採択プロジェクト

2026年3月31日

  • 設立支援

海の再生可能エネルギー事業化支援グループの設立

プロジェクト名

海の再生可能エネルギー事業化支援グループの設立

代表者

中條 壮大(工学研究科)

共創メンバー

【学内】

氏名 所属
重松 孝昌 副学長
鍋島 美奈子 工学研究科
杉本 賢二 工学研究科
脇本 辰郎 工学研究科

【学外】

氏名 所属
加島 寛章 国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所
東 謙治 株式会社ダ・ビンチ
河瀬 理貴 国立大学法人 東京科学大学
吉岡 真也 学校法人 大阪電気通信大学

活動内容

気候変動に影響を及ぼすCO2などのGHG排出量規制が国際的に求められている。風力発電や波力発電、太陽光発電などGHGを排出しない再生可能エネルギーの普及は急務であるが、日本は地理的に台風の影響を強く受けるため設計外力の大きさと頻度の評価が中長期的なリスク評価において重要になる。しかしながら、台風のリスク評価が十分に可能なほどに観測資料は多くないため、これまでは極値統計解析から外挿により外力が推定されてきた。これでは起こりうる台風の強風や高波・高潮のリスクを十分に評価できているとはいえない。また湾内においては恒常的に高波からエネルギーを獲得できるほど強い風が吹くわけではなく、強い風が吹いた時には発電システム自体が被災するリスクを抱えている。このため、常時の低波浪からエネルギーを獲得・蓄積する技術も必要である。

活動内容を発表する中條准教授

中條 壮大准教授

このような現状から、(1)日本に最適な海の再生可能エネルギーの設計支援環境を整備することに加えて、(2)長期的な発電システムの被災リスク評価と、(3)リアルタイム被災予見システムを構築するとともに、それらを活用して(4)海の再エネの事業化をサポートする組織の構築を目的とする。

1.海の再生可能エネルギーの設計支援環境の整備

グループ立ち上げに際し水車型発電と振り子・圧縮空気式発電のシステム開発を例に応用例を示す。大阪公立大学の有する大規模造波装置は実スケールに近い条件で実験が可能であり優位性がある。また気液2相流解析コードを併用した流動の全体像を踏まえた最適設計が可能な環境を提案する。

2.長期的な発電システムの被災リスク評価

大アンサンブル気候モデルや独自に開発している確率台風モデルの出力結果を活用し、台風災害の外力推定や気候変動影響下の発電リスクへの影響評価を実施する。台風情報から強風・高波・高潮などの災害評価に必要な要素モデルを構築し、生起頻度まで含めて評価する。

3.リアルタイム被災予見システム

発電システム稼働時に台風の襲来が予見される場合に、被災リスクを確率的に評価するシステムを構築する。気象庁などから開示される台風予測情報を取得し、過去の予測の不確実性評価に基づき起こりうる多数の台風シナリオに対し短時間に外力予測を確率評価するシステムを提示する。

4.海の再エネ事業化サポート組織の構築

研究グループの活動は様々にアウトリーチされ、洋上風力発電や潮汐発電、沿岸メガソーラーの事業者・研究者とも交流を広げ、横断的に海の再エネ事業化や管理をサポートする体制を構築する。

活動成果

海の再生可能エネルギーの設計支援グループ設立事業の4つの目標について以下に進捗と成果をまとめる。

1.海の再生可能エネルギーの設計支援環境の整備

小型水槽実験と境界要素法の数値解析の両面から,水車型発電の実効的な発電量評価を行った。新形式の波力発電では100m造波水槽を用いた実証実験に取り組んだ。振り子・圧縮空気式発電システムについては振り子の挙動部を滑らかに動力獲得へとつなげる蛇腹機構や受圧部の設計と100m造波水槽による実証実験に取り組んだ。またOpenFOAMを用いた気液境界流れ解析コードを構築し、越流量解析の精度検証やスーパーコンピュータを用いた精細な計算環境で風波生成過程の再現検証に取り組んだ。

2.長期的な発電システムの被災リスク評価

将来気候場の台風リスクを確率台風モデルを用いて評価した。最大可能強度MPIを気候値から求め、物理的根拠のある台風発達の上限設定が可能となった。台風情報から強風・高潮・高波・豪雨の災害を高速に予測する要素モデルの開発を行った。強風予測では従来の経験的台風モデルを強大台風に適用するためのパラメータ調整と、陸上地形による減衰や風向変化作用を深層学習により補正する手法を開発し、より実用的な風速場の評価が可能となった。高潮・高波災害については簡易波浪推算モデルの精度検証と和歌山沿岸を対象とした越波浸水災害評価へと適用し、これまでにない多数のシナリオから高波越流の頻度解析を行った。豪雨災害についても経験的確率モデルを構築し、全国的な土砂災害リスク評価を行っている。

