採択プロジェクト
2026年3月31日
- 加速支援
ひきこもりの実態把握に基づく孤立・孤独支援施策及び事業の提案
プロジェクト名
ひきこもりの実態把握に基づく孤立・孤独支援施策及び事業の提案
代表者
野村 恭代(都市科学・防災研究センター/現代システム科学研究科)
共創メンバー
【学内】
| 氏名 | 所属 |
|---|---|
| 丸田 純平 | 医学研究科 |
| 堀本 真以 | 医学研究科 |
| 黒住 日出夫 | 医学研究科 |
| 熊谷 美香 | 健康科学イノベーションセンター |
| 佐賀 亮介 | 情報学研究科 |
| 生田 英輔 | 都市科学・防災研究センター/現代システム科学研究科 |
| 関山 泰司 | URAセンター |
【学外】
| 氏名 | 所属 |
|---|---|
| 吉田 夏子 | 大阪府地域福祉課 |
| 一岐 真紀 | 大阪府地域福祉課 |
| 井上 美千代 | スクールカウンセラー |
- 大阪府ひきこもり地域支援センター
- 津別町及び津別町社会福祉協議会(担当:立花さおり)
- 大阪府孤独・孤立対策公民連携プラットフォーム参画団体(民間企業・NPO法人・一般社団法人・社会福祉法人等130団体)
活動内容
2025年度には、2024年度に実施した予備調査を踏まえ、ひきこもりの実態把握に関する本調査を実施した。
具体的には(1)学外メンバーである津別町において、ひきこもり及び社会的孤立に関する実態調査(個別訪問調査)を実施、(2)全国のひきこもりの状態にある人、元ひきこもりの状態にあった人、その家族、支援団体へのヒアリングを実施した。これらの調査から、自治体内における世帯の中に長期のひきこもりに相当する人のいる世帯の割合等を把捉した。本調査結果については、単純集計及び簡易分析を実施し、年度内に報告書としてまとめ、公開する予定である。加えて、日本社会学会、日本居住福祉学会等で発表を行うための準備を進めている。なお、同様の調査は2015年度にも実施していることから、今回の調査結果とあわせて経年比較分析を行うことで、これからの動態予測とそれに対応し得る事業の提案へとつなげる。
また、本調査及び個別のヒアリング調査から、ひきこもりに至るプロセス及び社会参加につながるターニングポイントの解析を実施した。
その結果、ひきこもりに至るプロセスは明確なものではない場合が多く、「なんとなく学校に行かなくなった」「いわゆる普通の家族で特に問題はないが、なぜか自室にひきこもるようになった」という理由によるケースが想像以上に多いことが明らかになった。一方、社会参加に至るターニングポイントとしては、「何らかの方法で家族以外の人(社会)とつながるきっかけ」が重要であることが示された。これらの調査結果からは、ひきこもるという生活様式を選択する人にとって、メタバース空間は親和性の高い空間であること、そこでの他者との接点は、実社会とのつながりに向けて一定の有効性があることが示唆され、メタバース空間を利用した場の設定は、ひきこもりを含む社会的孤立状態の打開の可能性を高めることが示された。
また、2024年度から開始している定性的調査による社会的孤立、ひきこもりの状態に至る背景や心理的要因、社会的要因に関する分析を深化させ、社会参加に向けた具体のひきこもり施策と福祉の枠組みを超えた新たな仮想空間を用いた支援事業の内容の精緻化を試みた。その結果、既存のメタバース空間をひきこもり当事者の視点から評価し、改善点を洗い出す必要性を学内外のチーム全員で共有するとともに、評価分析を反映させながら新たな空間を構築するに至った。
上記の知見を基盤とし、2027年度からのスムーズな事業化に向けて、今年度には、デジタルツインに豊富な実績を有する事業者と複数回のミーティングを実施した。その過程のなかで、事業者の有するメタパは、ひきこもりの状態にある人にとっては使いにくいものであることが判明し、使用頻度及び使いやすさを分析軸として、プラットフォームの再検証を行い、本研究所を設置するプラットフォームを決定し、研究所の構築を進めている。

野村 恭代教授
活動成果
2025年度に実施した研究事業から得られた成果は、下記のとおりである。
1.ひきこもりの実態把握及びターニングポイントの解明
