機能性リポソーム

 リポソームは、リン脂質からなる数10~数100 nmの粒径をもつ微小なカプセルです。生体由来の脂質を用いて作製されたリポソームは安全性に優れ、そのサイズを容易に調節可能であること、および様々な薬物分子を封入できることから、理想的な薬物運搬体と考えられてきました。実際、すでに多くのリポソーム医薬品が実用化され、臨床の現場で使用されています。   f-lip
 リポソームのもう一つの特徴は、機能性分子・材料と複合化させることで、複合化した材料の機能を反映した「機能性リポソーム」が得られる、という点です。くすりの効果を最大化し、副作用を低減する、という薬物送達システム(DDS)の基本的な概念の実現に向けて、これまでに様々な機能性リポソームが開発されてきました。組織レベル、細胞レベル、もしくは細胞内小器官(オルガネラ)レベルで、薬物の動態を精密にコントロールするためには、リポソームに複合化する機能性分子・材料を、高度なケミストリーに基づいて設計・合成する必要があります。さらに、機能性分子・材料を複合化したリポソームの性能を正しく評価するためには、高度なバイオアッセイ技術が同時に求められます。

 当研究室では、腫瘍組織や細胞内が微弱酸性pH環境であることに着目して、微弱酸性環境で性質を変化させる機能性高分子・脂質の開発と、これらを複合化したpH応答性リポソームのがん治療への応用について研究を進めています。たとえば、酸性環境下でプロトン化して親水性から疎水性に性質を変化させるポリカルボン酸をリポソームに複合化すると、 酸性環境においてリポソーム膜を破壊したり、別の脂質膜と融合する性質を付与することができます。このような機能性リポソームは、エンドサイトーシス(細胞の食作用)によって細胞内に取り込まれると、酸性環境をもつエンドソームと融合して細胞内に薬物を導入するDDS材料に活用できます。

本テーマに関する主な論文