取り組み事例
2025年5月5日
- 環境マネジメント推進室
教員取材
雑草を科学する‼道草じっくり見ていかへん?
中山祐一郎先生 大阪公立大学大学院現代システム科学研究科 |
現代システム科学域、環境社会システム学類にて身近に生える雑草をテーマに研究している。受験生時代は大学で恐竜について学びたかったが、受験に失敗し農学部へ。当初は植物に興味はなかったものの、大学生時代にワンダーフォーゲル部に入部し、さまざまな場所でサバイバルを経験。食べられる植物を知ることを通じて雑草に興味を持ちだす。のちに雑草学を専攻する研究室に分属し、大学院ではオオバコについて研究。現在中山先生の研究室では、白山国立公園をフィールドとした研究のほか、身近な雑草のDNAバーコーディング*1などをテーマに研究することができる。 |
1:雑草学ってなぁに?
そもそも雑草とは何なのでしょうか?雑草とは役に立たない草であったり、農作物への被害や花粉症を引き起こすなど人の生活に悪影響を及ぼす草のことを指します。しかしこの定義は人の価値認識に基づいています。生物学的には、「人のかく乱*2する場所にいる、人が世話することなく勝手に生えてくる植物」のことを指します。そして、この雑草を研究対象とした学問のことを雑草学と呼びます。
雑草学について詳しく聞かせてください!
雑草学では雑草そのものの性質について研究したり、雑草の管理方法について研究したりします。日本だとマイナーな学問ですが、欧米だと大学の農学部にはかならず研究室が設置されていると言っていいほどメジャーな学問です。なぜなら雑草は農業において作物に悪影響を与える植物であり、その管理方法を研究することで、農作物の収穫量を増やすことができるからです。日本で最初に雑草学の研究室が設置されたのは京都大学であり、そこを卒業した研究者たちが全国の大学で雑草学の研究室を設立していきました。なぜ日本では雑草学はマイナーなのでしょうか?これといった明確な理由はわかりませんが、雑草を科学の対象と認識してもらえていない節があります。「抜けばいいんでしょ」とか「薬をまけばいいんでしょ」と思う人が多いのではないでしょうか。実際に、輸入されてくる家畜のエサとなる穀物の中に外国の雑草の種子が混ざっていることもありましたが、植物防疫法*3ではその制定から70年たった2022年まで雑草は検査の対象外となっていました。
ワンポイント専門用語!!
*1DNAバーコーディング:生物の種を特定するために短いDNA配列を解析し、その種固有の「バーコード」として識別する手法
*2かく乱:洪水や草刈りなど、自然要因・人為要因によって植物を損傷させる外力
*3植物防疫法:1950年に制定された日本に輸入されてくる植物の検査に関する法律
2:故郷は異地
外来種とは何ですか?外来種とは「生物が自力で移動できる範囲を超えて、人為的に持ち込まれた生物」のことです。そのため、外来種は国外由来の生物に限らず国内由来の生物も対象となります(国内外来種)。対となる言葉として、ある地域や生態系にもともと自然に存在していた生物を在来種と呼びます。ここで重要になるのは「外来種が問題なのではなく、それらが引き起こす害が問題」なのです。外来種であったとしても「害」として認識されていない種はたくさんいます。道端に生えている雑草の中にも外来種はいますが、それを悪者と言うかどうかは個人差があったり、そもそもそれが外来種であるということを知らない人も多かったりします。また、「害」の認識というのは外来種に限らず在来生物であってもあります。在来のシカやイノシシなどによる農作物の食害(獣害)がその最たる例です。そもそも「外来種」であったり「生物多様性」という言葉はここ20~30年でできた最近の言葉です。以前は外来植物のことを「帰化植物」と呼んでいました。この言葉の響きから、「害」の認識は感じられず、むしろ日本の環境に適応した・馴染んだといったニュアンスが受け取られます。「外来種」という言葉は、この問題を広く認識させるために環境省が広めた言葉であり、問題認識の流布という点で大きな役割を果たしましたが、「害がある」「国外由来」などの誤解を与えやすいという注意点もあります。ちなみに英語では「エイリアン(Alien)」という言葉を使って、外来種を表現します。
外来種の起源は?
