採択プロジェクト
2026年3月31日
- 設立支援
光触媒を用いたマクロ感染症制御および都市衛生環境改善に向けた研究
プロジェクト名
光触媒を用いたマクロ感染症制御および都市衛生環境改善に向けた研究
代表者
秋吉 優史(大阪国際感染症研究センター/工学研究科)
共創メンバー
【学内】
| 氏名 | 所属 |
|---|---|
| 掛屋 弘 | 大阪国際感染症研究センター/医学研究科 |
| 綿野 哲 | 大阪国際感染症研究センター/工学研究科 |
| 朝田 良子 | 大阪国際感染症研究センター/工学研究科 |
| 古田 雅一 | 大阪国際感染症研究センター/獣医学研究科 |
| 松浦 法雄 | 工学研究科(客員研究員) |
【学外】
| 氏名 | 所属 |
|---|---|
| 大越 俊治 | 大阪ハイプロテイン協業組合 |
| 上杉 さやか | シャープ株式会社 |
| 山田 宏二 | ウシオ電機株式会社 |
| 渡部 喜樹 | ダイワ株式会社 |
| 落合 剛 | 地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC) |
活動内容
1. 小型飛沫除去装置による感染症対策効果の評価
- 実際に微生物を噴霧するため480Lステンレスチャンバーの製作を行った。コリゾンネブライザーの導入と既存のコンプレッサーからの配管接続を行い、昨年度購入済みのインピンジャーと定流量ポンプの配管接続を完了、USB電源ポートや殺菌灯の設置を完了し、システムとして使用可能な状態にした。
- 飛沫中に含有される物質の捕集量を定量的に評価するため、自然放射性物質(NORM)であるトリウム(Th-232)含有マントルピースから放出されるラドン(Rn-220)ガスの娘核種であり、11時間程度の半減期で消滅するPb/Bi-212を用いた評価技術の開発を行った。
2. 大阪市西成区の臭気環境改善など都市衛生環境改善
(1)これまでのパッシブインジケーターによる測定結果などから、あいりん地区で問題となっている地区のアンモニア濃度は0.1ppmに近い程度と見積もられ、1ppm程度から測定可能な市販の一般的なアンモニアセンサーや、ニオイセンサーでは測定出来無いことが明らかとなった。人間に感じられるアンモニア濃度の閾値は当初の文献調査や専門家の意見では1.5ppm程度とされていたが、0.1ppm程度としている情報源もあり、後者が正しいようである。このため、0.03ppmに4日間曝露することで変色するパッシブインジケーターによる測定を引き続き行うと共に、測定日数を変えることで濃度の違いを捉えた。実際の環境改善のための対策として、光触媒をこれまで使用してきた単純なスラリーから高圧洗浄にも耐えうるシャープ社の試作品に変えて塗布した。その結果体感的には改善したがインジケーターの表示には顕著な変化が見られなかったため、尿が最終的に濃縮される側溝の水が滞留する部分に焦点を置き、クリーニング・乾燥作業後に光触媒を塗布し、パッシブインジケーターによる測定を行った。一方で、コンテナ中での尿素からのアンモニア生成評価技術開発としてアンモニアセンサー(MiCS-5524)を多チャンネルのADコンバーターに接続して評価を行った。
(2)真菌に対する光触媒の効果については、実験室でのシャーレ中での殺菌、静菌効果について検証を行った。
(3)ワイドバンドギャップ半導体と、遠紫外光照射装置の組み合わせによる高性能光触媒装置の開発、委託研究を行ったKISTECにおいて PFASの分解性能評価を行った。

活動成果
1. 小型飛沫除去装置による感染症対策効果の評価
密閉コンテナ中にマントルピースと共に捕集機に様々な種類のフィルターを装着して設置し、Pb/Bi-212の効率的な捕集条件を明らかとすると共に、崩壊挙動の定量的評価から捕集効率向上が最終的な捕集量上限を支配する事も明らかにした。自然放射線源を用いたトレーサー技術の開発は、今後の室内換気環境のシミュレーションと相補的な定量的評価技術の開発として有益である。これらの成果は日本放射線安全管理学会第24回学術大会においての発表、第43回空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会予稿論文投稿を行った。飛沫除去の概念についてはクリーンテクノロジー誌及び空気清浄―コンタミネーションコントロール誌の依頼記事にて周知を行い、小型飛沫除去装置の設置状況による飛沫除去性能の変化を第42回空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会及び第42回エアロゾル科学・技術研究討論会に於いて発表した。
