熟練技術者の判断をAIで再現!鋳鉄製造の黒鉛球状化処理工程を自動化

研究紹介

熟練技術者の判断をAIで再現!鋳鉄製造の黒鉛球状化処理工程を自動化

―品質向上とMg使用量削減を両立、開発したAIシステムは現在も工場で安定稼働―

ポイント

◇熟練技術者が経験的に行っていた、品質不良を避けるためにMg歩留まりを「安全側」に予測する判断に着目し、分位損失を用いた機械学習手法を開発。

◇約45,000件の実操業データと熟練技術者の暗黙知をAIに取り入れ、Mg歩留まりを高精度に予測。研究成果に基づく黒鉛球状化処理装置およびMg投入量の決定方法について特許を取得。

◇栗本鐵工所加賀屋工場で長期実証を行い、熟練作業者による操業と比べて、Mg濃度の下限外れ率を3.37%から2.21%に低減すると同時に、Mg使用量を1.4%削減。開発したAI予測モデルと制御システムは現在も継続的・安定的に稼働。

概要

水道管などに広く使用されているダクタイル鋳鉄は、溶かした鉄にマグネシウム(Mg)を添加し、内部の黒鉛を球状にすることで、強度、延性、靱性などの優れた機械的性質を得ています。この工程は「黒鉛球状化処理」と呼ばれ、製品品質を左右する重要な製造工程です。

しかし、Mgは溶湯中に安定して残りにくく、投入したMgのうち実際に鋳鉄中に残る割合である「Mg歩留まり」は一定ではありません。Mg歩留まりを実際より高く予測すると、Mgの投入量が不足して品質不良につながる一方、低く予測し過ぎるとMgを過剰に投入することになり、製造コストが増加します。そのため従来は、熟練作業者が溶湯の成分や温度、過去の操業状況などを総合的に判断してMg歩留まりを設定していました。

大阪公立大学大学院 情報学研究科の上杉 徳照教授らの研究グループは、この熟練技術者の判断方法に着目しました。

通常、数値を予測する機械学習では、予測値と実測値との差を平均的に小さくする「二乗誤差」が広く使われます。しかし、Mg歩留まりでは、予測を高く外す場合と低く外す場合とで意味が異なります。予測値が実際より高いとMg不足による品質不良につながりますが、低い場合にはMgを多めに投入するため、品質は確保できるもののコストが増加します。

そこで研究グループは、予測値が実測値より高い場合と低い場合の誤差を異なる重みで評価できる「分位損失」を用いた機械学習手法を開発しました。これにより、熟練技術者が経験的に行っていた「品質不良を避けるためにMg歩留まりを安全側に予測する」という判断をAIで再現できるようにしました。

さらに、熟練技術者への聞き取りから、現在の溶湯の状態だけでなく「前回や前々回の処理結果を参考にしている」ことを明らかにしました。そこで、溶湯の成分や温度などのプロセスデータに加え、前回および前々回のMg歩留まりや処理条件などをAIに学習させました。その結果、これらの暗黙知に相当する情報を加えない場合には、実測値と予測値の相関係数が0.46だったのに対し、加えた場合には0.85まで向上しました。

AIによる黒鉛球状化処理工程の自動化に関する研究概要図
研究概要図(生成AIを用いて作成)

また、この研究成果に関連して、過去の操業実績から処理後のMg含有量またはMg歩留まりを予測し、その予測結果、目標とするMg量、処理する溶湯量などをもとにMg投入量を決定する技術を含む「黒鉛球状化処理装置、学習装置、および、マグネシウム投入量の決定方法」が特許第7456592号として登録されました。

その後、この研究成果をもとに、栗本鐵工所ではダクタイル鉄管を製造する加賀屋工場の黒鉛球状化処理工程にAIを実装しました。約45,000件の過去の実操業データを学習に利用し、現在の処理条件だけでなく、前回・前々回の処理条件やMg歩留まりなども入力してMg歩留まりを予測するシステムを構築しました。

3か月から1年間にわたる長期実証では、条件ごとに約900~4,000杯の溶湯について、AIが予測したMg歩留まりに基づいて実際の球状化処理を行いました。その結果、最終的に採用した条件では、Mg濃度が品質上の下限値を下回る「下限外れ率」を、従来の熟練作業者による操業の3.37%から2.21%へ低減するとともに、Mg使用量を従来比98.6%まで削減しました。すなわち、品質向上と原材料使用量の削減を同時に実現しました。

現在、開発したMg歩留まり予測モデルおよび制御システムは、栗本鐵工所加賀屋工場で継続的・安定的に稼働しています。基礎的な機械学習手法の開発から、特許取得、工場での長期実証を経て、実際の製造工程の自動化につながった成果です。

研究者コメント

製造現場の熟練技術者は、単に過去のデータを平均的に見て判断しているわけではありません。品質不良を避けながら、原材料を使い過ぎないようにするという、長年の経験に基づいた判断を行っています。

本研究では、その判断を聞き取りによって明らかにし、「前回や前々回の処理結果を参考にする」という暗黙知をデータとしてAIに取り入れるとともに、分位損失を用いることで「安全側に予測する」という判断そのものを機械学習に組み込みました。

研究室で予測精度を検証するだけでなく、実際の製造工場で長期間使用し、熟練作業者と同等以上の品質を維持しながらMg使用量を削減できたことは大きな成果だと考えています。現在もシステムが実際の製造工程で安定して稼働しており、AIによる熟練技術の継承と製造工程の自動化の一例になりました。

今後も、材料工学の知識とAIを組み合わせることで、熟練者の経験に支えられているさまざまな製造工程の高度化・自動化につなげていきたいと考えています。

上杉 徳照 教授

上杉 徳照 教授

掲載誌情報

基礎となった機械学習手法

【発表雑誌】鋳造工学
【論文名】分位損失を用いた機械学習による黒鉛球状化処理におけるMg歩留まりの予測
【著者】福島 瑞貴、上杉 徳照、辻川 正人、堤 親平、小川 耕平、澤田 健二、中本 光二
【巻・頁】第94巻、pp. 69–75(2022)
【掲載URL】 https://doi.org/10.11279/jfes.94.69

実工場への実装・自動化

【発表雑誌】クリモト技報
【論文名】黒鉛球状化処理工程自動化AIの開発
【著者】小川 耕平、澤田 健二、上杉 徳照
【巻・頁】No. 75、pp. 7–12(2026)
【掲載URL】 https://www.kurimoto.co.jp/technology/data/75/tr75-report02.pdf

特許情報

【特許番号】特許第7456592号
【発明の名称】黒鉛球状化処理装置、学習装置、および、マグネシウム投入量の決定方法
【発明者】上杉 徳照、小川 耕平
【特許権者】株式会社栗本鐵工所、公立大学法人大阪
【出願番号】特願2020-054703
【公開番号】特開2021-155772
【掲載URL】 J-GLOBAL 特許情報

研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 情報学研究科
教授 上杉 徳照(うえすぎ とくてる)
TEL:072-254-9483
E-mail:uesugi[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs09
  • SDGs17