2025年度には、共創メンバーである津別町と共同でひきこもり及び社会的孤立に関する実態調査を実施し、世帯の中に長期のひきこもりに相当する人の割合は2.0%であることを把捉した。また、ひきこもりの状態にあった人を対象にヒアリング調査を実施した。その結果、ひきこもりに至るプロセスは明確なものではないこと、社会参加に至るターニングポイントとしては、「何らかの方法で家族以外の人(社会)とつながるきっかけ」が重要であることが示された。さらに、深刻な課題として、本人、家族ともに「自己評価がきわめて低い」状態であることが明らかになった。これらの研究結果からは、(1)自己評価の低い状態で支援につなげようとしても、社会へのハードルは高いままであり支援効果は期待できないこと、(2)メタバース空間での他者との接点は、実社会とのつながりに向けて一定の有効性があること、などが課題として浮かび上がった。そのため、まずは本人及び家族の自己評価を高めることが重要であり、ひきこもりの状態であったとしても「役割」を担うことによって、社会的孤立状態の打開の可能性が高まることが示唆された。
2.新しい「価値」を生む出す学術知の活用
多分野から構成される研究チームにより得られた研究の知見を、新たな価値観の創造につなげるために、「インドアライフ研究所」設立という具体の事業をひとつの結論として導き出した。本研究所は、日本のひきこもり支援及びひきこもりの状態評価におけるパラダイムシフトを促す可能性を秘めている。それは、従来の受動的な「援助」モデルから、当事者が主体となる能動的な「エンパワメントモデル」への転換である。加えて、自治体の既存のメタバースモデルが「つながりの創出」に主眼を置くのに対し、本研究所はそこから一歩踏み込み、「つながる」と「稼ぐ」と「学ぶ」をひとつのサイクルの中で実現する。これにより、単発の支援ではなく、当事者が自らの力で人生を再設計していくための、長期的な支援になると考えている。
3.インドアライフ研究所の設計及び構築
2026年度からの開所に向けて、インドアライフ研究所をメタバース空間内(cluster)に構築している。同時に、広く研究所を周知するとともに、研究員登録等を行えるよう研究所のホームページを立ち上げ、2026年度からスムーズに研究所をオープンにできるよう、研究所及びホームページの構築を2025年度内に完成させ、自治体を通じて様々な場面での周知及び研究員登録に向けたアナウンスを開始している。
概念図


今後の活動計画
2027年度からの事業化を目指し、2026年度には下記にもとづき研究事業を進める。
1.インドアライフ研究所の周知
事業化のためには安定した収益が求められることから、まずは広く社会に研究所を周知する必要がある。2026年度は、広告代理店大手の博報堂と協働し、有効な広告・宣伝のあり方を検証する。具体的には、ホームページ閲覧者数及び特性の分析、SNS(X、Facebook、TikTok、Instagram等)の利活用、Vチューバーの登用などを実施する方向で準備を進めている。
2.メタバース活用に関するレクチャー
2025年度に実施した調査からは、「メタバースについてはわからない、でも活用してみたい」という自治体、団体等は決して少なくないという実情を把握した。そこで、大阪府の事業としてすでに実施しているプラットフォーム事業及び、ひきこもり支援に携わる人材養成事業と連携し、メタバースの活用によるひきこもり支援に関する講座を実施する。加速支援期間中は参加費を無料とするが、事業化したのちには有料講座として設定する。対象はプラットフォーム参画団体(130団体)を想定しているが、その他にも府内の企業、社会福祉団体、NPO等に広く周知を行う。なお、事業化する際には、メタバース上の広告収入が一定の事業資金となることから、2026年度にはインドアライフ研究所での企業等の広告導入の呼びかけを行う。
3.メタバースコミュニケーター養成
利用者相互のコミュニケーションの促進や困りごとへの対応等を、メタバース上で行うことのできる「メタバースコミュニケーター」を養成する。事業化にあたっては、このコミュニケーターの配置が必須となることから、事業化の可能性のある団体については養成講座に参加するよう周知する。
上記の研究事業により、2027年度から事業化を達成した場合、その対象者は日本国内に約146万人存在する。ひきこもり状態にある人々が直面する、社会的・経済的孤立という深刻な課題への新たな支援を提供する「インドアライフ研究所」の中核的価値は、ひきこもり当事者の「生活体験」そのものを専門的知見として捉え直し、価値化する点にあり、これまでの社会の価値観を根底から覆すものである。
また、本研究所は、当事者が受動的な支援対象者から能動的な専門家(研究員)へと役割転換を遂げ、自身の経験を活かして経済的自立と社会的つながりを回復していくための場と機能を構築するものである。単に「ひきこもり」という現象がなくなることを目的としたものではなく、病気や傷つき体験等で誰しもひきこもりになる時期があったり、ひきこもることで自分を守る時期があると仮定して、そこから再び社会に出るきっかけやタイミングを逸していることに対して、身近でハードルの低いメタバース空間にそのきっかけがあることを示すこと自体に社会的意義があると考えている。