研究内容

1. カロテノイド生合成調節機構の解明

なぜカロテノイドに注目するのか?

  カロテノイドは葉緑体にクロロフィルとともに存在する天然色素です。カロテノイドの役割は、従来は光を吸収し、そのエネルギーを光合成光化学反応の主体であるクロロフィルに渡す機能が主なものと考えられてきました。しかし実際は、むしろ逆で、光が強すぎる時にクロロフィルから過剰な光エネルギーを受け取って熱エネルギーとして「捨てる」役割の方が重要であることがわかってきました。光合成を行う植物にとって光は不可欠、足りなければ困るが、多過ぎるのは別に構わないのでは?と思うかもしれませんが、多過ぎた光のエネルギーは葉緑体の中で活性酸素を発生させて、植物を傷つけてしまいます。光も強過ぎるとストレス(強光ストレス)となるのです。太陽光のエネルギーは、実は、晴天時は植物が光合成で消費するエネルギーの何倍もの強度をもち、過剰なエネルギーの存在する葉緑体の中で活性酸素を生じさせます。カロテノイドは、この過剰なエネルギーを安全に熱として捨てる、また発生した活性酸素を消去する機能をもち、これら強光ストレスの緩和機能の方が、光を吸収する機能よりも重要であることがわかってきました(図1)。

homepage-figures_過剰光はストレス

 また、カロテノイドは動物にとっても重要です。カロテノイドは活性酸素の消去機能をもつことから加齢予防、抗腫瘍作用、免疫賦活能などの多様な生理機能に関与することがわかっています。しかし動物は自身でカロテノイドを合成することができないため、野菜などから摂取する必要があります。

植物のカロテノイド生合成を研究する目的

 強光下で育てた植物は、弱光下で育てた植物よりも、葉に含まれるカロテノイドの含量が高く、強光ストレス耐性が高いことが以前よりわかっていましたが、植物がどのように強光を感知して、どのようなしくみでカロテノイドを増やしているかについては、不明な点が多く残っています。植物にとっては強光ストレス耐性を高め、動物にとっても重要なカロテノイドを多く含む作物の育成は重要です。私たちは、光によるカロテノイド合成の調節機構を解明することにより、ストレス耐性が高く、栄養価の高い植物を作り出すことを目指しています。

現在研究していること

 強光照射によってカロテノイド含量が増加するしくみについて図2のようなモデルを考えています。カロテノイドは葉緑体で合成されて葉緑体に蓄積しますが、その合成酵素遺伝子はすべて核にあります。強光ストレスは光合成の場である葉緑体で生じることから、葉緑体内で強光を感知して、そのシグナルを核へと伝達し、カロテノイド合成酵素遺伝子の発現を増加させることによってカロテノイド含量を増加させていると考えています。また、光の色によってもカロテノイド合成酵素遺伝子の発現量が変化することから、光受容体からのシグナルも重要です。これら光シグナルによるカロテノイド合成調節のしくみを解き明かしたいと考えています。

homepage-fugure-RQモデル

2. 培養細胞を用いた葉緑体機能の調節機構の解明

光独立栄養培養細胞とは

 植物培養細胞は、無菌である、均質な細胞である、環境条件の調節が容易である等々の研究材料としての長所をもちますが、一般的な培養細胞は、葉緑体が未発達で光合成活性が低く、糖含有培地中で従属栄養的に生育するため、光合成研究の材料としては不適切です。私たちは、光合成活性の高い細胞を選抜することにより、培養細胞ながら無糖培地中で光合成のみによって安定的に生育する光独立栄養細胞を確立しています(図3)。

homegage-figures-APAC

この細胞は培養細胞ながら高い光合成活性をもつことから、葉肉細胞のモデルとして、光合成に対する環境要因の影響を解析するための良い実験系であると考え、光強度やCO2濃度の影響を研究しています(図4)。

homepage-figures_葉と細胞比較

 これまでの研究によって、光独立栄養培養細胞でも植物個体の葉と同様に、光強度の変化に応じてカロテノイド組成が変化すること、またCO2濃度の変化に応じて増殖速度が変化することを見出しています。この細胞を用いた研究結果を応用して、強光ストレス耐性、低CO2ストレス耐性を持つ植物を創り出すことを目指しています。