2016年度JKA研究助成

補助事業番号  28-108

補助事業名 平成28年度 

コンプライアント機構を用いたモーフィング翼の設計法構築に関する研究 補助事業

1 研究の概要

航空機主翼の形状をシームレスに変形させる「モーフィング翼」をコンプライアント機構で実現するために必要な設計法を最適設計技術を用いて構築することを目的として,翼としての空気力学性能が最適となる翼のモーフィング(変形)形状を求める形状最適設計と,その最適な変形形状を実現するための内部構造であるコンプライアント機構の最適形態を構造力学の立場から求める最適設計の二つの研究課題に取り組んだ.これにより,コンプライアント機構によりモーフィングが実現できる見通しを得た.

2 研究の目的と背景

航空機翼の形状をシームレスに変形させるモーフィング技術は,揚力向上と空気抵抗低減による飛行効率向上とそれにともなう燃料費削減という経済的な効果,さらには騒音低減に寄与する技術として,航空機分野の重要な課題と位置づけられている.例えば,経済産業省が発表している航空機分野の技術戦略マップにおいて,モーフィング技術は2030年頃までに完成すべき主要技術課題とされている.また,航空分野における日欧関係強化のために設立されたSUNJET IIが作成したロードマップにおいても研究開発課題の一つとされている. 本研究では,モーフィング変形を実現する内部機構として,コンプライアント機構を考える.コンプライアント機構とは,構造の適切な場所に柔軟性を付加することで,ヒンジを実現する機構である.ヒンジのための部品を必要としないため,ガタや摩擦,緩みなどを排除でき,部品数の削減,軽量化など多くの利点がある. モーフィング翼実現のためには,「どのような形状に変形させるべきか」,「その変形をどう実現するのか」が重要となる.そこで,本研究は,コンプライアント機構を用いたモーフィング翼の設計法を構築することを目的とし,そのために最適設計技術を用いた二つの設計法を構築する.一つは翼としての空気力学性能が最適となる翼のモーフィング(変形)形状を求める形状最適設計であり,もう一つはその最適な変形形状を実現するための内部構造であるコンプライアント機構の最適形態を構造力学の立場から求める.

3 研究内容

コンプライアント機構を用いたモーフィング翼の設計法を構築するために,以下の研究に取り組んだ.

(1)空気力学性能に対する最適なモーフィング形状を求める最適設計法の開発

空気力学的に最適な翼の外形状を求めるための最適設計手法を構築した.ここでは,モーフィング部分の翼形状をNURBS曲線でモデル化し,その通過点座標および迎角を設計変数とし,最大揚力係数を最大化する形状および揚抗比を最大化する形状を求める手法を構築した.

計算効率向上のために,近似最適化法としてRBFネットワークを採用し,空力解析の呼び出し回数を大幅に削減することができた.さらに,翼形状としてふさわしくない形状に対する空力解析を避けるために,タブーサーチの概念を導入した.これにより,探索効率を大幅に向上させることができた.得られたモーフィング形状の例を図1に示す.後縁側60%の領域を舵角20度でモーフィング変形させた場合の揚力係数を最大化する形状および揚抗比を最大化する形状を示している.  

モーフィング翼最適形状の一例

図1 モーフィング翼最適形状の一例

(2)コンプライアント機構を用いたモーフィング翼内部構造の最適形態を求めるトポロジー最適設計に関する研究 モーフィング翼の内部機構であるコンプライアント機構の最適形態を求めるために,レベルセット法に基づくトポロジー最適設計法を用いた手法を構築した.通常のコンプライアント機構は,力点に与えた荷重に対して,作用点での変形が大きくすることを目的として最適化を行う.これに対し,モーフィング翼は,翼の表面形状が理想の形状となることを目的とする必要が

ある.また,空力特性を考慮すると,変形形状を理想形状に近づけるだけでは不十分で,翼表面に局所的に凹凸が出ないようにするなどの工夫が必要となる.これらを考慮した定式化を行い,コンプライアント機構としての最適形態を求める手法を構築した.開発したプログラムで求めた最適形態の一例を図2に示す.これは翼の後縁側であり,構造部材が配置された箇所が黒,空洞を白で表している. また,3次元プリンターを用いて簡易モデルを作成し,得られた最適形態の妥当性を確認した.さらに,今後の実験計測モデル作成に対する課題を明らかにした.(図3(a), 図3(b))

モーフィング翼内部構造のコンプライアント機構の一例

図2 モーフィング翼内部構造のコンプライアント機構の一例

3次元プリンターによるモーフィング翼コンプライアント機構模型制作

図3(a) 3次元プリンターによるモーフィング翼コンプライアント機構模型制作

3次元プリンターによるモーフィング翼コンプライアント機構模型制作

図3(b) 3次元プリンターによるモーフィング翼コンプライアント機構模型制作

4 本研究にかかわる知財・発表論文等

国内学会講演論文

1. 中村 玄, 小木曽 望,「RBFネットワークを用いた翼型形状設計」,日本機械学会 第12回最適化シンポジウム講演論文集, (2016.12), 1205

2. 津田 明, 小木曽 望, 山田崇恭, 泉井一浩, 西脇眞二,「トポロジー最適設計を用いたモーフィング翼の構造形態設計」, 日本機械学会 第12回最適化シンポジウム講演論文集, (2016.12), 1206

3. 中村 玄, 上原 健吾, 小木曽 望, 横関 智弘,「RBFネットワークによる近似最適化を利用したモーフィング翼の形状最適設計」,日本航空宇宙学会 第48期年会講演会講演論文集, (2017.4), 2C14 (期間外の発表)

【国際会議発表論文】

1. G. Nakamura, K. Uehara, N. Kogiso, T. Yokozeki, “Optimum morphing shape design for morphing wing with corrugated structure using RBF network,” 12th World Congress on Structural and Multidisciplinary Optimization

2. A. Tsuda, N. Kogiso, M. Tamayama, T. Yamada, K. Izui, S. Nishiwaki, Optimum design of compliant mechanism for morphing wing structure using level set-based topology optimization, 12th World Congress on Structural and Multidisciplinary Optimization