採択プロジェクト

2025年3月31日

  • 設立支援

住民のアクティビティを指標とした日常・非日常リスクに関連する各種施策立案・効果検証手法の確立

プロジェクト名

住民のアクティビティを指標とした日常・非日常リスクに関連する各種施策立案・効果検証手法の確立

代表者

生田 英輔(都市科学・防災研究センター/現代システム科学研究科)

共創メンバー

学内

氏名 所属
杉山 正晃 都市科学・防災研究センター
野村 恭代 都市科学・防災研究センター/現代システム科学研究科
樋口 由美 Well-being共創研究センター/リハビリテーション学研究科
中條 壮大 都市科学・防災研究センター/工学研究科
岡崎 和伸 都市健康・スポーツ研究センター/医学研究科
米澤 剛 都市科学・防災研究センター/工学研究科
吉田 大介 都市科学・防災研究センター/情報学研究科

学外

氏名 所属
藤原 克志 大阪市城東区役所
伊丹 淳 大阪市城東区役所
藤井 由記代 社会医療法人大道会 森之宮病院/健康ステーション「まなぶ」
仲嶌 慎二 社会医療法人大道会 森之宮病院/健康ステーション「まなぶ」
木下 掌悟 社会福祉法人大阪市城東区社会福祉協議会
砂田 京子 社会福祉法人大阪市城東区社会福祉協議会
島井 潔 森之宮地域活動協議会
江ノ口 裕次 中浜地域活動協議会

事業内容

大阪のような成熟都市では、自然災害等の外的リスク要因及び高齢化・格差拡大等の内的リスク要因が複合的に作用している。気候変動や少子高齢化によるリスクの増大に伴い、今後も成熟都市の脆弱性は複雑化すると想定される。成熟都市のリスクに対してレジリエンスを向上させる施策の推進には、前提となる物理的・社会的な指標に基づく小地域単位のリスク評価、リスク評価に基づくKPI設定、エビデンスに基づく施策評価手法等の確立が必須である。そこで、本グループでは大阪市城東区の特性の異なる2地域を対象にリスク包括的なリスク評価を実施したうえで、地域のステークホルダーを対象としたインタビュー調査、各種データの収集と蓄積、活動量計測等に基づき、レジリエンス向上の為の社会実装型産官学民共創研究の基盤整備を試みた。

1.公開データによるコミュニティのリスク・脆弱性評価

大阪市は平成半ばまでの住民流出による空洞化から一転し、中心部では人口増加の傾向が見られる。一方で、全国的な人口動態と同じ少子高齢化も市内の多くの地域で進展しており、財政、福祉、医療面をはじめ、地域コミュニティレベルでも担い手不足等の課題が生じている。このような課題の現状と将来のリスクを把握するために、当該地域の将来推計人口データを分析する。

2.ステークホルダーごとのリスク・脆弱性評価に関するロジックモデル構築

防災をはじめとした各種施策の推進、地域活動の推進に関与するステークホルダーは多様であり、それぞれがリスク・脆弱性と捉える対象・評価は異なると考えらえる。このようなステークホルダーの評価を集約し、ロジックモデルを構築することはステークホルダー間の理解を促進し、効果的な施策推進に貢献できると考え、モデルを試作した。同様に本共創研究に関与する研究者間でもリスクの捉え方等には差異があると考えられ、効果的な共創研究の推進の為には研究者の想定するリスク・脆弱性への意識の分析と整理も試みた。

3.コミュニティ活動と住民のアクティビティ

本研究で対象とする地域では多様なリスク・脆弱性が存在するのに合わせて、地域住民による自主防災活動や地域活動も多岐にわたる。そこで、2で実施するインタビュー調査に加えて、定量的なデータ分析を試みた。具体的には地域活動の担い手のアクティビティを1週間に渡り連続計測し、担い手の生活における地域活動の比重、地域活動の種類ごとのアクティビティの負担などを分析した。

事業の概念図

概念図

事業成果

研究対象地域は大阪市城東区森之宮地域(森之宮1丁目・2丁目)及び隣接する中浜地域(中浜1丁目~3丁目)とした。森之宮地域はURの大規模集合住宅が主体となる地域で、賃貸住宅も多く住民の流動性は高い。中浜地域は比較的古くからの居住地であり、戸建住宅が主体となる地域である。国土交通省基準での「地震時等に著しく危険は密集市街地」に指定されている。