世界的には外来種の起源は海をまたいだ移動が活発になった大航海時代だと考えられています。日本では江戸時代の鎖国政策が終了し、欧米との交流が盛んになった明治時代と第二次世界大戦後に増加していったと言われています。
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外来種問題は植物環境の掛け算!!
外来種問題で私たちが「害」だと感じるものは生物の性質そのものです。そしてその背後には、その性質を発揮することができる環境が存在するのです。そもそも外部から導入された外来種のほとんどは定着することなく消滅していきます。それほど既存の生態系に新しく入っていくというのは難しいことなのです。外来種が生息・生育する場所というのは、彼らにとってそこが自らの性質を発揮しやすい場所だったからなのです。偶然適応しやすい環境であった場合もありますが、人間によって外来種が定着しやすい環境に改変されているケースも多くあります。それは都市開発・農耕などの人間の開発活動である場合もあれば、地球温暖化などの環境問題によって引き起こされる場合もあります。例えば、元来降水量が多い日本では土中の塩類が溶脱して土壌が酸性となり、アルミニウムが溶け出します。これは多くの植物にとって有害であるものの、日本の植物はこの環境にすでに適応しています。一方外来植物はこの環境下では簡単に生きていくことができません。しかし、農業で作物の生育阻害を減らすために酸性土壌に石灰をまいたり、道路舗装のためにコンクリートの被覆を増やしてしまうと話が変わってきます。石灰やコンクリートはアルカリ性であり、これらが土壌に溶け出すと中性に近づいていきます。すると外来植物にとって定着しやすい環境ができてくるのです。このように外来種問題が発生する場所には、その環境を改変し外来種がその性質を発揮しやすいような環境を人が作っている側面が多いのです。外来種問題では、生物の性質と環境のつながりを見ていくことも大切になります。
3:甦れ自然
白山国立公園の景色 |
先生が携わっている自然再生事業について簡単に教えてください!自然再生事業とは、簡単に言うと人が破壊した自然環境を修復し元の自然状態に戻す活動のことです。私は現在、富山県、石川県、福井県、岐阜県の4県にまたがる白山国立公園の外来植物対策を目的とした生態系維持回復事業に関わっていますが、きっかけはふとしたことでした。私は大学院生時代、オオバコについて研究していました。オオバコ自体はどこにでもいる植物なのですが、学生時代たまたま立ち寄った神社の境内の中に、通常より小型のオオバコを発見し、その研究で博士課程を修了しました。そして北海道大学出版会から刊行された『雑草の自然史』という本のひとつの章に博士論文の内容を書く機会を得ました。それから何年も経った頃、白山に侵入したオオバコを調べている石川県の生物学の先生と自然保護センターの研究員さんから連絡がありました。どうやら以前書いた書籍を読んだそうです。先生からは生物学教員と高校生を主体とした自然体験イベントへの講師としての参加を打診されました。また、研究員さんからは、日本固有の高山植物であるハクサンオオバコが白山の外来種であるオオバコと交雑するかどうか質問されました。過去の論文から「交雑しない」と回答したのですが、イベントの講師として実際に白山に訪れてみるとオオバコとハクサンオオバコが同じ場所で生育しており、採取して人工交配した結果雑種ができました。のちに自然雑種も発見され、しかもかなりの数の雑種がすでに繁殖してしまっていることもわかりました。このことをきっかけに白山をフィールドに、ハクサンオオバコについて調査するようになりました。 |
外来種であるオオバコがなぜ白山に定着できるのですか?
