BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)の概略

 

 

BNCTの概要

 日本人の年間死亡者数の30%である40万人は、がんが原因で亡くなっています。

がんは日本人の国民病とも言える病気です。

がん治療には、主に三つの治療法(「外科治療」、「薬剤療法」、「放射線治療法」)がありますが、

どれも身体的ダメージが大きいため、負担の少ない治療法が必要とされています。

そこで、今新しく期待されているのがBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)です。

BNCTは、これまで行なってきたどの治療法よりも負担の少ないがん治療法として、早期の実用化が期待されています。

大阪公立大学BNCT研究センターは、ホウ素薬剤に特化した「大阪発・世界初の研究開発拠点」として、

BNCTの更なる発展を目指し、医療に貢献します。  

 

BNCTの治療のながれ

 BNCTでは、まずホウ素薬剤を点滴によって体内に取り込みます。

 体内に取り込まれたホウ素薬剤は、がん細胞に集積します。

 ここでBNCT治療用加速器から中性子を発生させます。この中性子をホウ素薬剤が集積したがん細胞に照射して、

 がん細胞のみを選択的に破壊します。

BNCT治療の流れ

 

BNCTの特長 ―「がん細胞のみ」を選択的に破壊

 BNCTは、がん細胞だけを選択的に破壊する「切らない・痛くない・副作用が少ない」画期的ながん治療法です。

 BNCTは浸潤性の強いがん(多発・再発がんなど)や、現在の外科治療・放射線治療では治療が難しい難治性がんに有効です。  

  ・ 中性子とホウ素の反応を利用しがん細胞を選択的に破壊する。

  ・ 正常細胞にほとんどダメージがなく安全性が高い。

  ・ 個別臓器全体に広がったがんや浸潤がんなど治療が難しいがんにも効果的。

  ・ 照射は1~2回、30~60分程度と治療期間が短い。

  ・ 切開や切除を行わないので患者さんのQOLにも貢献。

  ・ 制がん剤、抗がん剤を用いないので副作用が少ない。

  

BNCT の主な適応がん種

  ・ 悪性脳腫霧

  ・ 頭頚(けい)部がん

  ・ 悪性皮膚がん

  ・ メラノーマ

  ・ 悪性胸膜中皮腫 など

 

 

公立大学におけるBNCT研究の歩み
 1990年

 医薬や農薬に有用なホウ素化合物の合成研究を開始(農学部農芸化学科生物制御化学研究室)

 1993年

 BPAの新規合成法に関する最初の研究論文(Biosci. Biotech. Biochem., 57, 1940-1941)

 1995年

 京大原子炉実験所、神戸大医との共同研究開始

 1999年

 ステラケミファとの共同研究開始、「大阪ベイエリアBNCTコンソーシアム」を組織、ホウ素化合物の開発研究を本格化

 2000年

 ブレーメン大学化学部ガーベル教授との共同研究

 2002年

 「ガン中性子捕捉療法に最適化デザインされたナノデバイスの開発」
 (経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業)

 2005年

 「がん-ホウ素中性子捕捉療法に最適化された10B-ホウ素ナノクラスター化合物の創製」
 (科学技術振興機構 JST の育成研究事業)

 2008年

 「ホウ素中性子捕捉療法用ホウ素薬剤 」 (JSTの独創的シーズ展開事業)
 「ホウ素薬剤化学」寄付講座を設置
 産学官連携機構(発足時)→21世紀科学研究機構に移行(2012年)

 2012年

 21世紀科学研究機構に「BNCT研究センター」を設置
 「先端技術実証・評価設備整備費等補助金」に採択

 2013年

 なかもずキャンパス 関西イノベーション国際戦略総合特区に区域追加
 「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)及びがん診断に不可欠な PETプローブ・18FBPAの合成機器の開発」
 (経産省課題解決型事業)に採択

 2014年

 「BNCT研究センター」(C23棟)の供用開始

 

BNCTの歴史

1932年、チャドウィック(Sir James Chadwick, 1891年~1974年)が中性子を発見しました。
その4年後、ロッヒャー(G.L. Locher)が現在のBNCTの元となる概念を提案し、BNCTの潮流をつくります。
それから14年の時を経て、日本で臨床研究が開始されたのです。
1967年に日本で初めてBNCTが開始されました。
1974年には、第一世代のホウ素薬剤となるBSH、 その13年後には、第二世代の薬剤となるBPAが発見がされました。
BPAは、がん細胞に選択的に集まることでBSHと大きく異なっています。
このBPAの登場によって、BNCTはがん細胞選択的治療としてふさわしいものとなりました。