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2022年9月21日

  • 研究

関節リウマチ患者の低栄養状態の診断に対する炎症と疾患負荷の判定の影響を検証した内容がClinical Nutrition ESPENに掲載されました。

2018年に、各国の臨床栄養学(病気や病態に対する栄養管理などを考える学問)会が合同で、低栄養の診断基準としてGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準を発表しました。GLIM基準では、➀低BMI(BMIは体重を身長の2乗で除した指数)、②一定期間における体重減少、③低筋肉量のいずれか1つに該当することが低栄養の診断に必須となります。また、単にこれら3つの表現型のうち1つ以上に該当するだけでは低栄養とは診断されず、これら3つの表現型の原因となる要因として、➀一定期間内のエネルギー・食事摂取量低下あるいは消化吸収能の低下等、②炎症や疾患による負荷のうち、いずれか1つが該当することで低栄養と診断されます。すなわち、表現型とその原因が合わさることで、初めて低栄養として診断されるということです。 GLIM基準では、低栄養の原因のうち➁炎症や疾患による負荷において、どのような場合に炎症や疾患による負荷として判断するかは、疾患別には明確に示されていません。そのため、今回我々は炎症性疾患の一つである関節リウマチ(RA)に着目し、女性RA患者135名を対象としたGLIM基準による低栄養の診断を行い、炎症や疾患による負荷の条件を3パターンに分けて低栄養を診断することで、低栄養に該当する患者割合や、低栄養と診断された患者群(低栄養群)と低栄養と診断されなかった患者群(非低栄養群)の血液検査の栄養指標、低栄養と関わる要因との関連性にどのような影響が生じるかを検証しました。3パターンの内訳として⑴血液の炎症マーカーが一定の水準で上昇していること、⑵関節リウマチの疾患活動性が中等度以上であること、⑶RA患者であることを設定しました。

その結果、⑴の条件では39%、⑵の条件では30%、⑶の条件では71%のRA患者が低栄養と診断されました。また、⑴と⑵の条件では、低栄養群は非低栄養群と比べて血液の栄養指標として、鉄や亜鉛が統計学的に有意に低値を示しましたが、⑶の条件で低栄養を診断した場合、低栄養群と非低栄養群で鉄や亜鉛に統計学的な有意差は認めませんでした。また、(1)と(2)の条件で診断した低栄養は、RAに対する薬剤の使用状況、日常生活動作レベル(ADL)、握力低値、患者自身が自覚する歩行速度の低下と統計学的有意に関連していましたが、⑶の条件で判定した低栄養は、握力低値のみ統計学的有意に関連する結果となりました。

今回の調査では、RAであること自体を炎症あるいは疾患の負荷がある状態として捉えた上で低栄養の診断を行うと、低栄養に該当する患者数が大幅に増えると共に、その条件で低栄養と診断された患者では、血液の栄養指標や、一般的に低栄養状態と関わるADLなどとの関連が見出しづらい可能性が示されました。この結果から、RA患者においては、GLIM基準で低栄養の診断を行う際の炎症あるいは疾患の負荷がある状態の判定条件として、⑴血液の炎症マーカーが一定の水準で上昇していること、⑵関節リウマチの疾患活動性が中等度以上であることのいずれかが適切ではないかと考えられます。

今回の調査は、一時点の研究であること、女性のみを対象としていること、筋肉量の評価法に正確性が欠けることなどの研究上の制限があるため、今後これらの点を考慮した調査が行われるべきですが、GLIM基準による低栄養の診断を行う際の条件設定をRA以外の疾患でも考える必要性があることを示すことができたのではないかと考えられます。

【著者】
Yoshinari Matsumoto, Yuko Sugioka, Masahiro Tada, Tadashi Okano, Kenji Mamoto, Kentaro Inui, Daiki Habu, Tatsuya Koike
【論文タイトル】

Impact of disease burden or inflammation on nutritional assessment by the GLIM criteria in female patients with rheumatoid arthritis

【掲載雑誌】

Clinical Nutrition ESPEN

【論文へのリンク】 

https://doi.org/10.1016/j.clnesp.2022.09.016