2. 大阪市西成区の臭気環境改善など都市衛生環境改善
- 西成区あいりん地域南海線ガード下のアンモニア濃度が高いエリアに於いて尿が濃縮される側溝の水が滞留する部分に焦点を置き、クリーニング・乾燥作業後に光触媒を塗布することで、劇的なアンモニア濃度の低下を評価することが出来た。これにより、光触媒が実際の屋外環境中でアンモニア濃度を低減可能であることが実証され、本学の医獣工連携国際シンポジウムに於いて発表した。密閉コンテナ中での尿素からのアンモニア生成評価技術の開発では、本年度購入したアンモニアセンサー(MiCS-5524)の信頼性が極めて低い事が明らかとなったため別のセンサーを調査し、電気化学式センサーMQ137を導入した。
- 真菌に対する光触媒の効果については、フィルムを用いて光触媒コーティング層に少量の菌を密着させた後にフィルムを培地上に移して培養しても繁殖は見られず殺菌(滅菌)効果が見られたが、条件によっては滅菌しきれず、光触媒は表面反応であるため対象となる菌がコーティング層に密着している必要があることを明らかにした。
- ワイドバンドギャップ半導体と、遠紫外光照射装置の組み合わせによる高性能光触媒装置の開発
ジルコニアナノスラリーを塗布したガラス板に222nm遠紫外光照射を行うことで従来の光触媒の限界を超える高いホルムアルデヒド分解効果を示す結果に関して、既に特許出願を行っているため日本光学会誌「光学」に論文を投稿し、掲載された。なお、PFASの分解性能評価については未公開情報であり、特許申請も予定しているため公開を差し控える。
秋吉 優史准教授
概念図

今後の活動計画
1. 小型飛沫除去装置による感染症対策効果の評価
- 実際に微生物を噴霧可能なチャンバーの製作が完了したため、今後、BSL1の実験室に移動した上でバクテリオファージQβなどの微生物噴霧、捕集実験を行う。これにより飛沫除去装置の性能評価が可能となると共に、光触媒を塗布しないフィルターによる微生物の捕集性能評価も可能となり、実際の生活環境に於ける微生物のサンプリングが容易に行える可能性がある。さらに、それによって実際の生活環境に小型飛沫除去装置を設置することによる効果判定を大規模に実施可能となるため、2026年度中に評価技術開発を進める。
- 今後コンテナ中に入れるマントルピース量を増やすことで、液滴として噴霧する水中の放射能量を十分高められる見通しがついた。この成果を用いて2026年度中にフィルターメッシュ径の違いなどによる空間からの病原体捕集性能の違いについて定量的な評価を行う。2027年度以降、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)等の外部資金を獲得することで小型飛沫除去装置による感染症対策効果の評価を病室や介護現場などの実空間で実施する。具体的には、小型飛沫除去装置導入前後の室内のウイルス量を2026年度までに開発した小型捕集装置を用いてサンプリング、PCR等で定量評価し、室内空間のウイルス量低減の効果を判定すると共に、高度微生物教育・研究センターに於ける動物実験により実際の感染制御効果を評価する。
2. 大阪市西成区の臭気環境改善など都市衛生環境改善
- 光触媒塗布により劇的にアンモニア濃度の低下を実現可能なことを実証したため、今後同様の問題に直面する地域課題に対処すると共に、塗布量や照度などの条件の違いによる効果判定を行いトイレの悪臭対策技術として完成させることで、大きな経済効果を生むことが予想される。2026年度中に本学と連携協定を結ぶOsaka Metroなどの協力によりフィールドワークを進めると共に、本学の医学研究科 臨床医科学専攻 池渕 充彦講師と協働することで、介護、リハビリテーションの現場に於ける臭気対策技術の開発を行う。
- 真菌に対する光触媒の効果については、実際の環境中の条件の模擬を今後検討するとともに、実際のフィールドでの試験をOsaka Metroなどと共に検討する。
- PFOA分解に関しては特許の取得を進めると共に、国際的主要論文への掲載、A-STEP(研究成果最適展開支援プログラム)等を通じてPFOAを含んだPFAS処理システムとしての事業化を目指す。