採択プロジェクト
2026年3月31日
- 設立支援
天然物を活用する「健康寿命延伸」や「食品ロス解消」がかなえるwell-beingな社会の構築
プロジェクト名
天然物を活用する「健康寿命延伸」や「食品ロス解消」がかなえるwell-beingな社会の構築
代表者
藤田 憲一(理学研究科)
共創メンバー
【学内】
| 氏名 | 所属 |
|---|---|
| 荻田 亮 | 国際基幹教育機構/研究推進機構 都市健康・スポーツ研究センター |
| 臼杵 克之助 | 理学研究科 |
| 水原 尚子 | 理学研究科 |
| 横山 智哉子 | 工学研究科 |
【学外】
| 氏名 | 所属 |
|---|---|
| 三嶋 隆 | 一般財団法人 日本食品分析センター |
| 松元 一頼 | 奥野製薬工業株式会社 |
| 村田 和加惠 | 独立行政法人国立高等専門学校機構 米子工業高等専門学校 |
活動内容
本支援事業では、天然物由来成分をベースとする「ヒトの健康寿命を延伸するサプリメント」や「食品ロスを減らすための日持ち向上剤」の開発を最終目標としている。下記に事業全体計画を列記する。
-
- 天然物の準備
- スクリーニング
- ヒトの健康寿命を延伸する新規サプリメント
- ヒトの健康寿命を延伸する新規炎症性サイトカイン抑制剤
- 食品ロスを減らす新規日持ち向上剤
- 天然物の単離・構造決定
- 炎症性サイトカイン抑制剤誘導体の合成
- 副作用・作用機序の解析
- 事業化
上記の6つの課題は基本的に上から順番にシークエンスで実施する予定であるが、今年度実施したものを下記に列記した。
「1.天然物の準備」 事業開始直後に準備済み。
「2.スクリーニング(1)と(3)」の実験。
「4.誘導体の合成」 「2.スクリーニング(2)」で用いる誘導体の化学合成。
「5.副作用・作用機序の解析」 「2.スクリーニング(3)」については十分な成果が上がったので「5.副作用・作用機序の解析」も行った。
今年度実行した項目について詳細を下記に記載する。
2. スクリーニング(1)と(3)
- (1)ヒトの健康寿命を延伸する新規サプリメントの開発について、まず、カキ由来ポリフェノール、カキタンニンを含むエキスを用いてアッセイを行った。その結果、本エキスはヒト線維芽細胞に対して弱い寿命延伸効果を発揮したが、延伸効果の検出に時間がかかりすぎた(最大で7日)ため短期間かつ簡便に検出できるアッセイ系の確立へ向けて検討を行っている。
- (3)食品原料での汚染が特に問題となっている枯草菌の芽胞(胞子)に対する抑制効果を中心として天然物由来成分の候補を検討した。枯草菌の芽胞は地球上のどこにでも存在し、100℃の熱処理でも不活性化することができない。食品工場の現場で処理できる65℃の中温条件で、植物由来成分と組み合わせることによって芽胞を不活性化できるか、スクリーニングを行い、その作用機構についても解析を行った。
4. 誘導体の合成
放線菌由来のリード化合物であるアンチマイシン誘導体を化学合成した。サイトカイン抑制効果に関するアッセイを予定している12個の誘導体のうち、7個を合成できた。キラル中心の立体配置(右手・左手みたいに“向き”が決まっている)が重要なため、合成過程で立体配置が入れ替わるのを抑える条件検討に時間を要した。
昨年9月に情報交換会を対面で1回開催し、事業の現況と今後の活動計画について情報を共有した。
参加者は以下の通り。
藤田 憲一、荻田 亮、臼杵 克之助、三嶋 隆、鈴木 健太(奥野製薬工業、松元 一頼の代理)

藤田 憲一教授
活動成果
1. ヒトの健康寿命を延伸する新規サプリメントの開発
酵母で増殖促進効果が認められたカキタンニンは100μg/mlという低濃度でヒト線維芽細胞に対して弱い寿命延伸効果を発揮することが判明した。その効果は、顕微鏡を用いる形態観察ではカキタンニンの共存下で上記細胞を7日間培養した後に認められた。形態観察ではデータの数値が難しいため、培養細胞の老化を簡便かつ迅速な方法で検出するβ-Galactosidase Stainingキットを用いて判定したところ、3日間のアッセイでその効果を判定できる可能性が示唆された。
