携プラットフォーム」や「大阪府人権協会」などによる、人権に関する市民向け講座・フォーラムの開催や情報収集・提供といった取り組みがすでに存在している。ただし、そこではイベント開催のためのスポット的な連携や、行政による委託事業のような一方向的な連携にとどまる傾向が見られ、本事業が構想する人権課題解決に向けた異なるセクターによる恒常的な対話・連携のためのプラットフォーム機能まで担っているわけではない。
他方、大阪地域外にまで目を向けてそのような機能を担っている取り組み事例を探すと、たとえば兵庫県明石市では、任期付フルタイム勤務職員としてLGBTQ+/SOGIE施策担当を採用し、当該領域に特化した市民向け出前講座の提供や、地域の様々な組織・団体と連携してLGBTQフレンドリーなまちづくりのための啓発プロジェクトを展開するなどしている。また、前述した女性支援新法にもとづく各都道府県による支援については、生活困窮や性暴力被害といった様々な困難事例に対応するための幅広い知識を身に着け、女性相談支援センターや女性自立支援施設をはじめとする関連セクターと連携して相談者のニーズに沿うことができる女性支援相談員の養成が対策の鍵になると言われている。
このように、人権課題解決に資する効果的なプラットフォーム運営のためには、フレームワークのようなかたちで産学官民が連携・対話するためのプラットフォームを設置するだけでなく、それぞれの人権問題に対するエキスパートとして最新の知識・情報を備え、また異なるセクターによる恒常的な連携・対話を促すことができる専任コーディネーターの存在が不可欠である。
今後の事業計画
ここでは、前述した実施内容および事業成果を踏まえた今後の事業計画について、(1)ネットワーク構築、(2)Webプロモーション、(3)研修プログラムという3つのキーワードに大別するかたちで説明していく。
第1に、コーディネーターを中心とする、異なるセクターとの恒常的な対話・連携を伴うネットワーク構築である。事業成果に関してすでに述べたとおり、人権課題解決に資する効果的なプラットフォーム運営のためには、産学官民が連携・対話するためのプラットフォームを設置するだけでは不十分であり、各人権問題に精通しながら異なるセクターによる恒常的な対話・連携を促すことができる専任コーディネーターの存在が不可欠である。その具体的な働きとして、たとえば内部向けには、人権問題研究センターやアクセシビリティセンター、ハラスメント相談室といった人権関連の各部署間による連携強化に向けた定例会議やケース検討会の調整などを行い、また外部向けには、各セクターを継続的に訪問し、本事業に関する情報提供や、課題・ニーズの聞き取りを行うことなどが挙げられる。
第2に、人権問題研究センターのWebサイト内に設置した当プラットフォームのコンテンツを中心とする、Webサービスを活用した情報提供である。具体的には、前述した人権課題解決に取り組む各セクターの取り組みを分かりやすく紹介する訪問ブログや、それらのセクターに関する情報を視覚的に把握できるようマッピングしたコンテンツなどを、人権問題研究センターのWebサイトを通して公開していく。さらに、その情報をSNSや本学の人権関係科目内で紹介することによって、特に若年層における認知拡大を図る。
第3に、潜在的かつ複雑な最新の人権課題を取り上げ、各セクターの職員・スタッフがニーズに応じて利用できる研修プログラムの企画・実施である。たとえば、「大阪府人権相談窓口」や「大阪市人権啓発・相談センター」のように、様々な人権課題について市民が相談できる総合的な窓口はすでに存在している。だが、マイクロアグレッションやインターセクショナリティといった概念の浸透とともに、近年よりいっそう注目を集めるようになった潜在的かつ複雑な人権課題にどう対応すればよいかについて、相談事業に携わる各セクターの職員やスタッフが学んだり意見交換したりするための場は乏しく、知の拠点としてそのような学びや意見交換の場を提供していくことが大学に求められている。
以上のように、産学官民の恒常的な対話・連携を伴って人権課題解決を目指していくことは、日本国内においてあまり例がなく、今後も本事業による取り組みを継続していくことは、他の大学や行政などのロールモデルとなる可能性があり、ソーシャルインパクトも大きいと考えられる。