3.リアルタイム被災予見システム

気象庁とJTWCのリアルタイム台風予報データの自動取得システムを構築し、リアルタイム台風災害予測の準備を行った。また過去の台風予報情報から予報誤差の確率モデルを作成し、2018年21号台風を事例として日本接近時に起こり得た台風シナリオを多数生成した。この結果を被害軽減効用に関する数理モデルに受け渡し、台風接近時の交通・物流最適化の研究に関する検討へと展開中である。

4.海の再エネ事業化サポート組織の構築

海の再エネ事業化クラブの結成としてキックオフ研究集会を行い、8題の講演と総合討議を行った。電力会社や建設会社には学外共同研究者を通じて広報をいただいている。2件の波力発電実験は民間企業との共同研究である。複数の大学の研究者とは隔月の頻度で研究紹介の場を設けている。他大学との民間助成は継続採択となった。民間研究所の波浪深層学習の専門家と連絡を取り、処理の高速化に関するご協力をいただいた。関西を中心に若手技術者が交流を図る研究会に参加し、交流を進めている。土木学会主催の水工学夏季研修会では台風災害リスク評価に関する講演依頼を受けた。

 

関連する研究成果の公表は論文4編(うち2編は査読継続中)、研究発表は国内会議4件、国際会議2件となっており、この後も継続が予定されている。

概念図

概念図

概念図

今後の活動計画

今後の計画および課題として、4つの目標ごとにまとめる。

1. 設計支援環境の整備

造波水槽を用いた波力発電システムの開発は設備維持で継続可能である。全国でも数少ない共同利用の大型施設として共同研究の申請が続くよう成果公表に努める。波力発電システム開発は追加の実験条件や最適形状の決定など今後も引き続き共同研究を行う。数値解析設計補助ツールの開発は、波力発電機構や効率の検討を増やす。一方で強風時の越波評価など挑戦的課題は精細な数値モデルを用いて引き続き検討を進める。

2. 長期的な被災リスク評価

確率台風モデルおよび災害要素モデルは原型を元に共同研究に対応可能である。ただし気候変動予測の更新に合わせて継続的検討も必要である。要素モデルのうち深層学習補正による精度改善が見込まれた強風モデルを軸に大サンプルの台風災害リスク評価を実施していく。昨年度の検証は台風付近の領域に限定されたため、より広域の解析データで適用範囲の拡充を目指す。現状の波浪モデルは外洋となる太平洋側の洋上風力等の評価には活用できるが、浅場での波浪減衰や陸地による遮蔽効果が正しく反映されておらず、沿岸部や日本海側の評価に向けて改良を進める。

3. リアルタイム被災予見システム

過去の予報不確実性を反映した確率モデルを用いた物流システム分布の最適化に関する研究は2026年度も外部資金を得て継続される。共同研究者とはエネルギー施設におよぼすリスク評価に対し数理モデルを拡張し、エネルギー需要制御方策につながる知見を得ていきたい。また継続的な資金獲得が前提となるが、気象庁からのリアルタイムデータ配信を受けた台風災害予測結果の提供の準備も進めたい。

4. サポート組織の構築

人的ネットワークの構築が最も苦慮する部分であるが、研究者間のつながりは十分にあり、特にリスク管理に関心が高い発電事業者や行政との連携を進めたく、学会や学外連携先を通じ広報を行っている。関西を中心に若手技術者が交流を図る既存の組織を活用し、アウトリーチに努めたい。現在のところ研究費付きの共同研究の申し入れは学内メンバーが受けている1件であり、今後の事業化においては継続的な広報と成果発表が必要となっている。予定の達成時期は2027年度末であり、それまでに海の再エネ事業化クラブの存在について広く浸透を図る。再生可能エネルギーへの期待は大きく、その一端を海域・沿岸域を活用した発電システムの開発および支援を行い社会的貢献を目指す。常時波浪の小さな海域でも効率的にエネルギーを獲得でき、想定外力を超える高波浪時に備えた持続可能なシステムを構築する支援を行う組織を目指す。長期的な被災リスク評価により発電システムの適地選定が達成され、台風襲来時にも確率的に被災アラートを提示することで、安定した電力供給という社会貢献が達成できる。また対象は波力発電のみでなく、洋上風力、潮汐、太陽光といった災害に脆弱な再エネシステム全体に貢献可能な技術、風水害対策に応用可能な要素技術を含む。