1.公開データによるコミュニティ評価

小地域単位の将来推計人口(2050年まで)、推定要介護数、推定傷病者数を入手し、分析した。将来推計では大きな変動はないもの森之宮地域は大規模集合住宅が主で、2丁目で丁目あたりの人口が著しく多い一方で、中浜地域は多くない。コミュニティの規模感による地域活動への影響が示唆された。

2.ステークホルダーごとのリスクに関するロジックモデル構築

行政機関、医療・福祉機関、地域組織に対してインタビュー調査を実施するとともに、各ステークホルダーが保有するデータの提供を依頼した。

地域活動協議会の視点でのロジックモデルとしては、インプットに人的資源、物的資源、財源、ネットワークがあり、アウトプットに情報共有、見守り活動、防災リーダー研修などがあることが明らかになった。また、初期・中間・長期のアウトカムも明らかにし、地域の課題とともに施策の方向性を明確にすることができた。

行政機関に関しては、集合住宅が主体の地域と既存住宅街での地域活動及び住民活動の差異を反映した施策展開の課題が明らかになった。また、行政機関も地域組織も非日常的な自然災害リスクへの対応が主であり日常的なリスクへの対応は住民個人に委ねられていることがわかった。行政機関とし活用するエビデンスが住民アンケートに偏っており、客観的かつ定量的なエビデンスの有用性も明らかになり、本研究の将来性を確認することができた。さらに医療・福祉関係者への調査から、高齢世帯の福祉課題、健康課題、コミュニティの課題が明らかになった。スマートエイジングシティ構想など先進的な取り組みはあるものの、日常リスクから非日常リスクをシームレスに対応するには至っておらず、本研究の一連の取り組みが課題解決に資する可能性を確認できた。

3.コミュニティ活動と住民のアクティビティ

研究期間内では中浜地域の地域活動協議会役員の活動量計測を実施した。計測期間は1週間として活動量計を装着してもらい、連続計測を行った。特に期間中に感震ブレーカー設置補助事業関連で地域内を巡回する日があった為、地域活動の身体負担を計測できた。計測結果の詳細は分析中である。

今後の事業計画

2024年度の研究によって、非日常・日常リスクへのレジリエンス向上の為の、(1)データに基づく将来推計を含めたコミュニティ評価、(2)ステークホルダーごとのロジックモデル構築、(3)住民のアクティビティ計測を軸とした共創研究の手法の確認と基盤整備を実施することができた。合わせて学外のステークホルダーとの関係構築も進めるとともに、研究領域を横断する組織において研究を進めるにあたって、各研究者のロジックを把握することに努めた。これらの研究成果と研究体制は基盤段階であり、今後は各研究者から収集した情報を基に、対象データを拡大し、分析を進める予定である。また、ステークホルダーへの調査も対象者を拡大し、ステークホルダー毎のロジックモデルの比較から、ロジックの異なる箇所を明らかにし、ステークホルダー間のコミュニケーションを図るツールを開発する。アクティビティに関しては、計測対象者を拡大するとともに、対象者の社会関係資本等との関連も見出し、コミュニティ活動が住民に与える影響を明らかにする。さらにアクティビティの多寡と地域のレジリエンスとの関係を明らかにすることも目的にしている。

これらの一連の研究が目標とするソーシャルインパクトの対象は、(1)行政機関にとっての各種施策の効果検証・EBPM、(2)地域組織にとっての活動の効率化・継続性、(3)住民にとっての非日常・日常リスクのマネジメント、に大別される。(1)行政機関へのソーシャルインパクトが想定され、防災、防犯、子どもや高齢者の見守りへの予算投下の効率化がアウトカムとなり、それにより災害時の人的被害の抑止、地域の防犯性の向上などから安全・安心で住みやすい地域の実現につながる。具体的な施策としては、防災士人材育成等のソフト対策への予算措置が想定され、本研究の対象地域外とはなるが、富田林市や堺市から本研究と同様の文脈での予算措置が実現している。(2)地域組織は担い手不足が大きな課題となっており、本研究の継続によって、地域特性に合わせた活動方針の策定、アクティビティに基づく活動による、健康状態の改善等の効果が想定される。(3)住民にとっては一般的に想定されがちな自然災害のリスクは日常災害のリスクより低いことを示し、個人特性に応じたリスクマネジメントの実施が可能になる。

これらのソーシャルインパクトを想定し、2025年度以降も本研究を継続する計画である。