2. ヒトの健康寿命を延伸する炎症性サイトカイン抑制剤の開発
現在、効果が期待される天然物アンチマイシン誘導体の合成を進めている。アッセイに必要は12種類の誘導体のうち、7つを化学合成した。
3. 食品ロスを減らす新規日持ち向上剤の開発
芽胞(胞子)形成細菌の食品への混入は、食中毒や食品腐敗といった食品汚染を引き起こす原因となる。栄養飢餓状態から形成が誘導される芽胞は、高温、乾燥、放射線、殺菌剤に対して強力な耐性を有している。例えば、コロナウィルスは70%エタノールで不活性化するが、芽胞形成細菌のうち、枯草菌の芽胞は70%エタノールや100℃の熱処理でも不活性化が困難なため、特に食品製造工場でその対策が課題となっている。今回、植物由来成分であるマンゴスチン果皮エキスと熱処理の併用が本菌の芽胞に対して、不活化効果を発揮するか検証した。さらに、その作用機序の探索も試みた。その結果、食品工場の現場で使用できる65℃の中温条件と低濃度(0.4 mg/ml)の本エキスの処理を組み合わせることによって、24時間処理後に枯草菌芽胞の数を1/10000まで減らせることが分かった。次いで、その作用機構について解析した。併用処理が、芽胞の膜に与える影響を、細胞膜不透過性のDNA結合蛍光剤染色法を用いて、また、その表層構造に与える影響を、走査型電子顕微鏡観察によって検証した。その結果、併用処理によって芽胞の細胞膜障害が引き起こされ、その表層構造にも損傷が認められたことから、芽胞が物理的に破壊された可能性が示唆された。上記のように、食品工場で汚染が問題となっている枯草菌芽胞に対して、マンゴスチン果皮エキスを適用することにより、工場で実施が可能な65℃という中温で処理した結果、効果的に芽胞の不活性化を達成できたことから、今後、芽胞不活性化を目的とする食品素材の日持ち向上剤の製品化を目指して、現在、特許の申請を検討中である。
概念図

今後の活動計画
1.ヒトの健康寿命を延伸する新規サプリメント
カキタンニン以外で延伸効果が期待される植物由来成分として、カキタンニンと同じく酵母の寿命延伸効果が本研究室で見いだされた梨幼果エキスに加えて、ポリフェノール含有量が高い別の植物由来エキスを有力な候補としてノミネートしている。現在、延伸効果の判定に時間がかかっているが、アッセイ系を再検討することによって、植物由来の多数のサンプル間での効果を比較・検討して、その中で延伸効果の高いエキスを選択する予定である(担当は米子高専・村田、都市健康スポーツ・荻田および工学研究科・横山)。本アッセイは、ヒト培養細胞を用いて行う実験であるため、今後、マウスなど動物を用いる実験により、その効果を検証する予定である。(動物実験の担当:日本食品分析センター)。
2. ヒトの健康寿命を延伸する新規炎症性サイトカイン抑制剤
サイトカイン抑制効果に関するアッセイに必要な12個の誘導体のうち、まだ合成できていない5個の取得を試みる。(合成は理学研究科・臼杵担当)今後、本アッセイに用いる誘導体の数がそろえば、動物培養細胞を用いてサイトカイン抑制効果を検証する(サイトカインのアッセイ担当:日本食品分析センター)。誘導体間で抑制が高かった候補については、その後、マウスなどを用いる動物実験により、副作用も含めて、その効果を検証する予定である。(動物実験の担当:日本食品分析センター)。
3. 食品ロスを減らす新規日持ち向上剤
食品工場の現場で問題となっている枯草菌の芽胞を効率よく抑える植物由来成分マンゴスチンエキスを、今年度、見いだした。ただし、事業化に際して問題点が一つある。芽胞の不活性化に24時間もかかっており、食品工場で処理した場合、処理時間の長さが生産ラインのネックとなる。今後、処理温度を80℃から95℃に上昇させ、どこまで処理時間が短縮できるかを検討、さらには、コストダウンのため、エキスの処理濃度をどの程度まで下げられるのか検討を行う。(微生物を用いるアッセイの担当:理学研究科・藤田)その後、食品の原材料を用いてアッセイを行い、芽胞の不活性化効果が認められた場合は、今後2年以内に事業化を達成できると期待している。(食品を用いるアッセイの担当:奥野製薬工業)