たしかにこれまでの話だと、外来種であるオオバコが、高地で気温の低い白山に侵入できたということに疑問を持つかもしれません。これはオオバコのルーツをたどってみるといいです。そもそもオオバコのもととなった植物はヨーロッパの北方に生育していました。身近なクローバー(シロツメクサ)もその例の一つです。実はオオバコをはじめとした北方地域に起源をもつ植物は、気温の低い高山地帯でも生育できる傾向にあるのです。また、高山植物が北海道の低地でよく見られるという話も珍しくありません。とはいえ高山に侵入した低地の植物は生育可能な期間が短い傾向にあります。実際に白山に侵入したオオバコもそうでした。しかし、近年の地球温暖化によって気温が上昇したり、夏の期間が長くなったりしてしまうと、これらの生育可能期間が延びてしまう可能性があります。外来生物の問題と地球温暖化というのは一見すると別の問題に感じられるかもしれませんが、前述したようにしっかりとつながりはあるのです。
交雑種白山のハクサンオオバコ・オオバコ・雑種、それぞれを外見で見分けるのは難しい。 |
白山での調査風景 |
絶滅危機のアゼオトギリ!
アゼオトギリは田んぼのあぜ道に生育する多年草の雑草です。昔は特段珍しい植物ではなかったのですが、あぜ道の改変(コンクリート被覆)などでその個体数は全国的に減少していき、大阪では中百舌鳥キャンパスを含め3か所でしか見られなくなってしまいました。このアゼオトギリは研究室の学生の調査によって発見されました。
キャンパス内のアゼオトギリ アゼオトギリが生える場所 |
中百舌鳥キャンパスに自生する理由キャンパス内でアゼオトギリが自生している場所は田んぼのあぜ道ではありません。しかし、この中百舌鳥キャンパスが建つ以前、この場所は田んぼが広がっていた場所でした。つまりキャンパスが建つ以前に生えていたアゼオトギリの眠っていた種子が、時代を超えて芽吹いたわけです。そう、中百舌鳥キャンパスの唯一この地図上で赤く囲われた場所だけにアゼオトギリが芽を出す環境があったわけです。アゼオトギリが生えている場所はケヤキの北側(写真で見て左側)に限られています。ここではケヤキが日陰を作って日中でも涼しくなっています。またアゼオトギリが生えている場所には凹みがあり、雨が降れば水が溜まりやすいという特徴があります。さらに理由はよくわかっていないのですが、pHが周囲よりやや低くなっており、加えてリン酸が少なく、窒素・炭素が多い環境となっているのです。赤く囲われた場所の中でも微妙にアゼオトギリがいる場所だけ、特殊な条件となっているのです。今後はこのアゼオトギリの保全を現代システム科学域のPBL演習の時間に組み込めたらな、と思っています。 |
4:拝啓大学生様
おとなしい学生が多いですね。というか、授業を受けに来ているだけというか、受け身な学生が多い印象にあります。授業に来なくていいから、せっかくの大学生活、面白いことをしてほしいと思っています。いろいろな場所に行って「こんな植物見てきました!!」とかレポートにしてくれれば、私の授業では成績として評価します。また授業以外でも、言われたことだけをするのではなくて自分でやってみたいことをどんどんやっていってください。その経験や知識が研究を始めたときに活かされます。私自身もそうでした。そして、これは現代システム科学域の学生に限ることかもしれませんが、高校までの文理とかで判断せずに、大学で学んでほしいと思っています。「文系だから」「理系だから」で自分の学びの選択肢を減らすべきではないです。わからないところがあれば授業後に聞きに来てください。また、せっかくいろいろな専門領域の先生が大勢いるのだから、もっと我々と交流していった方がいいです。授業以外で教員と会う機会をつくり、雑談することで新しい知識・知見が手に入ることだってあります。先生を使えばタダで専門知識が手に入るわけですから、我々をもっと使っていった方がいいです。最後に、大学院には進学した方がいいです。現代システム科学域では大学院進学する学生が少ない傾向にあります。大学院では自分で考えて計画し実行する経験を積めます。博士課程までとは言いませんが修士課程まではできるなら進学することを勧めます。
5:遥かなる記者
教員取材班代表:後藤千風 |
中山先生のお話になったことを多くの人に共有したいと思った結果、記事がすごく長くなってしまいました。今回の記事で雑草学や中山先生の取り組み、外来種問題について少しでも興味をお持ちいただけたら幸いです。雑草を見るために、帰り道、道草を見ていきませんか? |
その他本法人の環境パフォーマンス・環境活動は「公立大学法人大阪 環境報告書2024」をご覧ください。
該当するSDGs